鳴かぬなら?(修羅に落とそう、時鳥)
『鬼が一名、脱落しました』
見張りの眼鏡くんが巻いていたハチマキを取ると、そんな放送が流れた。そして....
『全員の捕獲者が脱走し、逃走者に復活しました』
「「「よっしゃぁあ!!!」」」
復活した元捕獲者たちはその放送を聞いて声を上げる。
よしよし。上手く行った。
このエリアで発生させた爆音や、脱走した事の放送。これを聞いた鬼は、何があったか確認する為にここに来る筈だ。
それを予想し、闘争者となった彼らは、ここに残り、鬼が来たら迎撃する迎撃班と、都市エリアを巡回して迎撃班が二人以上の鬼を相手にしないように動く行動班の二つに分かれて行動してもらう事になっている。
「やる事は作戦通りだ。迎撃班も行動班も、とにかく相手を油断させてそこを突けば勝機はある」
俺は闘争者たちに叫ぶように言った。
人数分配や、伝達などは勝手に決まっていったので詳しい事は知らないがな。
俺はもう公園エリアに逃げるしな。
やる事はやったし、あとは放置するのだ。鬼はここに集まるだろうから公園エリアは安心安全だろう。
「んじゃ、後は任せた」
「「「「お元気で!」」」」
なんか俺が旅に出るみたいな感じになってるけど。まぁいいや。行こう。
そう思って数歩行くと、路地裏で闘争者から隠れるようにしているユカリヨさんが見えた。まだそこにいたの。
しかもなんか『へるぷみー』のジェスチャーが出されてるんだ。超高速で繰り返されてる。
爆音缶を鬼が耐えた場合に備えて決めていたジェスチャーなんだが、ここで活用されるとは思わなかった。
闘争者に会いたくないのかな?
素通りしようか一瞬迷ったが、色々と手伝って貰ったので素通りは酷だと思い路地裏へターンライト、ユカリヨさんの所へ行った。
「どした?」
そう小声で尋ねた直後、闘争者たちの方から「ゆかり様はどこー?」「きっとどこかで見守って下さっている!」などと叫ぶ声が聞こえてきた。
そんな闘争者たちの無駄にデカい声がこの路地裏にまで響いた後、ユカリヨさんの困り果てた声が聞こえた。
「本当に....どうしようかなと思いまして....」
いや本当にどうしたらこんなに崇められるの? 砂漠に神木を大量に生やして森にでもしたの?それで地球温暖化を防いだの?
「もう諦めろよ。それか逃げよう」
諦めが肝心なのだ。
「....そうだね」
逃げる事は大切。
「よし、じゃあ逃げるか」
俺は公園エリアを目指して裏路地を進み始めた。ユカリヨさんも後ろからついてくる。
「これからどうするの?」
「言ってなかったか? 俺はやれるだけやったから、公園エリアに逃げる」
でも公園エリアってこっちの方向で合ってるか分かんないんだよな。勘で進んで行くけど。
「闘わないんだね」
意外そうだな。
「当たり前だろ。俺は自分から闘うより他人に闘うよう仕向ける方が、手間と時間はかかるが結果的には楽できると思っているからな」
倒せと依頼された「敵」がいたとすれば、その「敵」と対立してる奴を探して見つけて『缶』を売って倒しに行かせる。
結果お金を手に入れながら、敵はほぼ確実に倒せる。
こうしているうちに、誰かが俺を『缶屋』と呼び始めたんだよな。
最近は調子に乗って、ヒャッハー!!!と言いながら直接ドカンとやっている井浦くんだが、基本的には敵の敵に缶を売って敵を倒してもらうのが缶屋のやり方なのだ。
「意外とそっち系なんだ」
そっち系ってなんだ。
「....まぁ、最近は特攻でも結構いけるようになってるからな。気が乗れば、これからも特攻して行こうと思ってるし」
闘うのが面倒な時は缶を売る。面倒じゃなかったら特攻する。これぞ両刃型!
「特攻って.....また何かするつもりなの?......そういえば昨日、休んでたらしいけど、まさか、何かしてたの?」
「昨日はただ学校をサボっただけだな」
一昨日は拉致られて特攻して瀬田さんと署まで同行したけどな。
まぁそんな事はどうでもいいんだ。
それより........
「それより........ここどこ?」
「えっ?」
「えっ」
道に迷った井浦だよ。
「都会はビルが高くて高くて.....どこに何があるかすらわかんねぇっぺ」
全部同じような建物だからいけないんだよ。方向が分からん。
もう詰んでるよな。将棋でいう詰みにはまったよな。
例えば『自分で判断するんだ。他人の言う事に従うな』って他人から言われたら、その言葉に従っても従わなくても、どっちみち他人の言葉に従う事になるじゃん?そんな感じで詰んでる。
「....どうするの?」
............さぁ。とりあえず進んでおけば良いだろ。
そう思っていた時、ふと前を見ると、向こう側に二つの人影が見えた。
「よし、あの二人に聞いてみよう」
俺は迷わず、その人達に尋ねに行く。
「すんません、公園エリアって、ここからどう行けばいいですかね?」
とりあえず、二人組みの内の一人、優しそうな金髪のイケメンくんに聞いた井浦氏。
「相変わらずだね......」
すると、苦笑気味にそう返された井浦氏。
「あんたは捕獲者場に案内した方がいいでしょ?」
さらに、機嫌悪そうに腕を組んでいる黒髪ロングちゃんにそう言われた井浦氏。
「............」
そして、背後からの苦笑と呆れが混ざった視線を感じ取った井浦氏。
井浦氏ピンチ
うん、井浦もね、まさかこの二人が一緒にいるとは思わなかったし、思いたくもなかったのよ。
コウキくんとグラ子の二人同時は予想してなかった。
「オゥー、メーデー....」
両手を上げて、救難信号を口走る。
「....メーデー、メーデー」
メーデー三回唱えた後、上げた両手を振り下ろし...
「 フ シ メ テ オ ! 」
技名っぽいものを叫ぶ俺。
フシメテオとは、燃えている鳥を、遷音速の域まで到達できる炎を相手に向かって落とす技だ。
さぁ、炎の杭のようなものが降ってきた。
「......ッ!!」
コウキくんとグラ子が飛び退いたと思う間も無く、炎が二人の立っていた位置の中間に落ちて熱風と粉塵を発生させた。
地面のコンクリートが溶けた金属のように橙色になり、そしてだんだんと黒く変わっていった。
フシメテオつよいわ。
「君は本当に........」
粉塵から姿を出したコウキくんが、呆れた声とは裏腹に、愉快そうな顔を覗かせた。
「「何をやらかすか分からない」」
仲良いなお前ら。台詞のシンクロ率が百パーセントだぞ。グラ子の方は声のトーンが低いけど。
「ほら、フシ、言われてるぞ?」
「いやぁ、照れまスね」
フシは燃えながらも、落ち着いた声で言う。
ちょ、こっち来んな熱い。




