様子見は悠長(あとトイレに行きたい)
まだあちら側に動きはない。どうでもいいけどトイレに行きたい。
そんなこんなで、もういい加減フシ呼んで攻撃を仕掛けようと思った所で、城の方に集まっている人々がざわついた。
どうやら、ついに王様が顔を出したようだ。
俺も王さまの顔を拝もうと、少し離れた所から見る。
........ああ、あれが王さまか。
見た事あるわ。普通に知ってる。現実では、井浦たちが住む地の市長やってる人だ。
市長と言っても、井浦たちが住む地区は能力者の育成、研究機関などがあることから特殊地区(東京23区みたいな感じ)に認定されているので、中々のお偉いさんである。二十年以上やってるっぽいし。
久々に見たなぁ。
師匠に頭を下げているのを五回くらい見た事ある。
それと俺の能力についても多少は知ってると思う。師匠に怯えてるのか、何も言ってこないし何も言えないのだろうけど。まぁ、それはどうでもいいか。
とにかく、市長がなんで王さまやってるんだよ。
ってか、王さまって影街の人たちみたいに既存の人じゃないのか? 市長がこの世界の王さまに乗り移った?
うーむ、この世界の設定が未だによく理解できない。
特に王様が幻缶の被害者だとは思わなかったわ。
城から顔を出した王さま(市長)が、拡声器らしきものを持つ。
そして市長の隣に、思惑どおりと言うべきか、勇者が出てきました。ええ。
もう掻っ攫って尋問して幻を解除しろって言いたい所だが、まだ様子を見よう。
『えー、みなさん、大変困惑しているかと思います。ですが、まずは落ち着いて、落ち着いて、聞いてください』
喋り方とかなんか普通に政治家っぽいな。王様らしさの欠片もない。さすが市長。
『これは、能力者が見せている幻です』
!?
『何が目的で、このような事をしたのか、皆目見当がつきません』
これは確実に幻缶の被害者たちに話しているな。
幻だという事を市長に知らせたのはあの勇者だろう。それは分かる。
だが何故言った? それが分からない。
城の方にいる人々がさらにざわめいている。
『ですが、この城の後に立っていた樹が切れる前に、大きな赤い鳥とそれに乗っている人間を確認しました』
ああ。やっぱ見られてたか。
ざわめく人々の中からも同調の声が聞こえる。まぁ、彼らは別の意味で取っているのだろうけど。
『この幻の犯人は、おそらく彼らでしょう』
........ほう。
これを吹き込んだのは勇者だよな。
そいつの言葉を信用する市長も市長だが。
つまり勇者は、この幻は全部俺のせいって事にした訳か。
というか、勇者はとにかく誰かのせいにしたかったのだろう。きっと俺を特定して言った訳ではないと思う。俺の顔を知る筈は無いし。
『ですが安心して下さい。あなた方の安全は、この私たちが守ります。私たちが樹になりましょう。以上です』
お前らの言う犯人がここに忍び込んでいるんだがな。どう守るんだろうな。
結局、勇者は何も言わないで市長と共に退場していった。
うむ。なるほどなるほど。
幻缶の被害者は、これで『なんかよく分からないけど、とりあえず鳥に乗ってたアイツを捕まえよう』ってなる訳か。
見事に容疑者に仕立て上げられたな。
いやぁ、一本取られたわ。
とりあえず一応幻覚缶で姿を偽装して、どっか適当な所でフシ呼んでから市長の所にトイレ借りに行こう。
そんな訳で幻覚缶を出し、自分の姿を他の人々と同じように見えるようにする。
よし、これで大丈夫だ。
あとは呼び出せそうな所でフシを呼び出そう。
そう考えて街の通りを目立たないように歩く。どこか人目に付きにくい方がいいよな。
すると突然、
「おい!アイツ、赤い鳥に乗ってたのと同じような服装だぞ!」
と、叫ぶ声がした。
誰かがどこかで勘違いでもしたのだろう。
俺は知らん顔で行く。叫んだ奴は俺以外の誰かを指した筈だ。なぜなら井浦の服装は幻覚缶で偽装が................
で き て な い 。
ちょ、待って、なんで、っと、ッと....
.....たぶん、ここがすでに幻だから幻覚缶での上書きができないのだ。
という思いに至った時にはもう遅く、俺は人に囲まれてた。
疑いの視線を感じる。冷や汗が出てくる。
『わんちゃん♪ ちゃんちゃん♪ーー』
普通にやべえな。それとBGMが鬱陶しい。
たった1700字程度でピンチっぽくなる井浦でした。