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井浦の休日 その2 (新しい缶)

「不法進入? ああ、キミがよくするやつだろう?」


 我が家に勝手に上がり込んでいる白衣の男、カズマさんはソファーに深く座って言った。とりあえず用件を聞こう。あわよくば手錠をかけて通報してやろう。


「俺のアレは違うぞ。あれは突入だ。進入ではない。そして何の用だ?」


「ただ遊びに来ただけだよ。ゲームでもやろうかと思ってたんだけど、それどころじゃなくなったね」


 カズマさんは言いながらフシの方を見る。



「昼ドラマの録画予約してなかった事でも思い出したんでスか?」


「ばか言ってんじゃないよ。カズマさんは昼ドラマより萌アニメ派なんだぞ」


 適当だがきっと合ってる。カズマさんのオーラからそれを感じる。昼ドラマの、ふりんふりんするイメージ(偏見)はカズマさんには合わないと井浦は思うのだ。



「........そうなんでスか」


 おぉ、珍しくフシが哀れむような声を出した。萌アニメ舐めんなよ。予言しよう、今日フシの心はぴょんぴょんする。



「色々な意味で違うからね? いや、確かに昼ドラマより萌アニメの方がよく見るけど、その話題自体が違うんだ」


「....あれだな。分かってはいたが、実際に大人の口から『萌アニメの方がよく見る』って聞くと......うん。あれだな」


 いや別にね、大人の、もうすぐ三十路に突入する男が萌アニメを見ても悪い事は一つもないと思うけども。それを口走るのはどうかと思うんだ。俺も気をつけよう。

 間違っても街中で『萌は正義(ジャスティス)! 萌は次代の文化(カルチャー)!』なんて叫んだりしない。



「もう、その話は置いておこうか」


「そうでスね」


 フシがいると話が必ず脱線するな。



「で?カズマさんは結局何が言いたいんだ?」


「ああ、このキミがフシと呼んでいる生物の事を色々聞かせて欲しいんだ。興味深い」


「ああ、いいぞ」


 順を追って話すか。


 動物が出てくる缶が能力で作れるようになった事。

 不死鳥も出せるのか実験してみたところ、フシが出てきて戻らなくなった事。

 色々な謎があるが、不思議だなぁとだけ思って、思考放棄した事。


 それらをそれぞれ、三十文字以内に収めて説明した。


「えー、あー、まとめるとあれだ。フシは不思議って事だ。アイデンティティー的なのが物理的に不思議なんだよ」


 俺は机の上に出した小さいホワイトボードを指で叩く。

 ホワイトボードには『フシの不思議ポイント、その1 きっと不死、その2 よく喋る、その3 よく燃える』などが書かれている。



「なるほど。僕としては色々と調べたい所だけど、まぁ結果が出せるか自信がないからね。そう思っておくよ」


「そうでスか」



 カズマさんが一息ついて再び口をひらく。


「とはいえ缶屋さん、その動物を出せる缶っていうのも気になるんだけど、具体的な説明いいかな?」


「売る気はまだ無いから缶屋って呼ぶな。説明はするがな」


「へぇ」


 期待した目で見ないで下さい井浦は期待をとことん裏切ってゆく体質なんです。



「ええと、出した事のある動物は、鯖、犬、兎、馬、フシ........うん。そんくらいだな」


 それくらいだ。うん。あとは記憶にございません。


「犬は仁王立ちして、前足を腕みたいに使っていて、馬は頭の高さが俺と同じくらいのやつが出た」


「ふんふん、あとは?」


 カズマさんは、ホワイトボードにメモをしながらさらに説明を求めてくる。



「缶から出てきた動物は、フシも含めて有り得ないほどのパワーがある。そんで全員、普通の缶詰のサイズの缶から出てきた。これくらいだな」


「....なるほど。普通サイズの缶から、それ以上の体積の動物が出てきたって事だよね?」


 カズマさんは、顎に手を当てながら言った。


「そうだな」


「じゃあ、その缶には出てきた動物以外の物は入るのかい?」


「いや、入らないと思うぞ」


 鯖が出た時に、戻そうとして缶を弄ったけど特に何も無かった。



「なるほど。なら、"何も入っていない動物缶"なんてものは出せる?」


 何も入っていない動物缶.......ああ、なるほど。


「おお、頭いいな。それ自体が作れたら便利だし。やってみるわ」


 フシが首を傾げているが、今に分かるだろう。


 俺は(フタ)のあるタイプの"空缶"を出した。大きさは普通の缶詰とほぼ同じ、ポケットにも入るサイズだ。


「よし、作ったぞ」


「じゃあ....玄関の傘立てに木刀があったよね。それをその中に入れてみよう(・・・・・・)


