トロッコで走ると落ちるイメージがある(落ちません)
勇者ホクロ野郎の元へみんなで行く事になってから数分。
森の中、ホネタロウの言う方向に木を伐採しながら進んで行っている。
速く行く手段があるとか。
「あ、あれですね」
ホネタロウが指を指す。
トロッコだ。
どこからどう見てもトロッコだ。取っ手っぽいやつを上下させたら動くタイプのやつだ。
「やっと見つ〜けーたぁか、THEホネーよ」
「トロッコで行くのか?」
大丈夫?線路とか。たぶん城に向かっているとは思うけど。
「だって乗ってみたくないですか?」
「まぁそうだな」
トロッコって面白そうだし。ネプ◯リーグ的に。
「はっはぁ〜........正直こわい」
下り坂をショッピングカートに乗って鬼から逃げるよりかはマシだろう。
「カルシウムさえあれば大丈夫でしょう」
「そうだな」
適当に相槌をうつ。
「........まぁいいだるぉう。乗ろうではないか諸君んん〜」
「サボテン選べ。一人でトロッコをこぐか、一人で荷台に乗るかだ」
サボテン服の奴はどっちにしろ一人。
「ほぅ〜、どっちにすぃても一人じゃなぃかよぉぉう」
「あえて乗らないという選択もありますよ、渡辺さん」
「渡辺さんとよぉぶーなぁホーネーオォ〜」
サボテン男の名は渡辺である。全国の渡辺さんすみません。
一応歳上らしい。だが俺は信じない。
「そうだぞホネタロウ、渡辺さんと呼ぶなよ。サボテン投げるぞ」
「うわぁ、勘弁ですね」
サボテンはイタいもんな。
「....良かろぉう、乗ればいいんだるぉう?」
「荷台な」
「まかすぇぇろぉうよぉうっ」
サボテン、お荷物確定。
「じゃあ井浦は乗りながら前方の邪魔な木の枝とか切ったりするわ」
前方に立って斧を構える。
「僕がこぐんですか?」
「カルシウムやるから」
「頑張ります」
カルシウムを缶で出してホネタロウに渡す。
カルシウムで肉体強化されるから結構スピード出そうだね。
ホネタロウエンジン、燃料はカルシウムって所か。
「ふぁあっ〜ハッハッ、出発すぅ〜るがいい」
サボテンが鬱陶しいんだが。
「ではいきます」
「おう」
ホネタロウが取っ手っぽいやつを上下に動かすと、トロッコは進んだ。
後ろに。
「ホネタロウ?」
「あれです。助走をつけようと思ったんです」
助走ってなによ。
ホネタロウはそう言ってから、隣にあるレバーを引いた。
「これで前に行くかと思います」
「頑張れ」
今度はしっかり前へ進む。
もうどうしようもなくグダグダだな。
「加速します」
「あいよ」
俺は返事をしながら、前からくる邪魔な木の枝を切ったり線路上にある石を斧で弾いたりする。
安全が保障されてない感。フシに乗って飛ぶのとはまた別の怖さがあるね。
速さ的には今のところ時速20/kmくらいかな。
「ブレーキちゃんと稼働するか?」
「ブレーキないです」
「そうか........え?」
ブレーキないって言った?
