井浦の休日 その1 (井浦クッキング)
井浦の、ほのぼの回です。
赤い空、一人の青年、周囲にはそれを睨む無数の影。
青年は、それらの威圧をすごいなぁと他人事程度に感じる。
「始めよう」
そして、青年は無数の缶を一気に蹴り上げて叫ぶ。
「 蛮 行 ォ 蛮 行 ォ ォ オ オ ! ! 」
獰猛な笑み、周囲で起こる爆発、缶から出てくるのは動物というよりも怪物や化物と表現した方が適切だろう。
見た目は場違いな鳥っぽいのが一匹いるが、まぁまぁ強い。
「まだまだぁまだァまだァァア!!」
それでも、一番の怪物はいかにも悪役らしく叫んでいる青年だ。一体どうした。
撒かれる毒ガス、轟いて止まない爆発音、物凄い勢いで飛んでくる空缶、弾ける塗料は有機物無機物構わず溶かす。
「まだこれだけじゃねぇぞ!?」
さらに缶を無数に出す青年。
「この俺氏、二つ目の『缶』ッ! お前ら全員、缶詰にしてやんよ!」
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「___ 人の夢は終わらねぇ!」
まず見えたのは見慣れた天井。
ベッドの上、俺は井浦、毎日がエブリデイ。よし完璧。
変な夢を見ていた気がするが、んな昔の事はもう忘れた。井浦はいつも前向きなのだ。布団の中でも前向き。なぜかって?俺の見た方向が前だか(略。
ぬぁあ。
内容はよく覚えていないが変な夢を見たせいで朝からテンションを上げすぎた事だけは分かった。なんか『二つ目のなんたらー』って叫んでた気がするけど、どうでもいい。
とりあえず今日も惰眠を貪ろう。そう思って布団の中に潜ろうとする。だが....
「おはようございまス。井浦さん、仮面ラ○ダー見たいでス」
我が領域にフシがいる....だと!?
「どこから入ってきたよ? まじやめて。家の中で燃えられたりしたらシャレにならないから。絶対お前、タンスの角に羽ぶつけて燃えるから」
「通気口からでスよ」
まじでゴキブリの才能あるわこいつ。ってか通気口ってどこよ?換気扇の事か?でもそれはフィルターがあるから無理だろ?考えれば考えるほど不思議が広がる。
「昨日、俺が外に作った缶小屋は?」
「溶けまシた」
もう驚かないぞ。一応、融点が3400℃近くあるタングステン製にして作ったつもりなんだけどな。それが溶けても、もう驚かないぞ。融点がどれだけ高くても、熱し続ければ溶けるもんな。仕方ないよな。
「それで?雨に消火されたのか?」
確か、昨日はずっと雨が降っていた。
「池まで行って消火しまシた」
へぇ、意味わかめ。....そして俺は考える事をやめた。
「....もういいや。だがそれを抜きにしてもだ。仮面○イダー見たいって起こしに来るとかお前、精神年齢いくつだよ?」
なんで俺が休日の父ちゃんみたいな起こされ方しなきゃいけないんだ。なんか悲しくなってくるだろ。
「六歳くらいでスかね?」
まぁそんくらいだろうな。まぁこれ以上寝てても仕方ないし起きるか。
そして、ふと時計を見る。
「....もう仮○ライダー終わってる時間じゃねーか。もうプリ○ュアのクライマックスだぞ。ちょうど今、変身して、杖振って敵殴ってる頃だぞ。そんで必殺浄化キックしてる頃だぞ」
もう特撮番組は終わり、コスプレ変身できる高校生くらいの女子が、日頃の鬱憤を悪い奴にぶつける感じのアニメが大団円の頃の時間なのだ。
「そうでスか」
「そうだ。分かったら家から出てくれ。ほんと家の中で燃えられたら困るから。雨の時には小屋にできる缶出すから。溶かさなければ使えるから」
火事は怖いのよ。
「出なくても大丈夫でスよ。ここでは燃えないでスから。タンスの角に羽ぶつけたりシないでスから。大丈夫でスよ」
「やめて!分かったからフラグを着々と立てるのやめて!」
最近、いつもいつも大丈夫って言ったり言われるとフラグになる。呪いかな? die丈夫の呪いでもかけられているのかな?
