フハハ、我が名、蛮勇の伐採者いうらァァ!(自己紹介 厨二病こじらせ風)
街へ行くと言っても、そこまで行く手段が(フシに乗って行くしか)無い。
だがフシに乗るのは普通に怖い。死亡フラグセンサーのおやっさんが「こいつぁ駄目だ」と言っている。
森の中を歩いて行くにも、森の中には危険がいっぱい。それと疲れる。
別にどこでも缶を出して行くという案も出たが、別にどこでもいいワケじゃないので廃案。
結局、なんだかんだ言いながらフシに乗せてもらい、街へ向かった。
飛んでいる途中、フシが燃え始めた所から何も覚えていない。だが井浦は生きている。
そんなこんなで、街らしき所に降臨した。
のだが........
「これは酷いな........」
「全体的に古いでスよね」
古いっていうか、荒廃しているよな。
並んでいるのは半壊した建物ばかりで、石畳の道は所々が禿げてコケの生えた地面が見えている。
.......そしてここ一帯が、バカでかい神樹っぽい木の幹の影になっていて日の光が当たらず、雰囲気まで薄暗い。
そんな薄暗い中で、何故かフシ淡く橙色に光っている。
そんな機能あったの?
「神鳥さんが、戻ってきてくれた..」
「ほんとだ...」
薄暗い中で弱々しい、それでいて精一杯出したような声がした。言ったのはまだ幼い子供達だ。
その声を聞いて、大人達も壊れかけの小屋の穴から顔を出す。
そして「おぉ」と声を漏らしながら拝んだ。
これは.....予想以上に酷いな。みんな痩せ細っている。フシに縋りたくなる気持ちも分かる。
「助っ人を呼んできまシたよ」
「いうらだよ」
取り敢えず、警戒されないように斧などの刃物を四次元空缶に入れてから名乗る。
「....そのひとが、母を、なおしてくれるのですか?」
「そうでスよ」
男の子の質問にフシが答えた。もう決定事項になってるっぽい。
「........えーと、その前に、腹減ってるだろ? とりあえずこれ食えよ」
カンパンを出して、男の子の足元に置いた。
「....でも、あっちのひとたちのほうが、もっとおなかすいてる」
ここで他人の事を考えられるのか。
俺は置いたカンパンの上に、パイン缶やら何やらを積み上げる。
「あっちの人達の分だ」
この井浦にかかれば、飢餓を無くす事ぐらいワケないのだよ。
「満足しないなら幾らでも出す」
「では遠慮なくいただきまス」
「お前には言ってない」
フシには軽く対応しながら缶詰タワーをどんどん作っていく。
「...まぁ、これくらいか。......で、病気の母がいるんだったよな」
「うん....」
こうなってくると、だいたいどんな病気かは予想できる。
少ない食料、日光の当たらない環境。普通に考えて栄養失調や鬱、過労などだろう。
「どこにいるんだ?」
「...あの中」
男の子は崩れかけている木造の小屋を目指している。
「よし行こう」
「ボクも行きまス」
フシよ、お前は大きくなってるから入れないぞ。
「.....フシ、これやるよ」
缶から特大の飴玉を出して渡す。
「ありがとうございまス」
そう言ってからフシは飴を口に含み、中で飴玉を転がす。
フシが飴玉に夢中になって黙っているので、その間に行こう。
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男の子と一緒に小屋の中に入ると、四人の子が横になっている母親らしき人物を囲んでいた。男の子はこの兄妹の長男っぽいな。
この子たちの母親らしき人は、さらに痩せ細っており見ただけで衰弱していることが分かる。
「かあさん、この人がたすけてくれるよ」
うわぁぁ、やめて。俺こういうのに強くないから。しかも地味にプレッシャーかかるんだが。
「どうも、いうらです。通りすがりの、缶を出せる伐採者です」
「.........」
うん、自己紹介と挨拶は大事。
「ちょっと失礼」
かあさんの額に手を当てる。熱はない。
となると、やはり栄養失調か。それしか思いつかないし、それ以外だったらお手上げである。
だが「栄養失調、かもしれない」みたいな事を言えば信用が落ちる。なので、断言する。
「これは栄養失調だ。食べ物をよく食べて、よく寝ればすぐ治る」
こう言った方が、安心してもらえるだろう。
「......少年よ、これを母に食べさせるのだ」
缶を出して渡す。中にあるのは、胡桃のバタークッキー(ちょっと柔らかめ)だ。
バターは疲労や体力の回復、胡桃には栄養が多い。なのでこれがいいかと思っての事である。
「それと、これを」
ただの缶緑茶である。
緑茶には、こう、なんかいい感じのアレがほわーんってしてる気がする。
「ありがとう、ございます」
「ああ。君たちの分も出すから、あとでゆっくり食べればいい」
五人兄妹の分もそれぞれ出して渡した。
「「「ありがとう」」」
はいどうも。
「.....まぁ、その代わりと言っては何だが、三つほど君たちに聞きたい事があるんだ」
