兎、白馬、不思鳥、そして..... (そして?そして何よ?)
「ところで貴方達は何をやってるんでスか?」
缶に戻れなくなった哀れな不思鳥に『フシ』というシンプルイズベスト(適当)な名前を与えた後、その名前を与えられた不思鳥は、そんな事を聞いてきた。
「動物が出てくる缶を色々と作ってる」
「缶から動物が出てくるなんて驚きでスね」
「お前も缶から出てきたからな!?」
この鳥は今後もずっとこんな調子なのか? 放し飼いにしたいけど、それでグラ子と接触したら、この鳥潰されそうだな。
まぁいいか。きっと大丈夫だろう(フラグ)
「動物なら何でも出るんでスか?」
こんな鳥が出てきたのだから、出そうと思えば何でも出せそうな気がする。
「それなりにイメージ出来ればな」
ほぼイメージの斜め上を行ってるけど。
「では、ビックフットとかネッシーとかも出せるんでスかね?」
分からないが、出せたとしてもフシみたいに、喋ったり缶に戻らなくなる可能性はゼロではないからなぁ。
『俺の家、不思鳥とビックフットとネッシーが住んでます。しかもみんな喋ります』とか役所に言ってみたいけど、俺の家にそんなの居たら、俺もンジャメナ行くわ。
「出せたら、ンジャメナに逃げる」
どっかの国にある、しりとりブレイカー、ンジャメナ(地名)
「そうでスか。では出せなかったら、ンゴロンゴロ自然保護区に行くんでスか?」
「行かんわ」
ンゴロンゴロ自然保護区もどっかの国の地名的なもので、しりとりブレイカーだけども。
「ビックフ....ンジャメ....ゴロン.........?」
ほら、ヒナキちゃんが混乱してるよ。
なんか新しく『ビックフンジャメゴロン』っていう謎の生命体ができてるよ。
「行かないし出さないから落ち着いて」
「は、はい」
とりあえず首を傾げて軽く混乱しているヒナキちゃんを宥めた。
「出さないんでスか」
「お前みたいのが出るからな」
フシはがっかりしたような声を出しながら、『やれやれ』と言いたそうに両羽を横に広げ、片足を前に伸ばし、首を横に振りながらため息をした。
「茹でてやろうか?」
「すみませんでシた」
....こいつ偵察とか追跡とか出来るかな? 出来なかったらこいつは、手持ち花火やる時の火種くらいにしか役に立たない。
そもそもこいつ、追跡とか出来る程の速度で飛べるかな?
「なぁ、フシはどれくらいの速さで飛べるんだ?」
「あんまり速く飛んだ事は無いので分からないでスね」
「じゃあ飛んできてくれるか?」
「そうでスね。行ってきまス」
そう言ってフシは空へ飛んで行った。
「井浦さんの缶から出てきたので、きっと速く飛べるんじゃないですか?」
「いや、どうだろうな...」
速く飛べるイメージが湧かないけど。
そう思っていると、一瞬、空から飛行機が飛んでいるような轟音が聞こえた。
上を向くと、空から一筋の光がこちらへ降下して来ている。その光の先端は、炎の杭のようだ。
その光はこの空き地に出したドラム缶に直撃する。
一部が溶けたドラム缶は、全部が溶けたドラム缶になりましたとさ。めでたしめでたし。
「凄いですね....」
うん、そうだね。これは多分ヒナキちゃんの言った通りだったよ。
「.....で? どうすればそうなるんだ?」
ドラム缶を溶かした炎、これを見るのは二回目か。
「加速していたら、急に両羽の中間くらいから先が無くなりまシた」
鳥型の炎はそんな返事をした。
....だってもう存在が不思議だもんな。今さら不思議のあれこれが増えたって驚かない。
「ええー、あー、速度出し過ぎるとそうなるから気をつけるんだぞ?」
空で聞こえた音、それと羽が無くなった事、どちらも衝撃波が原因だろう。つまり..
......音速を超えたくらいの速さが出たという事だろう。わぁ、フシギダナー。
「わかりまシた。それと....消してくれまスか?」
フシは、俺の前で燃える羽を振って空中停止しながら言ってくる。
「....しばらく燃えてろよ」
理由は特に無いが、なんとなく俺はそう言った。
「井浦さんもフシちゃんも凄いですね!」
ヒナキちゃんはそう言った後、「私も頑張らなきゃ!」と小さく呟いた。可愛い。頑張ってね!
