ほう、そうかお前......(メガネを指で押さえながら)
あれはっ.......!
最近事あるごとに見る顔。ユカリヨさんだ。
なんで線路の傍を歩いてるんだか。まあ聞けばいいか。
とは言え知り合いの安全な女子に会えたのは主人公補正のおかげだろうか。
ちなみに安全じゃない女子の例はグラ子。
「ユカリヨさん? 井浦だよー」
少し大きめの声で言った。
「はぉ、井浦くーー」
ユカリヨさんは停止したトロッコから降りる俺を視認してからそう言う。
そしてユカリヨさんの目線は俺からその後ろ、まだトロッコに乗っている女神っぽい格好したホネタロウと、サボテンを着た渡辺へと行き....
「ーーん?...........何があったの!?」
うん、驚いてるな。知り合いが変な奴らといたらこうなるのか。
「泉の女神とサボテンが仲間になってる」
「えええっ、泉っ、サボっ、ぇ.........ああ、うん。わかった」
分かったくれたなら何より。
「泉の女神さん?...は井浦くんのクラスメイトだよね。たしかホネタロウくん」
「どうもです」
ホネタロウはトロッコから軽く会釈した。
「どうもです。.....で、そちらのサボテンさんは?」
「渡辺だな。さっき知り合った」
渡辺。サボテン服を着ている男。以上。
「よ〜るぉ〜し〜くぅぅぅ〜」
「......すごい人だね。よろしく」
ユカリヨさんが反応に困ったな。まぁ、サボテンの喋り方ウザいもんな。
「うウッ.....リアル女子が........我公に優すぃだと!?..............グハッ」
サボテンはトロッコの荷台で倒れ、もう一生立たないのであった。サボテンの闇は深い。
喋り方とか直せよ。なんだか俺が悲しくなってくるだろ。
ああ、話題を変えよう。
「まぁ、アレはいい。それよりユカリヨさん町娘っぽい格好だな」
ユカリヨさんは淡い水色と白のワンピースを着て、髪は首元らへんで両サイドに結んで前に出している。
雰囲気とかいつもと結構違う。どうりで後ろから見て気付かなかった訳だな。
「町娘かー。うん、否定はできないよね」
ユカリヨさんは軽く腕を広げて自分の服装を見ながら言う。
「井浦くんは.............樹を切ってそうだね」
うん? 「木」とはニュアンスが違う気がするぞう?どうしてだろう。
ユカリヨさんは何かに気がついたような顔してるけど。
「....おう。まぁ、うん。切り倒したりしたな」
いやあ、超大物っぽい樹も切り倒しっちゃったしね。
「そうなんだ。ところで、市長さんがお城から色々な事を言ってたの知ってる?」
いつもより少しやんわりとした口調だ。なのに何故か押されている感じがする。
「..........知らなくはないな。聞いてたぞ」
市長の演説的なのを聞いたのはかれこれ勇者に会う前の事だな。懐かしい。
えーと、『ここは幻です』みたいな事言ってたな。うん。はい。
「井浦くんは市長さんの言ってた事の意味分かった?」
超分かったわー。分かりすぎてつらいわー。結構察してるよねユカリヨさん。
「ああ、よく分かったぞ。あれが嘘なのか本当なのかは別としてな」
「そっか。うん、大体わかった」
分かっちゃった? まじで?
「なんの話ですか?」
ホネタロウがそう言った。
「いや、こっちの話だ」
ホネタロウ達を先に行かせて、ユカリヨさんに最初からこの状況に至るまで話すか。
「ーーちょっと話が長くなりそうだから先に行ってていいぞ」
「そうですか。ええと、どこへ行けばいいんですか?」
「あの城の前で合流しよう」
木々の間から見える城に指をさして言った。
「了解です。では、カルシウムを下さい」
「はいよ」
缶で出してホネタロウへ渡した。
「では、先に行ってます」
「おう」
そしてホネタロウと倒れたサボテンを乗せたトロッコは、だんだんと加速しながら小さくなっていった。
「いいの?先に行かせちゃって」
「ああ。これから今起こっている事の経緯を話すが、ホネタロウ達に聞かれると色々マズイからな」
「話してくれるのね」
「まあな。一応知ってて貰った方が良いだろうし、知りたそうだしな」
とりあえず話せる人にはちゃんと話しておきたい。
「うん。...信じがたいけど、やっぱり井浦くんがこうしたの?」
「ああ。半分はそうだなーーーー」
[][][][][]
「ーーってワケだ」
幻缶|(仮)の事やらホクロ勇者の事やらを順を追って手短に話した。
ユカリヨさんは頭の中で色々整理してるみたいで、固まっている。
「ん、そうだね。うん、理解はできるんだけど、まず井浦くんの缶が想定外すぎてちょっと.....夢幻を見せる缶、四次元空缶、別にどこでも缶........缶って何?」
「落ち着いてくれ。それは井浦も思ってる。だが考えちゃいけない。考え出すと迷宮だから」
「うん、わかった。重要なのは勇者さんね」
こめかみを指でトントンして思考を切り替えるユカリヨさん。
「そうそう。だからその勇者の能力の手掛りが見付からないから...」「待って」
言っている途中でユカリヨさんに止められた。
「どしたの」
「止めちゃってごめんね。あの、思った事があるんだけど、井浦くんの話を聞く限りその勇者さんってまるでーーー・・・・......」
ユカリヨさんの声は言ってる内にだんだん不安になったのか、最後が小さくなっていく。
だがその小さい声は辛うじて井浦の耳へ入り、心の中で膨らんだ。
上を向いて息を吹く。
あのホクロ勇者....確かにそうだ。
きっとそれがあの違和感の正体だ。
くそう、井浦とした事が言われた時点でそれに気が付けなかったか。失態だ。だが...
「そうだ。ならあの勇者の元から持っている能力は.........うん」
「そうだね..........うん。まさかとは思うし信じ難いけどそれしか考えられない、よね」
ああ。そういう事だろう。
確信できる。あの勇者、あんな成りでとんでもないものを持っていたんだ。
もう一度ユカリヨさんの言葉を思い出す。
『勇者さんってまるで、缶を使ったらこうなる事が分かってたみたい....だよね』
奴は、最初から幻缶を使ったらどうなるかが分かっていたんだ。
それが能力だというなら。それは。
「「勇者の能力は、未来予知」」




