誰かが大声ですみませんでしたと叫んだ気がしまス(どうしようもない)
話とは全く関係無いですが、つい最近『幻の四十七話』という言葉がトラウマになりました。
ガチャンッ、と。鍵が開かれる音を感知して、屋上で寝ていた井浦は目が覚めた。
ふぅ、なんかパイン缶とリンゴ缶を同時に潰す夢を見たんだ。それと(爆発缶が)誤爆してすごく焦る夢も見た。後者は巻き込んでしまった人々に謝罪。
そんな事を思っていると、次はガチャキィッとドアを開ける音が聞こえた。屋上の鍵を開けて来れるとすれば、十中八九教師だろう。
まぁ、アルミ缶を潰して、それっぽく型を整えて鍵穴に突っ込めば開く鍵なのだが。
はぁ、俺の学校での避難場所もついにバレるのか。
この屋上、見える景色は研究施設とそこらへんの街だけでいい眺めとは言えないが、ちょうどいい割合で日向と日陰ができるので寝やすかったんだけどな。
まぁ教師にバレてもなんとかして来るつもりだけど。
ここに至った教師よ、井浦を回収するなら勝手にしてくれ。俺はまだのんびり寝たい。
目を閉じて手の平を頭の下にやりながら、そんな事を考える。
目を閉じると周囲の音がよく聞こえる。足音はスタスタと近づいてきているな。
どうせだし、足音当てゲームをしよう。
うむ........この足音は、男性教師のものではないだろう。少なくとも、八頃はもっと鬱陶しい足音だ。
女性教師に見つかっても、まぁ、あまり関わりがないしな。音楽と家庭科の授業も選択しなかったし。
だけどこれはもっと....なんて言うか....学校指定の上履き?に近い気がするな。俺は毎日スリッパだからピンとはこないが。
足音が止まる。寝ている状態で上の方、耳から、一・三メートルほどの場所に立たれたって所か。
「君は........井浦くん、だったな」
凛々しい声。目を開け上半身を起こし、顔を後方へ向ける。
そこには生徒会長がいた。女性、学校指定の上履き、距離はここから目測で二メートル、上半身起こした分だけ距離は大きくなったので、足音当てゲームはまぁまぁ合ってるな。合ってても景品とか無いけど。
「井浦くんですよ。なんでここに?」
「一年生が屋上に向かっていくのを見たと言われたんだ。それで、もしやと思って確認を、な?」
うわ今度から見られないようにしなきゃ。
「........だが、まさか井浦くんがいるとは思わなかったよ」
まぁ、井浦だから(適当)
「職員室にある鍵を使わずに屋上に出れるとすれば、それは能力によるものだろう。違うか?」
「....違わないな」
半分は能力、半分は技術で鍵を作って開けたからな。違う訳ではない。
「......君は、缶を作る能力と言ったな。それは本当だな?」
「偽ってもどうしようもないからな」
言いながら外側の底に黒い塗装のあるアルミ缶を出して置く。
次の質問はもう大体予想がつく。なので言える事だけ先に言おう。
「この缶、何色だと思う?」
「銀色、だ」
銀色。アルミ本来の、少し白みがかった銀色。そう、その通りだ。見かけに限っては。
「会長は、この缶を銀色と認知した。だが、この缶の底は........黒色だ」
缶を持って、黒色の塗装のある底部を見せる。
「そんで今、会長は、この缶は銀色と黒色だとメタ認知した。マジックのタネを知った時のように、または隠し絵に何が隠されているかを知った時のように」
会長はきっと、缶で屋上を開けられる鍵を作れる事をご存知でない。缶が材料になる事を知らない。
缶を作る能力は、ただの缶を作る能力でしかないと思ってらっしゃる。
「....つまり、この缶は見えない所では何色か分からないって事で、会長は一部を見て全部銀色と判断してしまっているって事だ」
要するに、俺の能力について勘違いしているから考え直せよ、と。
まわりくどく言ったのは、明確な答えを言っていない事を悟らせない為で、悟ってもそれをを聞きづらくする為である。
会長は、俺が今言った言葉を噛みしめるように目を閉じ、また開けた。
「........実は、朝の騒ぎが終わった後、君についてコウキくんに聞いてみたんだ。だが、『自分で直接聞いた方がいいですよ』と言われてしまってな」
コウキくんなら言いそうではあるな。
「その真意が分かった気がする」
俺の偏見の中では、こう言う場合大体の人が分かってない。
「君と話せて良かったよ」
「そりゃどうも......」
会長はあれだな。言葉が真っ直ぐだな。
なんか俺は会長相手に何を言ってんだって思ってくるけど、そうすると泥沼なので思考を一時停止する。
ああ、おなかすいたな。
「関係無い事を聞くが、人の上に立つ上で必要な力とは何だと思う?」
会長は日陰に座って、唐突なそんな事を聞いてきた。
マジやめてくれ。突然インタビュー、生徒会長は聞いてみたとか困るんだが。
まぁ答えるけども。
「端的に言えば....選ばれる力と選ぶ力だと俺は思っている」
まぁ、会長はまず顔面が神に選ばれたからな。美人って意味で。
「なるほど、深いな。.....うん、納得できる」
発想は浅いが言葉は深い。それがこの井浦である。
「会長は、どっちもあると思うがな」
多くに選ばれたから会長になった訳だし、朝の件でも協力者にコウキくんを選ぶのは素晴らしいと思う。
コウキくんは有能の塊だからな。会長様は選ばれる力を持った人を的確に選んでいる。
「そうかな? 私は、今のままでは君を選べないぞ?」
そう言って会長は、日向に顔を出して静かに笑う。
「そうなのか。残念だが仕方ないな」
言いながら、井浦は氷砂糖入りのカンパンを出して食べる。おいしい。やっぱ学校でもカンパン出せるようになったのはでかいな。
「軽いな!」
ん? 何が軽いと言うんだ。井浦はしっかりと受け答えしたぞ。カンパンか?カンパンが軽いのか?サクサクしてておいしいぞ!
「氷砂糖いります?」
「というか、缶を作る能力ってそういうのも作れるんだな… 氷砂糖、ひとつ貰おう」
俺はカンパンたちに紛れ込んでいる氷砂糖をつまみ出して会長に渡す。
「ありがとう。......うん、懐かしい味だ」
まぁ最近はカンパンとか氷砂糖とか、店であんまり見ないしな。
「あの........もうひとつ貰えないだろうか?」
いいけど、舐めるの早くね?呑んだの?
「...どうぞ」
「ありがとう」
もうこれ完全に餌付けだろ。金取った方がいいかな?
「あの、まだあるか?」
この後、会長は懐いた。