「どうもでス」
隣で羽ばたいてるフシがヒナキちゃんに答えた。
燃えてるから、羽ばたくと熱風が地味に来るんだよ。なんか、顔の片側だけモワッとしてる。
「お前、焦げたり灰になったりしないの?」
なんとなく疑問に思った事を口にしてみる。焦げないかなぁという期待を込めて。
「燃えてても別に熱いだけでスよ?」
なんだ、不思議の塊か。そもそも、こいつを出した奴が不思議の塊だもんな。
「井浦が不思議だから出した動物も不思議になるのかな?」
だんだんそんな気がしてきたわ。
「人間を出したら井浦さんみたいになるんじゃないでスか?」
確かにそうかもしれないな。人間を出したらどうなるか地味に気になっていたが、もう一人俺が出てきそう。
「え?ぅえぇ?」
ヒナキちゃんは俺とフシを交互に見ながら驚いたような声を上げている。
「人間とだけイメージして、出てきたのが井浦似だったら、缶から出た動物は俺と似ると言う事が証明される....」
「案外乗り気でスね」
「ふえぇ!?」
井浦分身の術とかできそう。身代わり井浦とか。でも俺に似るんだったらきっと働かないな。家の電気代が二倍に........この前も、同じような事を考えたような気がするので略。
「とりあえず缶を作ろう」
思い立ったら即行動。人間とだけイメージ。
....できれば働いてくれ。あわよくば従順であってくれ。
「よしできた」
多分、井浦くらいの人間ならサイズが小さくなる事は無いだろう。色々と雑念が入ってしまったような気がするが、きっと気がするだけだろう。
「キャラ被っても困らないタイプでスか?」
「楽観的なだけだ」
「ハハハ....」
ヒナキちゃんに苦笑いされちゃった。
「....よし、開けるぞ?」
なんか凄い緊張する。こんな緊張したの久しぶりだわ。あー、なんか不安になってきたわ。ってか早く開けないと勝手に出て来られるんじゃね? 俺だったら『遅いわ!はよ開けんかい!』って言って出てきちゃうわ。
....よし、開けよう!
「ほい!」
蓋を、勢いよく剥がした。俺はそっと前を見る。
「はじめましてご主人さ「戻れ」
........
「........」
...........
きっと俺は、気が動転してたと思うんだ。
まず、全然俺と似てなかったわ。
それどころか、男ですら無かった。
容姿については.....あえて伏せておこう。
それと、服を着てませんでした。
声を被せてまで戻したのは、以上の事により、俺の理性が自動発動した結果です。
これはいけない。
楽観的過ぎた。
まず、服を着て出てくるとでも思ってた俺。
井浦姿だったとしても、ヒナキちゃんがここにはいる。それだけでもパトカーのサイレンが聞こえて来るだろう。
そして、男では無かった事。
....多分、何も考えなかった結果、井浦の心の奥底に眠る、欲望が反映されたのだろう。男なら誰にでもあるだろう、その欲望が。容姿まで忠実に。
.........
「......ヒナキ、ちゃん...」
まず先に謝るべきだろうか。それとも敢えて誤魔化した方が、かえって反応しやすいだろうか?
「胸が.......」
ヒナキちゃんが小さい声で言った。
「胸が、ありました....」
ヒナキちゃん?
「私如きがすみませんでしたっーー」
ヒナキちゃんはそう言って、空き地から道路へ、そして、道路を走って行ってしまった。
「違っ、違うんだぁー!」
がうんだぁー...んだぁー........ぁー...........
.....思わずそう叫んでしまった。
それでも、追いかける事が出来ない。
俺は、無力だ。
膝をついて、四つん這いになり、項垂れる。
「.....」
フシが、俺の前に立つ。あぁ、熱いなぁ。
そうして、フシの炎に燃やされたいと思っている時、声が聞こえた。
「.....ヒナキが走って行ったけど.....どうしたんだい?」
この声は....コウキくんだ。
そうか、もうコウキくんが帰って来る時間帯か。
「....いや、ヒナキちゃんに嫌われたかもしんない........」
「........話を聞こうじゃないか」
「ボクも参加しまス」
もうコウキくん超イケメン。フシもかっこいいわ。
この後、俺は友情的な物を感じながらも、話を聞いてもらい、ヒナキちゃんに謝りに行った。
ヒナキちゃんは、顔を少し赤くしていたが、許してくれたみたいだった。
こんなオチですみません。
オチてると思って下さい。




