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テストはこれで終わりだ(さっさと帰って寝よう)

 同じ手は喰らわないならやってやろう。そう思いながら、フシメテオと自信満々に叫んでやった井浦である。

 再び説明しよう。フシメテオとは、フシをこの場に召喚するついでにドンと一発かまそうぜっていう感じのやつである。


 グラ子はそれに反応して一瞬だけ上を見た。だが、上には何もないし何も降ってこない。上にフシなどいないのだ。



「...何のつもり?」


 フハハハ、何のつもりかって? グラ子は身構えたが、井浦はさらに笑みを深め簡潔に答える。



「反撃のつもりだよ」


 アスファルトが炎と共に派手に噴き上がった(・・・・・・)


 立ち昇る粉塵と炎、アスファルトの欠片。熱風を放ちながら、その中心で燃え盛る鳥っぽい謎生物。フシメテオが上から来ると思ったな? 甘 い の だ よ 。残念だったな、フシメテオは下から来た。

 


 だだ、このフシメテオは、ねこだましみたいなものである。これが本命じゃない。


 俺は立ち込める粉塵に潜ってグラ子の背後まで忍び寄り、足をかけながら、グラ子の髪を結っていたハチマキを、缶と指の間に挟んで取り返した。


「ッ!」


 足をかけられ体勢を崩したグラ子だが、踏み止まる。

 裏拳、缶で受けて軌道を逸らす。

 中段蹴り、裏拳を逸らした腕のまま体勢を低くして肘で受ける。重い。こいつ本気だな。


 持っているハチマキは(くわ)えて、両手にある缶を、次の動作に入りかけているグラ子の手に投げて阻止した。

 そして空いた両手で襟と裾を掴んで足を踏み込み、襟と裾を引くと同時に自分の身体を旋回させ、グラ子の内側の足の踵を自分の足で軽く押すようにする。


 ここまでは柔術で言うところの小内刈りっぽい技である。もう能力ですらない上に、この型であってるか分からない。いや、型破りでこその井浦である。


 グラ子は体勢を完全に崩した。だが襟は掴んだまま(いきお)いだけを殺し、裾を掴んでいた手でグラ子の頭に巻いてあるハチマキも取った。



「反撃から五秒もかからなかったな。俺の勝ちだ」


 掴んでいた襟をそっと放して、咥えていたハチマキと今取ったハチマキの二つをまとめて持ってから、仰向けに倒したグラ子に言う。


「.....五秒以上かかってたわ。それと蹴りを肘で受けるとか有り得ない。(あざ)になったらどうするの?」


 グラ子は目を逸らしながらグチグチと言う。いや、痣になったとしても、それはあなたの蹴りが尋常じゃない程に重かったせいだからね。



『鬼が一名、脱落しました』



「ほら、何を言おうと俺の勝ちって事は変わらん」


「うるさいっ。....次は負けないわ」


 その台詞は負けを認めてる事になるんですがね。

 まぁそう取っていいか。俺の勝ちだね。


「シャァオッ!!」


「やっぱりムカつくわ....」



 その言葉を聞き流して、俺はこの場から立ち去る事にした。何か忘れているような気がするけど大丈夫だ。その何かはきっと空気を読んでくれる。



「空気を読んでまス」


 ........



「うん、偉い偉い。偉いけどもう少し空気を読んで黙っていて欲しかったよフシくん」


 立ち去るシーンが台無しになるだろ。



「頑張って空気を読んでまスってアピールしてたら声に出てまシたね」


「なるほど、いらない。井浦、そんなアピールいらない。もっとこう、あっただろ?」


「では、とりあえずこの場を去りまシょう」


 それもそうだな。

 グラ子の方を見るのがなんか怖い。どんな顔してこの茶番を見てるんだか。


 そう思って前を向いたまま手を挙げて叫ぶ。


「さらばだー!」

「サラダバー!」


 微妙にフシとシンクロしなかった挨拶と共に、俺は場を走り去った。





[][][][][]




