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特技は疾走感の無い疾走(それとイウラカート)

 走る走る。そりゃもう全力で。命懸けで走ってる。


 何故走ってるかって? それはだな、グラ子を煽りに煽った結果、鬼の形相で俺を追いかけてきているからである。まじ色々な意味で鬼。


 なので、走りながら両手に持った缶を頭の上でカンカン鳴らしてさらに煽ってみる。

 イラついてる奴をさらに煽るのがこの俺、井浦だぁ!



 やーい、やーい、鬼さんこっちらー、缶の鳴る方へー。


 横跳び走りでグラ子の方を見ながら、さらにカンカンカンカンとプロの(ワザ)で缶を鳴らしまくる。


 やべぇ、グラ子の奴、どんどん加速してきてる。足が動くペースは大して変わっていないが、一歩一歩で進む距離だけが大きくなってる。自分にかかる重力を減らしてるのかな?

 だんだんと距離は縮められるが、俺は横跳びで逃げながら背中の後ろでカンカンを続ける。



 このとき重要なのは横跳びで走ることだ。これには理由がある。


 一つ、煽ると同時に、どれくらい迫られているか確認しやすくする為。

 グラ子は加速を続け、あと数メートルといった所だ。

 

「カンカンっ、うるさい!」


 もう声が届く距離だ。カンカンうるさいと言われてしまった井浦は、仕方ないのでグラ子の顔の前でカンカンする。



 二つ、バンダナを巻いてある方の腕の方向に横跳びで走る事で、追いつかれたとしても簡単に取れないようにする為。


 横目で一瞬だけ前方確認しながら、伸びてくるグラ子の手の甲を缶で叩く。


「ほれほれっ!こっちの腕にバンダナは無いぞ?」


 グラ子の手には缶で応戦しながらも、さらに加速をしていく。



 そして三つ、進行方向を急に変える為。


 加速すればするほど、急に曲がる事は困難である。ただ、横跳びで走っていれば普通に走って曲がるよりもいける気がする。


 曲がり角。進行方向を、俺から見て真横から正面に変える。つまり身体の向いている方向はそのままで、横跳びから普通のダッシュに変えただけである。もう能力すら使ってない。


 でも、ある程度差をつけられた気がするのでオッケー。シュタタタタと走ってゆく。

 よぉし、もうこれは逃げ切れたな。風呂入ってこよ.....ちょっとまってグラ子速い。


 ちょ、グラ子センパイ、もうここまで来てたんスか? 速いっスね? さっき結構な距離をつけたんでスけどねぇ? もう詰められてるなんてセンパイ、マジヤバいッスね?



「甘いのよ」


 その一言と共に俺の腕に巻いてあるバンダナが取られようとする。


 だが、俺氏走りながら一回転してそれを避けて言う。


「甘いのはお前だ。空缶しか出さないと言ったが、あれは嘘だっ!」


 そして片方の手に持った缶を投げた。


「っ!?」


 そして、俺の投げた缶はグラ子の体に当たる。グラ子怯むが、もちろん何も起こらない。投げたのは空缶である。



「やーいビビった〜。さっきと同じ手に引っかかってやんのぉー」


 また新しい缶を出し、カンカン鳴らして走りながら挑発する。我ながら小学生並みの挑発である。


 だが、このまま空缶だけ出していても手詰まりだ。グラ子が予想以上に速い。

 

 そんなワケで、オーバードライブする事にした。あれやっとけば無理もできる。そう思いながら先程出した缶を開けて吸う。

 それと、とりあえずもう一度言おう。空缶しか出さないってのは嘘だ。


 そんなこんなしてると、また追いつかれる。グラ子は俺が投げつけた缶を握っていた。


「お返しッ!」


 缶を俺に投げてくる。そしてグラ子は投げた直後に指をパチンと鳴らした。

 その刹那の事である。グラ子が投げた缶は、圧縮されたように米粒程度の大きさになった。一瞬のうちに相当な力で圧縮されたのか、やや暖色を帯びて発熱している。一応、スチール製の缶なんだけどね。背中がゾッとする。


