茶番で時間は稼げない(っていうのは嘘かもしれない)
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フシが照れてから、しばらくこの場を支配した謎の沈黙さんと足元で燃えてる奴から来る生ぬるい熱気のおかげで冷静になった井浦だけど、改めて思った事があるんだ。
この状況ヤバい。
何がヤバイかっつーとぉ、井浦の語彙力がマジヤバい。語彙力っていうかぁ、この状況を言葉にして表現するのがもうめんどいこ。マジめんどいこからのダル太郎ぉ〜。
はぁ。
ごめん全然冷静になってなかった。なんか、もう思考がギャル語っぽくなってた。最後意味分かんなかったし。
ちゃんとやろう。俺はそう自分に言い聞かせる意味も含めて声を出す。
「....よぉし、茶番は終わりだ」
「茶碗? 茶碗は終わりって何でスか?」
どうしてそう聞こえたのよ。
「茶碗じゃねぇよ茶番だよ。茶碗は永久不滅だよ」
「そういえばボク、前から茶碗蒸しが食べたいと思っていたんでスよねぇ...」
「どうでもいいわ! あとで茶碗蒸し缶でも出すから。出せるか分かんないけど」
そもそも、何故この状況でフシと茶碗トークをしているんだ。おかげで茶番が終わらねぇ。
フシは相変わらず燃えてるし、コウキくんは「ははは..」って苦笑してるし、グラ子は腕組んで半眼になってるし。後ろを見るとユカリヨさんは微笑で首傾げてるし。
..まぁいいや。とにかく、気を取り直してもう一度言おう。
「茶番は」
「終わりでス」
ドドン!(かっこいいポーズ)
見たか。俺とフシの一体感。初めに俺が言ってフシが続けたという無駄にかっこいい無駄な連携。意外と楽しい。
だが、こうして茶番は終わらせて思う事がある。
やはりこの状況はヤバい。
茶番で時間はやら何やらを稼げたものの、コウキくんとグラ子が前に立っている事に変わりない。
もしここで捕まったら、俺はこの二人を引き連れて、闘争者達に「捕まっちった☆」って言う事になり、結果みんなに叩かれる羽目になるだろう。それは避けたい。
どうするかな。目立つような缶は使いたくない。すると、俺の手札はフシくらいしか残ってない。だけどフシメテオはさっき勢いとノリでやっちゃったし。ってかフシって勝手に乱入してるよな? 教師達につまみ出されるかもしれないじゃん。誤魔化せるかな。
ユカリヨさんが俺と共闘するとしても、やはりコウキくんの雷速に反応できるかどうか。グラ子の重力攻撃されたらもっとやりにくくなるし。
いや、でも、もう一つ手札がある。それで時間を稼げればいけるかもしれない。
やってみるか。
俺はポケットから帯状の布きれを出して、そこでコンクリートを焦がしているフシの上に垂らす。
「このハチマキに」
「見覚えはありまスか?」
ドドン!
俺がポケットから出したのはメガネ鬼くんがしていたハチマキである。
「その言い方続けるのか....まあ置いといて、やっぱり、ハチマキは井浦くんが持っていたんだね」
コウキくんはやはり、これを持っていた事には驚かず、予想通りだと言うように笑った。
「ああ。逃走者と同じように、鬼もこのハチマキを取り返せば、復活できる。そうだろ?」
「ああ」
鬼は元から四人しかいない。一人いるかいないかでも大きく違うだろう。鬼さん側としては是非復活させたい筈だ。だから....
「なら、手荒な事は止して、ちょっと交渉を聞いておくれ。....さもなければ」
「このハチマキを.......っ食べまスよ!」
燃やせよ! せっかくお前、火纏ってるんだから、ハチマキを燃やせよ! なんで食べようとするの? さっきまでいい感じに台詞言えてたじゃん!?
目でそう伝えた。
よし........
「........さもなければ」
「このハチマキを、燃やしまスよ!」
ドドン!
つまり間接的な人質である。何言ってるか分からないかもしれないが、俺も何言ってるか分かんねぇ。
「やり直したね? しかも悪役っぽい!」
いつの間にか隣にいたユカリヨさんが叫ぶように言った。
そこは「汚い」と言って欲しかったが、それ以上に、この下らないコントにツッコミを入れてくれたという事に感激している。
「なるほど。じゃあ一応聞いてみようか」
「........私としてはどうでもいい....というか、その喋る火ダルマの方が気になるけど.......まぁ聞くわ」
おお、グラ子さん不機嫌そうなワリには物分かりいいッスね。助かりゃす。ウッス、イッス、アーッス。
とりあえず適当な事でも言っておくか。
「ええと、まず、その二人でジャンケンしてくれ。そんで勝った方は.....俺達の事は気にしないで先に行ってくれ! 負けた方は...この俺が相手になる!」
よし、なんかそれっぽい台詞が一回で二つくらい言えた。
「さもなければ、このハチマキが燃えかけてまスよ!」
ぬあぁっつ。
マジで燃えかけてたわ。あぶねぇあぶねぇ。ギリギリアウト。端が少し焦げてる。
「....いやまだ大丈夫だ問題無い。うん。確かに燃えかけてたけど、ツイッ○ーの炎上に比べたらこんなの大した事無いから。もう蚊取り線香程度だから!」
落ち着け井浦。
「すごいグダグダだね....」
違うんだユカリヨさん。違わないけど違うんだ。
グダグダなのは七割フシのせいだから。あとの三割は俺かもしれないけど。
こいつ存在がもうグダグダなんだよ。『フシ』じゃなくて『ふし』って感じだから。活字でもグダグダなのが伝わってくるから。
まぁグダグダなのは諦めて、話を進めよう。
「グダグダは生き甲斐だ。それよりお二人さん、どうするか決まったか?」
ただ、まだこの交渉が上手くいく事は無いだろうな。
「燃やされる前に、二人で相手してさっさとハチマキ取り返してから先に進むのはどう?」
グラ子が提案するように言う。
「....まぁ、出来なくは無いね」
コウキくんも苦笑しながら、それに同調した。
うむ。予想通りである。
「交渉決裂か」
この二人には物理的な強さがあるからな。普通に考えて、この交渉は従うより闘った方がいいだろう。
「だが....」
そろそろだ。
遠くから声が聞こえる。
「状況が変われば、考えも変わる」
「そうは、思いまセんか?」
ドドン!
........
『鬼が、脱落しました』
放送の声が告げる。
そして、遠くから勝鬨が響いてきた。
闘争者達は俺の缶詰食ったから、ちょっと調子が良くなってる。それがどれほど影響したかは分かんないが、まぁ、無事勝ってくれたのなら良いとしよう。
さらに、放送は続けて現在の状況を伝えた。
『一時を過ぎました。現在の捕獲者、ゼロ名。現在の鬼、二名』
あらら。グダグダやってるうちに、一時を過ぎちゃったじゃない。
ただ、これは焦らせる要因になったかもしれない。
「あと、一時間で終わるらしいでスね」
「どっちか一人でも、先に行った方がいいんじゃないか?」
ドドドン!
フシも俺も、相手を煽るようにポーズを取って言った。