「はぁ。疲れたな」


 しばらく走ると、疲れがどっと押し寄せてきたので、地べたに座り込んで、壁に背中を押し付ける。


「そうでスね。ボクもずっと燃えているので疲れまシた」


 燃えてると疲れるってなんだ。なんだこの動物。俺はしらねぇぞ。



「....もう少し燃えてろよ」


 ああまで荒らして、それでもつまみ出されないんだから、燃えた状態なら監視カメラに映っても問題視されてないのだろう。


 そんな事はどうでもいいが、目を閉じると誰かの足音が聞こえてきた。逃走者か、鬼か、どちらにせよ、もう俺は動きたくない。



「隣、いいかい?」


 その声に顔を上げるとコウキくんがいた。足音の正体はコウキくんだったのか。



「いいでスよ」


 なんでお前が答えるんだ。



「俺は逃げるつもりも闘うつもりも無いぞ?疲れてるんだ」


「僕もだよ。もうすぐ終わるだろうし、ここで休むのもありだろう?」


 コウキくんはそう言って隣に座った。



「....あの天井に空いた穴、君が関わっているんだろう?」 


 見上げると、天井の一部ぽっかり空いている。


「あれは....そうだな、グラ子が指パッチンしたらああなったな。俺のせいじゃない。俺は煽っただけだ」


 横から笑い声が聞こえる。


「煽ったのか。それで闘って、勝ったのかい?」


「ああ。まず煽って、俺に直接重力をかけられないようにして、慣れない攻撃も使わせて体力を消耗させたな。それで足技エンドだ。まぁ作戦勝ちだろ」


 汚いとも言う、かもしれないけどな。


「足技....武術を使ったのか。特殊な缶は使わなかったのかい?」


「オーバードライブしたな。あとは....フシは俺の能力なのかは分からないが、フシで牽制した。あとは空缶だけだな」


「なら、ほぼ作戦と武術と空缶だね。井浦くん、前はよくそれで僕と手合わせしてたよね。いや、最近になって武術とかあんまり使わなくなったのかな?」


 そもそも、最近は手合わせ自体してないけどな。

 だが、空缶しか出せなかった頃や、空缶しか出せない状況では、よく作戦と空缶武術でケンカしてたな。


「まぁ、そうかもしれないな。最近は能力に頼ってるし。たまには武術もいいだろ」


「ボクも武術できまスかね?」


 フシ、お前は何を目指しているんだ。現時点でも何か分からないのに。


(フシ)ならできるんじゃないかい?」


「コウキよ、こいつに下手な事言わないでくれ」


 フシが武術とか想像の範囲外だわ。やめてくれ。


「いいじゃないか。君は缶を出せるし、僕は電気を操れる。不思鳥?(ふしちょう)が武術を使えるようになるかもしれないよ?」


 まじやめろよ。頭を抱えたくなる。


 そこで丁度、終わりを告げる放送が入った。


『二時を過ぎました。これにてテストを終了します。生徒は、草原エリアに集まって下さい』



「それはそうと....」


 コウキくんは立ち上がって言葉を続ける。


「天井に空いた穴とか、大丈夫かな? 修理費や責任は誰が取るんだろうね?」


 目が泳ぐ。確かに天井の穴はグラ子のせいだが、そうなった要因は俺が煽ったせいだ。他にも、ユカリヨさんが木の根で掘ったトンネルとか、フシが下から出る為に掘った穴とか、アスファルトとか。


 きっと大丈夫だ。大丈夫大丈夫(錯乱

 あれだろ?修理費は税金で、責任は学校だろ?そもそもこの半壊くらいする事が前提で使われてんじゃないの?


「....っ問題無いね! 問題無いからもう、堂々と戻っちゃうもんね」


 苦笑するコウキくんと共に俺は立ち上がって集合場所に向かうのだった。




[][][][][]




 はい、簡潔に言うと終了後に叱られました。


 おかげで二時半には帰れた筈なのに、今現在の時刻は三時五十分、それでやっと帰り仕度をしている所だ。



 俺は壊れた要因ではあるけども原因ではないのに叱られたんだよな。この事を指摘したら何故かもっと叱られる始末。どうかしてるぜ。


 耳を痛くしながら聞いた事によると、テストであの施設を使う度に、予め、ある程度の金は払っているらしいが、照明とか天井とかが抜け落ちたり、トンネル掘られたりする事は想定外すぎてコインコインがドブンドブンだそうです。

 

 しかも燃えている状態のフシがディスられて、それに対してフシがふざけた返答を繰り返したのでさらに叱られた。

 コウキくんが場に居てくれたからまだ良かったものの、居なかったらもっと酷かっただろう。マジ感謝。


 余談だが、ユカリヨさんも無茶するなと何故か半泣きになりながら叱ってきた。半泣きユカリヨさんは中々可愛かっ(ゲフンゲフン



 まぁ特に弁償とかは無かったからいいけども。捕獲者達に缶詰与えたりとか、鬼のハチマキを二つ取った業績がチャラになったが、元々クラスアップは厳しかったので問題無い。

 ちなみにグラ子とユカリヨさんは奨学金が一、二回分停止になっただけらしい。くそっ、高校ガチ勢め。



 しかし、もう過ぎた事である。今更どうこう言っても仕方ない。諦めはいい方の井浦である。


 今日も含めて中々濃い一週間だった気がするが、思い出す日まで忘れて今日は帰って寝よう。そして明日は休日だし、惰眠に溺れよう。



 そんなことを思いながら外を見ると、雨が降っていた。さっきまでは上がっていたんだがな。また降り始めたか。


 傘持ってないけど、まぁ濡れて帰るのもいいだろう。

 ドラム缶被って帰れば濡れなくて済むんじゃね?って考えは葬り去った今日この頃である。

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