伐採伐採ィ!(大がかり)
『わんちゃん♪ ちゃんちゃん♪ ねこちゃんーーー』
斧を振った直後、青白い一直線の光が斜めに空を突き刺し、謎のBGMが流れ始める。
その中で、斧を振った延長上にある樹の枝がすべて切られていることを確認した。
筋肉増強と全力の一振りでここまで切れたか。上出来だな。
そんなことを思いながら、切った枝と共に落下していた井浦である。今フシに救出してもらったぜ。
「よし、光線が出てるうちに幹も切るぞ」
「了解でス。ところであの光線、下がってきてまセんか?」
確かに光線はどんどん下の方へと傾いてきている。樹の影になって見えないが、たぶん城に直撃しているだろう。やっぱレーザー缶の置く場所が安定してなかったのかな。
まぁ心配は後でしよう。
「きっと大丈夫だ。それよりフシ、低空飛行で幹に突撃してくれ。その勢いで切る」
下の方で、樹の枝がドスンドスンと音を立てて落ちている。それを見ながらフシに聞こえるように言った。
「嫌でス」
「あとで茶碗蒸しあげるから!」
「行きまシょう!」
これはチョロい。
「よし、決まりだ。減速とかやめろよ?」
「了解でス」
フシは俺を乗せて大きく旋回し、そして、そのバカでかい幹に向かって真っ直ぐ加速していく。
俺はフシから慎重に手を放して、フシの背で立膝になり、斧を両手で構える。
あっ、ちょ、怖ス。バランス間違えたら終わる。だが井浦はできるのだ(去勢)
もう少し。右足を立てる。
あと少し。フシが急カーブしやがり、俺だけが幹へと放り出される。
完全に宙へ放り出されたが、それでもタイミングを見計らう。
自由になった脚を伸ばして、腰を曲げ、全身の筋肉を固める。
そして、身体全体を使い、斧の刃を思い切り幹へと当てる。
『ゴスンッ』と響いてくる。
「ーーーッッ!」
腕の筋肉が裂ける、骨が軋む、体が壊れるる前に切れろや公害め。
「ッッッらァ!!!!」
突き刺さった状態になっている斧を手放し、最後のダメ押しとばかりに勢いを利用して斧の刃を幹のさらに深くへ蹴り入れた。
そして地面に体を打ち付けられる。低い所からなので怪我は無いと思うが普通に痛い。
『ーーーわんちゃん♪ ねこちゃん♪ うさちゃん♪ ちゃんちゃんっ♪』
BGMも鳴り終わったし、レーザー缶の放射も終わっている。
「おつかれさまでス」
仰向けになる俺をフシが覗き込む。
「途中で宙に放り出すなよ。俺が井浦じゃなかったら死んでたぞ」
「そうでスか。良かったでスね。........それとあの樹、まだ直立してまスね」
確かに樹は直立したままだな。
「そうだな。........あの食い込んでる斧より上らへんを押してみてくれ」
「了解でス」
フシは風を立てながら羽ばたき、足で幹を押す。
そして、押された樹は、斧が食い込んでいる部分を境界にゆっくりと持ち上がり、綺麗な断面を見せて東側に倒れた。
樹はしっかりと切れていたのだ。
「ヨシャァーオ!!」
よっしゃあ勝った。井浦勝利。確定演出。
起き上がって両手でガッツポーズをした。
喜ぶついで指パッチンをして、レーザー缶の傍に置いた爆発缶を作動させる。
遠くで爆発音が聞こえたのでオッケー。レーザー缶ごと爆発で消し飛ばしてやったぜ。
城の、一番高い塔のてっぺんから三分の一くらいが無くなっているが、俺のせいじゃないと思う。レーザー缶?そんなものもう記憶にございません。
とりあえずまぁ、今のところ順調ではあるな。これで勇者が出てくれば楽に終わるのだが........
主人公補正があるとは言えちょっと上手く行き過ぎている気がするの。
あれだな。一応調子に乗らん方がいいな。
「おつかれさまでス。城下街の大通りらしき所がコミケみたいになってまシたよ」
つまり人で溢れてたって事だろう。
「まぁ、そうだろうな。その人達にとっては、日本で言う奈良の大仏が切れたようなもんだろ」
ちょっと違う気がするが、まぁどうでもいい。
「なるほどでス。この後は何をしまスか?」
うーむ、色々考えたが、ここは派手な事はしないで様子を見た方がいいかもしれない。
「俺は、とりあえず城下街の様子を見てくる」
「ボクは?」
「フシはここで休憩していてくれていい。その色じゃ目立つし、飛んでるのを見た人も多いだろ」
「了解でス」
そんなワケで、井浦は歩いて街まで行きます。
俺もフシに乗っている所を見られていて『こいつ怪しいぞ!』なんて言われたりするかもしれないので、幻覚缶で自分の姿をこう、なんとかする。
「じゃあ行ってくる」
「無事に帰ってこれたら結婚しまシょう」
「やめれ。まじやめれ。露骨な死亡フラグを立てるな。あとそのセリフのチョイスはどうかしてる」
そんな事を言い合いながら、斧を回収し四次元空缶に放り込んで城下街の方へと向かった。
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井浦、城下街へと降臨。
なお、城に近くなるほど人が多いので少し距離を取った場所に、目立たないようにいる。幻覚缶はまだ使っていない。
ここまで来る途中、見覚えのある能高生が数人集まって話し合っているのを見かけた。だがコウキくんのイケメンオーラは感じなかったので干渉不要である。
それはともかく、城前には人が詰め寄せている状態だ。あの城に住んでいるだろう王様がこれにどう対応するかで俺も動きを変えていく。
ここで勇者が出てきてくれれば楽なんだが、城の屋根などが謎の光線によって溶けて無くなった上に、樹まで切られたら、ちょっと出にくいかもしれないよね。
井浦、やりすぎたった気がするよ。まぁ、どうにかなるだろう。
とにかく今はじっと待つんだ。
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.......あんまり待つようだったらフシメテオでも落としておこう。