「よしやってみよう」



 早速、木刀を持ってくる。



「何をするんでスか?」


「見てろよフシ。こういう事だ」


 缶の蓋を開けて、木刀の先を缶の中に入れる。

 

「「おお」」


 木刀は、缶に底が無いかのように、スルスルと入っていく。

 作れた。何も入っていない動物缶、要約すると、缶の中にその大きさ以上の空間がある缶!なんかすごい。


 そして木刀は、厚さ四センチ程度の缶の中に、刀身の先から柄の終わりまで、全て入ってしまった。



「なるほど。不思議でスね」


 お(フシ)が言うなよ。


 そう思っている間に、俺の手まで缶に飲み込まれていた。


「見てカズマさん、俺の手首から先が缶になったぞ!」


「これはすごいね....幻覚缶とか使ってないよね?」


「ああ使ってない。現実だ」


 そう言いながら、今度はゆっくりと抜いていく。

 そして、何事も無かったように木刀はその先まできっちりと出てきた。


「すごいじゃないか井浦くん、キミは缶の中とは言え空間を捻じ曲げて、広げる事をした....いや、できていたんだ! 空間という概念に干渉できる、世界中が求める能力だよ!」


 言い過ぎじゃないか? まぁ、これはかなり使えそうなのだが。二つ目の(カン)、空(カン)を作るッ!とか言えそうだし。



「大袈裟じゃないか? まぁ凄いとは自分でも思うが。これ、なんて呼ぶか? 四次元ポケッ...缶? 四次元缶?コプターとか出せないけど色々入りそうだし」


 空缶(空間)でも良いと思うが、わざわざルビを振らなきゃいけないようなのは紛らわしいと思ったんだ。


「うん。良いと思うよ。でもまずは色々入れてみよう! 物置き!物置に行って色々入れてみよう!」


「ああ。それと水入れようぜ? どれくらい入るかが正確に分かる!」


「ボクも入りまスかね?」


「とにかく試すぞ」


 男二人と一匹でエキサイトしながら、色々と試してみるのだった。



[][][][][]




 うん。結果を言うと、水は二百リットルドラム缶が約三個分。六百リットル近く入った。

 また、缶の口より大きい物も、『スポンッ!』って言いながら入ったし、出す時も蓋を開けて『出ろ』って念じながら指パッチンで出てきた。手探りでも出せる。それとフシも入ったし、普通に出てきた。


 正式名称|(仮)は、少し変わって四次元空缶(よじげんくうかん)にした。よろしくな、よっちゃん。

 物置きの味方、よっちゃん。凄く片付いたよ物置き。



「さぁ、井浦くん....いや缶屋さん、いくらだい?」


「売らねぇよ? 人間をここに封じ込められるかもしれないし。売る相手は俺が決める」


 そう。この缶、人間一人を行方不明にできる説がある。 フシは入っても普通に出てきたが、フシだから信憑性が無いのだ。


 缶蹴りしよーぜー!おまえ缶な(真顔) ができてしまうかもしれないし。


「僕はダメなのか。参ったなぁ」


 カズマさんは所構わず使いそうだから色々と怖い。爆発缶(強)とかも売った事ないし。



「信頼か金を積んでくれ」


 今のところ、売ろうと思っているのは瀬田さんである。コウキくんにも欲しいって言われたら譲れるが、コウキくんが遠慮しそうだしなぁ。


 それと、この四次元空缶はフシの新しい寝床にする。


「わかったよ。今日は引き下がろう」



 がんばれカズマさん。


「そうしてくれ」


「うん。じゃあ僕はそろそろ帰るよ」


 そう言い、カズマさんは立ち上がる。



「そか。じゃあな」


「どうもでシた」


「じゃあね。面白かったよ」



 俺は一応、外まで出てカズマさんを見送った。

 そして、家の中に入り今日の成果、四次元空缶を見る。


 この便利そうな缶を作れたのは嬉しい。異世界ファンタジーでよくあるアイテムボックス的なのが実現できたぜ。

 だが、アイテムボックスがあるならそれ相応のアイテムも欲しくなる。ロマンは追求されるものなのだ。


 よし、せっかく四次元空缶なんて大層な呼び名にしたんだ。次の目標はアレだな。あの便利道具を缶で作ろう。


 俺は心の中で新しい目標を掲げた。



 どうでもいいですが、玄関の傘立てに木刀を置く井浦については何も言及しないでやって下さい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ノリで能力が成長するのが面白いです。
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