目的はこれである。せめて情報収集くらいはしたかったからな。
「うん」
頷いてくれた。
「ありがとう。では一つ目だが、あの外にあるすごい大きい樹は何だ?」
「......ユグドラシルのことですか?」
あの樹、名前はユグドラシルか。エルダフツレだと思ってたわ。一文字も合ってなかった。
「それだ。何の意味があってあの樹生えている?」
「あれは........神樹ってみんないってます。あれが、みんなをまもってくれる。と、王さまがいってるんです」
はぁー、へぇー、なるほど。
「だから、あの樹のせいでここが日陰になっていようと、王様は知ったこっちゃないと?」
「.....そうです。それで、わるいことした人もここに来るので....ぼくたちは........何もわるくないのに................」
違反者もここに連れてこられるってワケですか。そんで治安も悪くなると。
あれ? ここ幻缶で見てる世界の中だよな?どうしてこんなに重いの。
なんか、ゲームや小説に出てくる被害者に同情してるような感じになってる井浦氏。
「わかった。嫌な質問して悪かったな。暗い表情はやめてくれ。二つ目はもっと軽いことを聞こう。えーと、白衣....は着てないかもしれないが、ウザい男の人知ってるか?」
戻ってこないお父さんについて聞いてみたかったが、そんな事できる空気じゃなかった。
そしてカズマさんは、白衣を着ていないとただのウザい人になる事に気がついた。
「しらないです」
だよなぁ。
「じゃあ、鼻の横に大きくホクロがある男の人は?」
一応、幻缶を開けた本人であるホクロの彼についても聞いてみた。
「ゆうしゃですか?」
「................は?」
ゆうしゃ? ゆうしゃって、勇者ですか?
え、いや、まじで?
「はなのよこにある大きいほくろは、ゆうしゃのあかしなんです」
ホクロが勇者の証?笑えるんだが。笑えないけど。
あー、えぇー、まじかぁ。うすうす予想はできてたけど、勇者になってたか。
何? 何クエスト始めるの? スライムでも倒してレベル上げすんの? そんでお姫様でも助けちゃうワケですか。おつでーす。
「....分かった。じゃあ、勇者にはどうやったら会えるんだ?」
「うーん........わかんないです」
「そうか」
まぁ、勇者の倒すべき相手にでもなれば、安易に勇者に会えるだろう。
つまり、魔王にでもなれば勇者は自然と俺の元へ向かってくるわけだ。
しかし魔王にまでなるつもりは無い。
それで会った後、平和的な話し合いでの解決は難しいだろうし。
王様さんと敵対する事になるかもしれないし。
ただ、幻の中の話だろうと夢の中の話だろうと、この子たちが暗い表情してるのに比べれば、大した問題ではないな。
「あのバカでかい樹を切れば、勇者に会えるか?」
「は.......そんなことしたら、ゆうしゃに会うまえにつかまっちゃいます....」
男の子は一瞬驚くようにしたものの、それでも渋る。だがーー
「あれをきってくれるの?」
話を聞いていた男の子の妹が反応した。
よし。
「......質問を変えよう。邪魔で、無駄にでかくて、太陽を隠してしまい、ただ地中の栄分を吸い取るだけの、あの公害を切って欲しいか?」
「........でも、あなたにはつかまってほしくない」
「俺は捕まらないのだよ」
何故なら井浦だから。
「........切れるの?」
「金の斧で一発だな」
まぁ伐採者なんて職業、あの樹を切る為にあるとしか考えられないし。
もし切れなくても缶から薬剤出して枯らす。勝った。
「....でも、ゆうしゃにやられちゃうよ」
「勇者には会えた。それに、井浦はやられない」
まぁ、会えればあとは大丈夫だろう。
「もう一度聞こう。あの樹を切って欲しいか?」
............
「....もし、あなたにそれができるのなら....切って........切って欲しいです」
よぉし。これで心おきなく斧を振れる。
「いいだろう、この伐採者いうらが承った」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「ぶった切れる瞬間、ちゃんと見ていてくれよ?」
「うん」
その声に手を上げて応えてから外へと向かった。
ええと、とりあえず樹を切ればいいのか。
そんで騒ぎを起こせば勇者ホイホイが完成すると。
まぁ、もしそれで奴らを敵に回しても、ただじゃ捕まらないし、やられない。
ここは現実世界ではないのだから、色々な缶(兵器)を試しても多少は問題ないだろう。
まぁ、平和的に話が終われば一番なんだけども。
そんなことを考えながら外に出ると、フシがすぐそこに立っていた。
「フシ、飴は舐め終わったか?」
フシはこちらを見て、ゆっくり嘴を動かした。
「......ちゅぱ..............ちゅぱ」
「............こっち見んな」
そしてしばらくの間、ちゅっぱちゅっぱとフシが飴を舐める音だけが流れていた。