 危険を感じ、指パッチンで消そうとしたが、両手は缶で塞がっている。

 なので開けた缶の口に、粒状になったそれを覆うようにして入れて放す。


 そして、缶の中で破裂音が聞こえる。


 全て一瞬の内の出来事だった。

 


 重力で限界まで圧縮して、破裂させた?...たぶんそんな感じだろう。グラボム的なのが生まれたね。



「指パッチン使ってんじゃんかよ」


「何の事? ....でも、そのおかげで初めて能力を使えた気がするわ」


 どんだけ物騒な能力なんだ。と、本物の爆発物を作れる井浦が思っております。



「一瞬の内だけに全ての力をかける事ができたわ」


 なるほどね。一瞬の内だから力が強くなっても仕事量的なものは変わらないと。


 逃げよう。これに尽きる。ちょっと煽りすぎたかもしれないな。後悔はしてないが。



 グラ子減速してる....っていうか普通の走りになってるし、今の内に離れておこう。

 たぶん一瞬の内に重力をかけたんだから、クールタイムとかチャージタイムがあるのだろう。コウキくんの雷速もそんな感じだろうし。

 


「いいねぇキミぃ。よく使えてるじゃない? だけど今までジャガイモしかしなかった分、まだ甘い」 


 走りながらも、まだ煽り続ける。楽しい。

 

 グラ子がまた加速し始めたので、俺はそこに置いてあったスーパーなどでよく見かけるショッピングカートに片足をかけて進む。

 そして、下り坂に差し掛かったのでショッピングカートの籠に乗り込んだ。

 そして両手に缶を持って鳴らす。


 下り坂をショッピングカートに乗って缶を鳴らしながら下る高校生がここにいるぜ!


「鬼が来たぞぅー!逃げろー!」


 そう叫んで周囲を巻き込んでいく。


 そしてさらに追いついてくるグラ子をショッピングカートに乗りながら迎撃する。


 グラ子がまた指を鳴らす。

 すると今度は前方のアスファルトが砕けた。重力で砕けるのかよアスファルトさん。

 カートの前輪は砕けたアスファルトに突っかかり、慣性に従って俺は投げ出される。


 だがオーバードライブ井浦を舐めてはいけない。投げ出される前にショッピングカートを掴み、それごと前方宙返り一回転半してからの足で一旦着地、すぐ跳ねて、またカートに乗り込む荒技を披露。


 直後に後方で物凄い音が聞こえて振り返ると、この施設の天井にあった照明器具と、天井そのものが抜け落ちてきた。一瞬だけ増強された超重力のせいだろう。少し遅れてたらこれの下敷きでしたね。


 それでもグラ子は追ってくる。


 周囲に隠れていた人達が「あいつらやべぇ!」と叫びながら逃げていく。

 あいつらって、俺も含まれてんの?

 


「まだっ!」


 グラ子が叫ぶと、俺が乗ってたカートの車輪の一つが歪んで取れた。どんどん精密になってるな。相当の主人公補正力があるぞこいつ。



「ほっ!」


 不安定になったカートから飛び降りる。


 くっそ。ショッピングカート結構楽しかったのにな。悔やみながら、グラ子と再び睨み合う。



「いい加減に、したらどうなの?」


 ちょっと息切れ気味っすねセンパイ。



「いいじゃない。結構成長してるんだし」


 おそるべき成長速度だよなほんと。


「....うるさい」


 まぁ無駄に意地張ってたり、挑発にすぐ乗ってきたり、乱暴だったりするのが残念なのだが。でもそこらへんも含めて総合的に見ると人間って大体こんなのばっかりだしな。



「ところで、時間稼ぎは終わったか?」


 会話で時間稼いでクールタイム終了するのは定石らしい。


「何の事かわからないわ」


 笑える余裕があるなら大丈夫か。俺は右手を挙げて、缶を出す。


「そうか。じゃあ....」


「同じ手は喰らわない」


 あらら、警戒されちゃったなぁ。



「じゃあ確かめてみよう」


 ニヤリと笑って、缶を持った片手を振り下ろす。

 そしてこう言ってやったんだ。


「 フ シ メ テ オ 」

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