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シャァオッ!!!(みんなも一緒に)

「鬼退治って....どうするんですか?」


 顔の影を濃くしている井浦に、そんな質問が入った。周りにいる人たちもそれに同調するように俺氏を見る。



「それは作戦を立てよう。....まぁそんなに心配そうな顔しないでくれ。同列一位の二人の事は、幼馴染みだからよく知ってる。対策もある程度はある」


 力を合わせれば勝てる。たぶん。



「対策って例えば?」


 どこからかそんな声が上がった。この井浦がお答えして差し上げようじゃないか。



「重力を操る方は、誰かに対して能力を使っている時に攻撃すれば、奴(グラ子)は対応に遅れる。だからそれは利用できるな」


「おー」



 それと、グラ子とは開始直後にあんな会話したからな。

 少なくとも俺に対してはムキになって重力攻撃をするか、その逆で、いつもの重力攻撃を使わずに他の方法で攻めてくるだろう。



 焼き鳥と白飯をちょくちょく食べながら、そんな事を考えた。



「でも、脱出はどうやってやるんだよ? そもそもそれが出来なければ意味が無いだろ!?」


 その質問も、この井浦がお答えしてみせよう。


「外に協力者がいる。だから簡単に出れるし、バンダナも取り返せる」



 それを言い終わった時、メキメキと音が床から聞こえた。


 丁度良いタイミングで出てきたな。


 その音は次第に大きくなり、そしてついに床が破れ、木の根が生えてきた。

 その根は、神社で崇められそうなほど太く、直径は、一・八メートルほどある。これは予想以上だわ。


「....この木の根を操ってる奴が協力者だ」



 根はある程度まで出ると、ズブズブと床の下に引っ込んで行き、ついには根が空けた穴だけが残った。



「んで、この根が空けた穴から出る」


 ユカリヨさんに、捕まったらこうしてくれと頼んでおいたのだ。この木の根が空けた穴が外へと続く地下通路となるのだ。



「こんな事が出来る協力者........まさか、ゆかり様なのか!?」


 ゆかり様って何だ。 崇められてんの? 信者いるの? なんかざわついてるけど、みんな信者かなんかなの?

 

「ゆかり様ッ!? ゆかり様が協力者なの?」


「そうだが........?」


 俺が肯定すると、ざわめきはさらに大きくなった。なにこれ怖い。



「これは勝てるぞぉー!!」


「「「「「おォォー!!」」」」」


 誰かがそう叫んだ途端、みんなそれに賛同した。すごい。ユカリヨさんパワーやべぇ。



 俺もこの流れに乗った方が良いな。



「よし! 闘う決意と覚悟が出来たらこれを食え!」


 そう叫んで、出しておいた缶詰タワーを箸で指す。箸で物を指すのはお行儀が悪いから井浦くん以外はマネしないでね。



「「「よっしゃぁ!!」」」



「箸が無ぇ!」


 そういえばそうだね。



「俺が空き缶でアルミの素材作るから、誰か能力で箸の形に加工してくれ!」


「わし出来るぞ」


 おお、出来る人いた。


「じゃあ任せた!おしるこをサービスしてやるよ!」


「わーい」



「よっしゃぁぁ!!メシだァァ!!」


「旨ぇェえええええ!!」



 こうして、俺の缶詰の宣伝をしながらも、捕まった人達に協力を仰げた。まぁ、ほぼユカリヨさんパワーのおかげだけど。


 そして缶詰を食べながら、大まかな作戦を決めた。と言うか、俺が要点だけ話したら、なんか勝手に決まっていった。



 今、なんか結団式みたいな事やってる。俺は側から見てるだけなんだけど。


「我ら革命軍ッ! 逃走を滅ぼす為、闘争することを決意するッ!」


「「「「シャァオッ!!」」」」


 なんだあれ。



「我らの主はッ、世界一ィィィ!!!」


「「「「シャァオッッ!!」」」」



 ドイツの科学みたいに言うなよ。ってか我らの主って何リヨさん? ちょっと誰か聞いてこいよ。俺はやだよ?だってなんか怖いもん。



 ちょっと俺もう行くわ。



「井浦さん、最初にドカンとお願いします!」


「お、おう」


 俺は逃げるように脱出穴(トンネル)に入っていった。




[][][][][]



