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主人公補正はいらん所で働く(主人公補正のファンやめます)

「闘うぜ?」



 おまけじゃないレベルのおまけを見せられた井浦だが、四次元空缶にとっては相性がいいので闘うことにする。



「ほう........いいのかね?」


「オーケーカモン。その現実での能力とやらを暴いてやるぜ」



 俺はそれっぽく構える。


 わんちゃんちゃんちゃんと、音楽が流れ始めた。



「いいBGMだな........じゃあ、洗礼だ。逃げられるものなら逃げてみろ」



 そう言われた途端、俺は慄いた。



 ーーいくら何でも大き過ぎるだろ。

 この廊下は広いが、廊下に収まるくらいの大きさの球体なら四次元空缶Lにも入る。

 だが、彼は俺と話をしている間からずっと別の部屋で中性子星を生成し、膨張させていた。


 そして今、膨張を続けていた星がとうとう部屋の壁を破り、その一部分が廊下に顔の覗かせたのだ。その一部を見ただけでもう迫力を感じる。


 

 こ れ は ま ず い 。



 何だ?思考を読んだのか?だが俺が四次元空缶で対処しようと思う前から用意してなきゃこの大きさにはならない。


 くそう、悠長に考える時間が無いな。幻覚缶は使えないし、これを壊したら放射線....下手すりゃブラックホールもできる勢いだろう。そもそも自分を巻き込まずに壊れるかどうか。


 

 ならば残った選択肢は一つ。

ランナウェイ。逃げるぜ井浦。


「逃げてやんよ。じゃあな」



 置き土産とばかりに爆発缶を後ろへ放って城の廊下を全速力。


 後方で爆発音が聞こえたのは、おそらくあの中性子星に対応されたのだろう。やはり思考が?いやもっとヤバい感じのやつだろう。そして、おそらく俺と同じように(おおやけ)には出ていない能力だ。


 まあ後で考えよう。今は逃げるだけだ。

 


 巨大な球体が、床、天井、壁を削り、壊し、まるで悪夢のように追ってくる。


 どうする?フシで逃げるか?........いや、きっと追いつかれる。別にどこでもいい、もっと一気に奴が俺を見失える所までーーー


 ーーー別にどこでも缶。

 これだ。まだ成功していないが、これしかない。これを今作ればいい。


 頼むぜ主人公補正.........いや、そんなものは信じていられない

 この井浦を、そしてこの井浦の能力を信じるんだ。もう基本中の基本だ。



 走りながら、精神を落ち着ける。


 行き止まりに、爆発缶を投げて突き進む。



 いくぜ、出ろ別にどこでも缶!


 

 某ドアのようにピンク色の、フタ付きの缶が出てきた。

 よし、次こそ決める。



空間接続(コネクツ)!」


 フタを勢いよく開け、中を覗き込む。



 だが、その中は四次元空缶と同じ、暗黒が支配していた。

 空間の向こう側など全く見えない。


「くっッ........!」



 悪夢の星はすぐそこまでやってきている。だが風を切って走るしかない。

 どうする。どうするどうするどうする。


 主人公補正付きの井浦くんはここで大逆転の超展開を引き起こすか?

 ごめん無理。できない。


 くそなんでこんな時にしょっぱいんだ俺の能力は。


 “いや、それは違うぜ?”


 聞き慣れた声が、心の中で響いた。もちろん、この声の主はここにはいない。

 走馬灯かな。


 “あると思えばそこにあるんだ。パイナップルだろうが、何だろうが。”

 

 そうだ。


 ”最後まで信じろよ、な?"


 そうだった。



 もう一度、先ほど出した缶を開ける。


 中は相変わらず真っ暗だ。

 だがこれでいい。


 迷わず、缶に腕を突っ込む。


 それに応じるように、缶は大きくなってゆく。


 どどどん!と、手の平サイズだった缶は、ドラム缶のサイズまで大きくなった。

 この中に入ればいいんだな。よし。


 

 玉はもうそこまで来ている。俺は缶の中に被るようにして入った。

 中は暗いが、底のような所に手がついた。


 そのまま軽く押すと、光が漏れ出してくる。これは缶の底じゃないな........フタを内側から開けている?

 全部開けると、上には青空が広がっている。


 空間は、繋がった。



 手を缶の(ふち)にかけて外に出る。


 そこは森だった。

 周辺の木は切られているが。


 いや、そんなことはどうでもいい。今通った缶を覗くと、まだ城の廊下の床が見える。

 缶にフタをして、接合部を蹴って歪ませた。これでこれはもう開かないだろう。


 そして数十秒か数分か、それを睨み続けるが、何も起こることはなかった。



 詰まっていた息が抜けた。


 同時に力が抜けていく。手汗が今更出てきた。死ぬかと思った。

 咄嗟の思いだったので記憶が曖昧だが、一応逃げ切れたようだ。



 ....別にどこでも缶、出せてたんだな。


 そう思いながら、歪んだドラム缶程に大きくなっているピンク色の缶を見る。

 

 それから、周囲を見回した。近くに泉が見える。そして多数の切り株と、並べられた缶。きっとあの缶の中には、切った木が入っているのだろう。

 

 

 間違い無い、最初の森だ。


 そしてこのピンク色の缶は、失敗したと思ってここに置いておいた缶だ。


 つまり、別にどこでも缶は、二つの別にどこでも缶同士をつなぐ缶で、二つ以上の缶があって初めて成り立つのだろう。

 端的に言えば、別にどこでも行けるのではなく、別の缶が置いてある所にしか行けないみたいな感じか。


 これ使って学校に行きたいなら、予め学校

にもう一つの別どこ缶を置いておかなきゃいけないみたいな。


 ぶっちゃけ実験してみたいし、現実で出せるか分からないが、まぁそれは時間のある時にやろう。



 ................やれやれ。


 そんなワケで場所的な意味で振り出しに戻った井浦だぜ。



 


 無事、勇者から逃げてしまった井浦ですが、別にどこでも缶の覚醒回だと思って下さい。


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