ちょっとまて加速すんなヤメロ。
「ブレーキないです。まるで僕達のカルシウム人生ですね」
馬鹿だわ。こいつ馬鹿だわ。
「そのレバーは!?」
「前進後進を変えるやつですね。走ってる途中で変える事は出来ません」
ダメじゃん。
どうりで石とか枝とか整備されてないと思ったわ。ブレーキないんじゃ誰も使わんわな。
無いっていうか、ブレーキが付いてた形跡はあるし。
まあいい。
ここはサボテン奴にブレーキになってもらおう。
「サボテン仕事だ!その針でーー 寝ちょる」
荷台の方を向くと、トロッコに揺られながら寝ているサボテンがいた。
「寝てますね」
言いながら加速をやめないホネタロウ。
俺は前からくる枝を斧で捌き、缶を出して荷台へ投げる。そして、缶はプシューとガスが出る音をさせた。
「何ですかあれ」
「わさびガス」
寝ている人にやると効果的。
「ぬわぅぉぶッ、 ィっデぇェぇーー!」
叫び声が聞こえてきた。
「さすが井浦さん、カルシウム足りてますね」
「だろ。お前も加速やめてくれ」
「はい。まぁ、下り坂に差し掛かったんで僕が何もしなくても加速しますけどね」
おう。どんどん加速するとか天国製。
まぁ、サボテンにブレーキ頑張ってもらうか。
「わっさびかこれわぁっァ!?ィイタァァぁぃいハナァァァァ↑↑↑↑」
心配だなぁ。いろいろと。
[][][][][]
森の中、斜面を下るトロッコ。
「な〜♪ チョコをかぶったぁぁー♪ たけのくぉーきのこぉおー♪ 両方選ぶあなたに惚れましたぁーーー」
寝ないように歌うサボテン。荷台で空を仰いでいる。
良い声出すし、上手いのになぁ。歌い方がウザい上に歌詞がどうかしてる。
「井浦さん、あれ」
ホネタロウが前方を指差す。
よく見ると、線路が塞がれている。
塞いでいるのは倒れた太めの木........じゃなくて切り落とされた「樹」の枝だな。ここに落ちてたか。
ははっ。木でも樹の枝でもそんなに変わんねぇべ。どっちでもいいわな。
「ああ、大丈夫だ。ぶつかる前に切ればいいんだろ」
「いけます?」
「いけるいける。ホネタロウ、ちょっと下がっててくれ」
そう言いながら斧を、剣士が居合い斬りする時のように構える。
伐採術 井浦式、推して参りまする。
雑っぽく説明しよう。伐採術 井浦式とは、「ぐるっと回ってどーん」みたいな風にやるやつである。
『わんちゃん♪ ちゃんちゃん♪ ねこちゃん♪ ちゃんちゃん♪ うさちゃん♪ーー』
「あなたのぉ♪ その迷いない足どりでぇぇー♪ ゴキ◯ブリで仕留る姿に惚れーましたぁー♪」
井浦のテーマソング(BGM)と、サボテンの歌が同時に聞こえる。なんという不協和音。
集中力がマッハで途切れていきそうだ。
まあいい、前に横たわる障害物を切るだけだ。
「もうすぐきますよ。僕もブブセラ吹いて応援しましょうか?」
「やめてくれ。ぶつかるまであと十秒もない」
無意識に早口になった。
集中。聴覚遮断(したい)。斧の柄を強く握り、膝を曲げる。
ーーー今っ
「ふっ」
体を回しながら構えていた斧を遠心力で振り上げ、その勢いのまま振り下ろす。
手ごたえあり、ビンゴだ。
「っらぁよぃ!」
トロッコは、倒木に当たる事なく進んでいる。後方を見ると二つに分かれ、道を開けた木があった。前方にもいくつかそんな木があるがきっと偶然だろう。
「おお。井浦さんさすがですね」
ホネタロウが拍手をしてくる。
いやぁ、どうもどうも。
「ぉんぅうん? 今ぬわぁにか起きたくぁ?」
そして今頃になって何かあった事に気がつくサボテン。そういう神経憧れるわ。
「いや、障害物になってた木を切っただけだ」
「んなーるほっどぉ」
そしてまた空を仰ぐサボテン。こいつ一体何なんだ。マジで。
この荷台にお湯が入ってたら風呂でくつろぐサボテンの構図が出来上がるな。サボテンのお風呂シーンとか誰得やねん。
そんなことを考えていると、ホネタロウが何か言ってくる。
「井浦さん井浦さん、あっちに城みたいなのが見えますよ」
まじか。
ホネタロウと同じ方向を見る。言う通り、木々の隙間から城が見えた。間違いなく勇者がいたあの城だ。
なるほど、「樹」の枝が落ちてたならもう城の近くか。あんまり時間かからなかったな。
周囲も森から林って感じになったし。
しばらく周囲を見回し、視線を再び前に戻すと、線路から少し外れた所に人がいた。
「人がいるな」
「はい?........あ、本当ですね。止まりますか?」
止まってどうするって話だがな。
線路の傍を歩いていたとする。
そしたら金の斧を持った奴と、女神の格好した男と、サボテン着た男がトロッコに乗って来て、自分の所に止まって話しかけて来たらどう思うか。
普通に嫌だな。
「よし止まろう、サボテン出番だ!」
だが止まる。反応を見たい。
「まー↓かー↓セー↓ロー↓リー↓」
そう言ってセロリ....じゃなくてサボテンは、自分に刺さっている針を二本抜いて、荷台の底を貫通させて地面に刺す。
「おうっらぁ 止まれぇぇーぃいー」
結構な速度で走っていたトロッコが、音を立てながら減速してゆく。
線路の傍にいる人も俺達に気が付いたのか、こちらに顔を向けた。
あらまぁ。