 穴に入ってから少し歩くと、すぐ出口が見えた。



「どっこいしょぉ」


 裏路地のような所だ。

 (トンネル)の中で歩いた距離的に考えると、捕獲者場はすぐそこにあるだろう。



「ずいぶんと遅かったね」


 ユカリヨさんが近くで体育座りしていた。フシもいる。



「....ずっと待っててくれたのですか?」


 捕獲者達の影響からか、俺もユカリヨさんに対して敬語になってしまう。



「そうだけど....その口調はどうしたの?」


「思春期でスかね?」


 違うわ。



「なんでもないでござる。それより、ご協力ありがとうござる」


 つい口調がござるってしまった。



「なんでもありそうだけど....まぁいいか。井浦くんの役に立てたなら良かった」


 そう言ってニコっと笑ったユカリヨさんを見て、俺はまた変な日本語で応えてしまう。


「ありがたきお言葉!」



 きっとこれがユカリヨさんパワー。ユカリヨさんマジ神々しい。



「.....口調とか大丈夫?」


「これくらいなら、脳に致命傷が出来た程度でスので大丈夫じゃないでスか?」


「おう。なんとか致命傷で済んだ」


 あの団結式っぽいのが特に致命傷になったが、早くあの空間から離れて正解だった。

 もう少しあの空間にいたらヤバかったぜ。



「え?」



 ユカリヨさんが何か疑問に思ったような声を出したが気にしないで、俺は続ける。



「それより、作戦は上手く行ってるからこのままやろう。フシは天井付近で燃えながら飛び回ってくれ」


「ボクの火でみんなを照らすんでスか?」


「頑張れ」


「了解でス」


 フシは敬礼っぽい事をした後、上へ飛んで行った。



「あとは私達がやるだけだね」


「全うを尽くします」


 敬礼!



「ほんとに口調がおかしいけど、どうしたの?」


「いや、ユカリヨさん、みんなに崇められてたから....」


「!?あとで聞かせ.......なんでもない」


 一瞬驚いてから、悩んだような顔になり、頭に手を当てた。ユカリヨさんも色々と大変だね。



「....おう。そろそろ俺達も行こう。作戦通りに頼む」


 俺はユカリヨさんに缶を渡す。この都市エリアの所々に仕掛けたのと同じモノが入った缶だ。


「うん。表に出て、左の道に曲がったらすぐそこに見張りの鬼がいるから」


「おう」



 俺は普通に表通りっぽい所に出て、そこに向かう。ユカリヨさんは裏通りからまわって貰う予定である。



 路地を左に曲がると、捕獲者場の入り口があった。

 先ほどと変わらず、バンダナ入れの隣に、見張りの鬼が立っている。



 ふと天井を見上げると、フシが燃えながら荒ぶってる。あんま目立つなし。



 ここまで来てどうしようかと一瞬迷ったが、俺は何事でも無いように普通にバンダナが入っている箱に歩いて近付く事にした。



「ちょっと失礼」



 そう言うと、見張りの鬼は普通に退いてくれたので、俺も普通に沢山バンダナが入っている箱に手を伸ばした。

 バンダナの一つが自動的に腕に巻き付いてきた。



「どうもー」


 井浦は普通に去る。



「ほなー」



 おお、いけた。いい眼鏡の人だったな。

と、思っていたら叫び声が聞こえてきた。



「ってちゃうねん!! 何普通にバンダナ持ってってんのや!? そして俺は何故普通に持ってかせたん!? 馬鹿か!? 誰も脱走せんかったから暇すぎて狂ったか!!?」


 関西弁っぽい。それとノリ突っ込みからして関西人っぽい。これぞ偏見。



 逃げたくなったが、裏路地に隠れているユカリヨさんから『作戦!』というカンペが出されたので渋々叫び声がした方を向く。



「そもそも誰やお前!」


「井浦だよ」


「そうか井浦か! 井浦やな?覚えたで」


 ありがとうございます。



「とりあえず落ち着けよ」


「せやな」


 目の前の関西弁の眼鏡くんは、深呼吸を三回ほどして言う。


「早速で悪いが、その腕の布きれ返して貰うで?」



 そか。


 裏路地で見ているユカリヨさんから、尺の都合なのか『巻きで』というサインが出たので、話を強引に進める。



「........ちょっと待ってくれ。なんか聞こえないか?」



「はぁ?何言ってんのや」


「落ち着いて、俺みたいに耳をすませてみろよ。何か聞こえるから」


「特になんも聞こえへんやろ....」


 そう言いながらも目を閉じて、耳に手を添えて何か聞こうとする彼はきっといい人。



 ユカリヨさんの操っている(ツル)が、彼の耳元まで一瞬で伸びてきた。蔓の先には先ほど渡した缶が巻き付いている。


 彼の耳元まできた缶も、この都市エリア中に仕掛けた缶も、指パッチンで発動しその中身をぶちまける系のやつだ。だから...



 思 い ッ き り や っ て や ろ う 。



 指パッチンからの



 \ 爆 ☆ 音 ☆ 缶 /


 


 雷鳴のような轟音が、

 窓を破り、鼓膜を刺すような高音が、

 様々な爆音が、都市エリア中に意識を刈り取る勢いで響き、この会場を物理的に揺らした。



 耳元で、さらに耳をすませた状態でそれをモロにくらった眼鏡くんは、耳に手を添えたポーズのまま、糸の切れた人形のようにドサッと倒れた。


 そりゃ気絶くらいするだろう。


 誰だよ、『相手の耳元で爆音缶を発動させよう。ついでに都市エリアを巻き込んで爆音を鳴らそう』とか言った奴は。おかげで相手は泡まで吹いてるぞ。これはもう発想の勝利だ。



 そんな何とも言えない勝ち方をしてみせた俺は、それでも勝利は勝利だと言わんばかりに天に手を突き上げ、勝鬨を叫んでやった。



「シャァオッ!!!!!!」



 革命開始だ。

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