いやガチで。
「ありがとうございまス」
やべぇ、そういえば、つい流れで『分かった』と言ってしまっていた。
「....燃えたらすぐ追い出すからな」
「了解でス。それとボクお腹すきまシた」
「お前な....まあいいや」
俺も腹減ったしメシにしよう。そしてまた寝よう。
「んじゃ朝飯作るか。フシよ、そこにあるカセットコンロがあるじゃろ。それをそこの机の上に置いてくれ」
ベッドから起き上がりながら、近くにある卓袱台を指差してフシをパシる。
「了解でス」
そしてフシは、カセットコンロを足で掴んで飛び、そのまま卓袱台の上に置いた。
「よしよし偉い偉い」
「どうもでス」
俺はベッドに座って、能力で出したカセットガスをコンロにセットする。
そして、クッキーなどがよく入ってる、蓋付きの、底の浅い円柱形の空缶を出して、コンロの上に置いて蓋を取り、フライパン代わりにする。これをフライパン缶と名付けている。
よし、やるか。
「井浦のベッドルームクッキング始まるよ」
ベッドルームクッキングとは、寝室兼私室のこの場から一歩も出ないでクッキングするというコーナーです。
この企画は、俺の暮らしは缶だらけ 井浦くんの提供で以下略。
「では進行のフシさん、今回は何を作るんですか?」
「朝ごはんを作りまス」
「そうですね。これが晩ごはんだったらおかしいですもんね? 朝ごはんを作りましょうね。では、まず何をしますか?」
「ホットケーキが食べたいでス」
質問と答えが噛み合わねぇ。ってかなんで俺はフシに任せているんだ? まぁ、こうなったら最後までやるけど。
「はい。ではホットケーキの生地を作ります」
キングクリ○ゾン!(ホットケーキ生地が入った缶を出した音)
「......はい。これでホットケーキの生地は完成です」
「そこは『その生地がこちらです』って言うべきだったんじゃないでスか?」
「ぬぁあ! 確かにそうだな。井浦ミステイク」
完成品がこちらです的な感じに言った方が料理企画っぽかったな。
「では生地を焼きまシょう」
「いえっさー」
キャップ式の缶を出す。中身はサラダ油だ。
そしてそれを少々、フライパン缶にひいて熱してから、そこに先ほど出したホットケーキ生地を、缶の半分くらいの量で丸く流し込む。少し間を空けて、もう一回、半分程度残った生地を流し込む。
これで小さめのが二つ、フライパン缶の上にできた。俺はコンロを弱火にする。
「ひっくり返しまシょう!」
「早えなおい」
まだ全然焼けてないだろ。
「そういえば、どうやってひっくり返すんでスか?」
フシは周囲を見回す。返す為のヘラでも探しているのだろう。
だがそんな大層なモノはこの部屋には無い! かと言って、フライパン缶には取っ手は無いのでフライ返しもできない。ってかやりたくない。
ではどうするか?この井浦がお答えしよう。
「このフライパン缶の蓋でひっくり返すんだよ」
さっき取ったフライパン缶の蓋をひらひらさせる。
「なるほど、できるんでスか?」
愚問だな。
「見せてやろう。この井浦の有能さを」
そろそろ表面が二つとも焼けてきた。プロの技を見せよう。
フライパン缶とその蓋はほぼ同じ大きさだ。つまり、このフライパン缶にある二つのホットケーキを同時にひっくり返す荒技ができるのだ。
「よしやるぞー」
蓋を、素早く二つのホットケーキの下に滑り込みませ、その勢いのまま遠心力を利用して二つともが落ちないように空中で返し、流れるような動きでフライパン缶に戻す。
よしできた。いい感じに焼けてる。
「よく分かんないでスが、たぶん凄かったでス」
ありがとう。率直な意見をありがとう。
「ボクもやりたいでス」
「お前に腕が生えたらやろうな」
フシに腕が生えれば本格的に不思議生命体になるけどな。
「ムキムキな腕がいいでスね」
想像して後悔した。
「ちなみにどこから生やすつもりなの」
「背中でスかね」
なるほど。人が空想などで背中から翼を生やすような感じの逆バージョンか。
想像して後悔した(二回目)
「そろそろ焼けたんじゃないでスか」
「そうだな、食うか」
火を止めて、ベッドの向こうにあるデスクトップの引き出しからプラスチックのフォークを取り出す。
そしてフォークで、フライパン缶の蓋を今度は皿代わりにして盛り付けて、ハチミツ缶を出してホットケーキにかける。
「完成でござる。ほら一枚食え」
ベッドルームクッキング終了。今回はガスコンロとフォーク以外は全部能力でホットケーキを作りました。
「いただきまス」
俺も食うか。
フォークで一口サイズに切って食べる。まぁまぁ美味しい。
「おいしいでスね。ハチミツが」
フシがホットケーキを嘴の形に削りながら言う。まぁハチミツも美味しいけどね。
何も考えずにフォークを動かしていると、いつの間にか全部食べていた。
.....よし、寝よう。
「フシよ、それ食べたら他の部屋に行ってくれ。俺は寝る」
「了解でス」
そして俺は再びベッドの上で横になり、休日の歓びを味わうのだった。
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....昼過ぎか。結構寝たな。
ホットケーキの残り香を感じながら部屋を片付けて、居間へと向かう。
居間の扉を開けると、居間の中にはフシと、もう一人、白衣の男がいた。
「暇だったから遊びに来たよ。そしたらこのこの鳥っぽい生物がいてさ、中々面白いね。ウーパールーパーより面白いよ。いうらくんが出したって本当かい?」
色々言いたい事はあるが、とりあえずこの言葉で迎えておこう。
「.....不法進入って知ってるか? カズマさん」




