木刀一本。(どうするんだ)
黙って机の上に出てきたモノを四次元空缶に戻した。
......ふぅ、夢だな。
木刀が出てきたっていう夢を見たんだ。まだ俺は何も出してない。いいな?分かったらハイと返事をハイ。
冷や汗を拭って、もう一回、四次元空缶の中身を出す。
........
冒頭に戻る。
何回やっても、狭い机の上に木刀がひとつ状態になるんだが。
鞄さんは?いらっしゃらない? いらっしゃるのは、需要度皆無の意味わかんない棒きれだけ? あらそう。
えっ、でもこれ、鞄さんのお宅よね? お隣? 鞄さんのお宅はお隣だったの? あらやだ井浦ったら間違えて木刀さんのお宅を持ってきちゃったわ。
....はぁ。
腰に手を当てて、窓の外に広がる空を眺める。あの雲の形、まるで木刀のようだ。
だけど本物がここにあるんだぁ。どうしよ。
よぉし。あの揉め事に乱入してくるかな。
ヤケクソ気味に木刀を持って教室のドアへ向かうと、ドアは俺が開けずとも開かれた。
「それにしても会長かっこよかっ........井浦くん?」
ドアを開けたクラスメイトさんは、井浦の名を問うた。
直前まで話していた事から察するに、揉め事はあの会長が解決したようですね。なんかもうみんな戻ってきてるよ。
そして教室で木刀を持って待ち構えていたようになった俺。
とりあえず叫びたくなったが、井浦は落ち着ぬぁああああぁぁあ!もうほんとやだ。まじやばいどうしよう。
誤魔化そう。
「井浦じゃないヨ。ワタシ、キム・リーリー言うネ」
「どこからどう見ても井浦くんだから。木刀持ってるけど。どうしたの通報する?」
通報しか分かり合う道はないのか。
あー、もういいや。普通に言おう。ありのままの事を話すか。
「いや、この木刀はあれだよ。鞄と間違えて持ってきちゃったんだよ」
「どうしたら間違えるの!?」
「いや普通に間違えるから。あれじゃん。鞄のアレも木刀のアレも(缶に入れた状態なら)大差ないじゃん?形とか」
「あるからね!?すごくあるよ?鞄と木刀の形は全然違うからね!?」
まぁそうだけどね。こう言うしかないんだ。マジで。
「どうしたんですか?まさかカルシウム不足ですか?にぼし食べます?」
近くで小魚の煮干しの袋に手を突っ込んでいるホネタロウがクラスメイトさんに言った。
「そうだぞ。にぼし食えよ。そして俺は木刀ひとつでどう生きればいいか教えてくれカルシウム」
どうすればいいか迷いうら。
「一番必要なのは井浦くんだよね?」
「井浦くんも、にぼし要りますか?」
「ありがとう」
井浦は、にぼしを手に入れた。
もうこれで大丈夫な気がする(錯乱)
[][][][][]
「おい井浦。これは何だ? 授業中に何を出している?」
机の向こうに立った八頃ティーチャーに聞かれた。
俺は机の上に肘をつき、指を組んでいる。そして肘の先には木刀とにぼしが並んでいる。
幻覚缶で誤魔化そうかと思った時にはもう遅かったんだ。
「お前以外、みんな教科書出してるぞ? 今日はあの不真面目なマジメくんだって教科書出してるんだぞ?」
何だよ『不真面目なマジメくん』って。まぁ確かに真締って苗字の人いるけどさ。言い方どうにかしろよ。
「そんで、お前は何だ?」
「井浦だよ」
知ってんだろそんくらい。
「知っている」
知ってんのかよ。
「何故授業中に木刀と...にぼしを出している?」
さぁな。自分でもわかんない。
そしてどう答えても無理だよな。諦めよう。全然大丈夫じゃなかった。にぼしめ、食ってやる。
「木刀しか無いからです」
しょっぱいなぁ、にぼし。
なんかホネタロウが「ああ、にぼしさん、井浦くんの中で良いカルシウムになるんですよ」って祈るように言ってるけど気のせいだろう。
「.....教科書はどうした?」
どう言い訳すればいいかね。まぁそれっぽく言っとくか。
「通学鞄と一緒に家で留守番してる」
........
「なんで木刀がある?」
「井浦と一緒に旅行してる」
そのピッ○ロ大魔王を15°傾けたような怒った顔をやめてくれ。
「ほんとすんません。反省してますから。それと、もうこれ以上、木刀木刀にぼしにぼしにぼ刀にぼし言ってもクドいだけっすから」
「........よし、井浦以外、今日は自習だ。井浦は談話室まで一緒に来い。木刀は俺が持つ」
うっわぁ。まじかそうなるか。そりゃそうなるわな。
というか八頃が木刀持つとかマジ怖いから。この身は法に守られてるのは知ってるけどマジ怖ス。
そう思いながら、八頃に連れられて談話室まで来た。
「お前には何と無く強く言いづらいがな、反省の色が見られないんだ。そして教科書も誰かに借りるとか、授業前に言いに来るとかできなかったのか?」
「ごもっともです」
「俺は、できなかったのか?と聞いている」
うわ面倒くせ。
「できましたね。どうせ大丈夫だろうと思ったのでしなかったですけど」
「今、大丈夫じゃないだろ」
「そうですね。井浦の考えがおしるこぐらい甘かったですね」
die丈夫の呪いを甘く見ていた。
「そう思うなら反省の態度くらい取れ」
「先生、井浦は心から反省してないので反省できません。それともう仕舞うので木刀返して下さい」
反省の態度って何だ?具体的にどうするんだ? こんなん哲学迷宮だろ。そう思ったのでとりあえず木刀を返すよう請求した。
「........お前な、本当にー」
八頃が言ってる間にポケットから四次元空間を出して刀身に触れ、木刀をスポンッと缶の中に回収して、何事も無かったように蓋を閉めてポケットに戻した。
「.........」
「あ、どうぞ続けてください」
「ん? ああ......それより今、何かあったか?驚いた事しか覚えてないんだ」
適当に言っとくか。
「木刀が『じゃあの』と言い残して星になりました」
我ながら意味わからんな。
「........そうか」
信じた!?
「あー....とにかく井浦、しっかりとやれよ?」
うわ適当にまとめた。まぁいいけど。
「ふい」
「それとお前の能力は、色々な意味で頭一つ抜けている。分かっていると思うが、どうか自分の正しいと思う事に使え。力に溺れるなよ」
「大丈....問題無いな」
あぶねぇあぶねぇ。大丈夫って言いそうになってしまった。大丈夫って言うとフラグだからな。これからは問題無いと言おう。これで大丈夫だ。
「ならいい。次からは教科書持ってくること、忘れたら言うこと、敬語を使うこと。分かったな?」
八頃が言い終わると同時にチャイムが鳴った。
「はいよ。ではまた!」
そう言って俺は即急に談話室から出て、早足に歩いていく。
ああ、無駄に疲れたな。まぁ八頃の言ってた事も尤もだったけど。
まぁ、こんな日もあるだろう。次から気をつければいいんだ。そうやって、こう、人のレベルはアップする。
だから、今日は授業サボろう。屋上で寝るんだ。