あの缶が.....ついに........動き出す! (急展開注意)
放課後。俺は特にやるべき事も無いので、全力を下校に注ぐ。
今日は結局、会長に餌を与えた後も屋上で過ごしていた(寝ていた)ので疲れは無い。
学校でもずっと寝ていたいなぁ、などと考えながら家まで到達した。
下校中、グラ子とユカリヨさんに会ったがグラ子は俺を見たと思ったらすぐ顔を反らし、ユカリヨさんはそれに苦笑しながらも小さく手を振ってくれたのは、まぁ余談だろう。
家に入ると、手洗いよりも先にポケットの中にある四次元空缶に『木刀』と書いた付箋紙を貼った。
よし、これでもう木刀事件は起きない。
そういえば、フシはまだ缶の中にいるのかしら。確認しよう。
......いないようだな。今日は晴れてたし、どっか飛び回っているのか。
そう思っていると、書き置きがあった。
『ちがちないでくだちい』と。
それはもう、かなり雑な字で、机の上に、直接、油性で、かなり大きく。
いや、もうね、ツッコミが追いつかない。誰が書いたか、何を書きたかったのか、それは察した。だが何から言えばいいのか分からないので思った事から挙げていこう。
まず、なぜ油性で書かれているか分かったかと言うと、そこにキャップされていない油性ペンが虚しく転がっているからだ。『イウラッシュ......僕はもう乾いたよ。なんだかとっても(略』って油性ペンが言っているのが分かる。
次、よく不思鳥の分際で人間の字を書けたと思うよ。うん。『さ』が『ち』になってるのはしょうがないと思うよ。きっと、『さがさないでください』って書きたかったんだろうね。
ネクスト、結局何がしたかったんだアイツは。
以下省略。
とりあえず携帯電話を確認すると、不在着信が一件、メールが二件届いていた。
全てカズマさんからだ。
メールを開く。そして件名と内容だけ読んだ。
一件目
『件名: 昨日話し忘れた事があるから
内容: 来てね☆ 』
行きたくねぇ。
二件目
『件名: 君の不思鳥を預かってるから
内容: 来てね♡ 』
うわぁ。なんでそこにいるんだ。
結局、行くことになるのかよ。思わず溜め息をついた。
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来ました、通称カズマさんの廃屋。
早速ですが中に入ってみようと思います!
古びた扉を勢い良く開けて駆け込むように入って叫ぶ。
「この井浦を呼んだのはぁーッキミだねっ!?」
言い方のコツは、一息で「呼んだのは」の所を低い声で長く伸ばしてから、最後の息を振り絞るように「キミだねっ」と叫ぶ事だ。
「ボクだが........色々と大丈夫かい?」
「テンション高いでスね」
「上げないとやっていけないんだよ」
カズマさんは、相変わらず白衣姿で携帯ゲーム機を持ち、それをフシが覗き込むような感じになっていた。
「フシよ、あの机の上に書いてあるのは何だ?」
その質問にフシは淡々と答える。
「家から出る時はああやって書くんでスよね? テレビで見まシた」
「色々と違う!」
家から出る時じゃない。家出する時に書くんだ『さがさないでください』は。もう萎えるわ。
「で? カズマさんは何の用だ?」
無理にテンションを上げたせいか、声の勢いが一気に無くなった。
「ああ。あの缶についてだよ」
あの缶?........ああ、あの缶か。存在を忘れていた。そういえば数日前、カズマさんにモーニングコールした時に、試そうって人がなんたらって言ってたな。
「......結果出たのか?」
「いや、まだ試していないんだよ。その人が言うには、やるべき用事を済ませて、心の準備をしてから試したいって」
なんだよ。やってないのかよ。
「ってか、"あの缶"って呼び方は分かりづらいからもう名前決めようぜ」
あの缶ってどの缶だよ!ってなるから。
「詳しい効果が分かってから決めるんじゃないのかい?」
「じゃあ、幻覚幻聴その他諸々(もろもろ)缶|(仮)でいいだろ」
「長いよ。略して幻缶(仮)だね」
「それでいこう」
仮名が決まった所でフシが首を傾げる。
「なんでスかそれ?」
\井浦くん教えて!/
よし、この井浦が説明しよう。
「幻缶(仮)は『幻覚系の缶の効果を全部、一つの缶に詰め込んだら強いんじゃね?』となって作ってみたはいいが、試すのがなんか怖いので他の誰かに試して貰うのがいいだろう。となった缶だ」
「チキンでスね」
「おまえも物理的にチキンだ」
それはさておき。
「試してないなら、なんで呼んだんだよ」
「いや、その試したいって人を一応、キミにも確認して貰おうと思ってね」
カズマさんは携帯ゲーム機を置き、今度はタブPCを取り出して弄り始めた。
「理由は?」
「言ったじゃないか、一応って。キミは学生であり缶屋様だからね。知り合い、もしくは対立した事がある人かもしれないし、もしそうだったら嫌だろう?」
「まぁ、そうだな」
カズマさんはタブPCの画面をこちらに見せて言う。
「顔写真だ。どうだい?」
こっ、これはッ!!(お約束)
「うん、普通の男の人だな。しかも意外と若い」
「鼻の横に大きなホクロがありまスね」
特徴はホクロか。
「知り合いにはいないな」
「そうか。それと色々質問してみたんだけど........聞くかい?」
カズマさんは再びタブPCを弄り始める。
「名前は?」
「それは敢えて聞かなかったよ」
まじかよ。
「じゃあ、どんな幻をイメージして使うとかは?」
「聞いたよ。『つまらない人生を送ってきたから、せめて幻でも、なにか面白い事があって欲しい』だってさ」
ああ、なるほどね。いかにも人間らしい感じだな。
「分かった。それだけでいい」
「はいよ。じゃあ最後に一つ。明日の昼頃に幻缶(仮)を試す事になってるからよろしく」
明日の昼か。俺は学校だな。
「始める直前にメールくれ」
なんとなく、そう言っていた。
「了解」
その言葉を聞いてグッドサインを出してから、俺はフシを回収し、家に帰った。
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翌日の昼、カズマさんからのメールが届いたのを確認した直後の事である。
この街の能力者(俺、フシも含む)は全員、昏睡状態に陥り、全員がとある夢を見たそうな。
最近、俺がよく夢を見るのはそれが起こる事を予知してだったのか、偶然か。それはまぁどうでもいい事である。
ただ、みんな同時に眠り、みんな同じ世界の夢を見た。ホクロの彼が、ファンタジーっぽい世界で勇者になっている夢を。
そんで俺は何になったかと言うと........うん、あれだよ、井浦だよ(白目)




