フシな焼き鳥(ゆるい)
この鳥どうするか。
なんていうか、ゆるい上にマイペースな鳥だ。出した奴は誰だよ。きっとそいつも、そんな奴なんだろうな。
「とりあえず、不死なのか確かめようか」
「何を言ってるんでスか? 不死なんて、この世にある訳無いでスよ」
お前こそ何を言ってるんだ。
「自分の存在を否定してんの?」
「いや、ボクは死んでも生き返れるんじゃないかな〜とは感じまスが、しっかり現実を見て生きたいと思いまス」
なるほど。解せぬ。
喋る不死鳥(仮)が、なんで現実主義なんだよ。喋ってるだけでも結構ファンタジーじゃん。
「大丈夫大丈夫。生き返れるから」
俺はそう言って、不死鳥の眉間にデコピンを入れる。
すると、眉間が燃え始めた。
「ボワァ〜ってなってますね!」
そうだな。ボワァ〜ってなってるな。
「頭が熱いでスね」
こいつ、デコピンだけで燃えたんだが。何?痛いともう燃えるの?
「燃え広がってますね」
ヒナキちゃんが言った通り、眉間の炎は頭を包み、身体にまで燃え広がっている。
「火だるまになった気分でスな」
うん。もう全身燃えてるもんな。だけどその姿の方が不死鳥っぽい。火の鳥的な感じでかっこいいわ。
「全身が熱いでスね」
「おいやめろ! 燃えてんのにこっちに飛んで来んな!」
「........この火、消してくれまスかね?」
....まじかよ。それとマジでこっち来んな。
「自分で消せないのか?」
「無理でスね」
「諦めろ」
水が入った缶とか出そうと思えば出せるけども、この鳥なら出さなくても大丈夫って信じてる。焼き鳥って呼んでやるから。
「缶の中に戻れば消えるんじゃないですか?」
なるほど。さすがヒナキちゃん。
「そうだな。戻れ」
....戻れと言ってみたが、目の前で飛んでる火だるまは、戻らない。
「........そう言えばこいつ、自分から出て来たよな」
「それはすごいでスね」
焼き鳥が近くに生えている木に止まって言う。
燃えてる状態で木に止まるのは良くないと井浦くん思うな。
枝が少し燃えかけてるよ。
「自分で缶に戻れないのか? それと木に止まるな。止まるならそこに転がってるドラム缶にしろ」
「戻れないでスね。それと燃えてる事をすっかり忘れてまシた」
そう言って焼鳥は、ドラム缶の上に移動する。燃えてる事を忘れるってどうゆう事だよ。
「....戻れないならどうするんだ?」
............
「........飼って貰えまスかね?」
予想はしてた。と言うか、この回答しか予想できなかった。
不死鳥を飼うって言うとなんかロマンを感じた時代もあった。
だがこいつは、実際のところ自己紹介の通り不思鳥だし、デコピン程度で着火するからなぁ。
「........核弾頭ミサイルの核弾頭を巨大なパーティー用のとんがり帽にすり替える事ぐらいなら出来まスので、どうかお願いします」
何をどうやってその台詞に至ったのか教えて欲しい。
「そこまでは頼まないが....放し飼いで良いなら飼う」
まぁ、自分で撒いた種だし、仕方ないとは思うが、鳥なら偵察とか追跡とか出来そうだし、言葉が解るなら、ある程度複雑な事も頼めそうだし。
緊急用のチャッカマンとして役に立つかもしれないし。
「ありがとうございまス」
焼き鳥はドラム缶の上で、土下座のように羽根を前に出して頭を下げる。
ドラム缶の、焼鳥と接している部分が、炎の熱で若干溶けてきてる。
「井浦さんならそう答えると思ってました!」
ヒナキちゃんはそう言ってグッと握った両手を胸の前に出す。
そのポーズのまま可愛いセリフを言って貰えれば、その瞬間、俺は全てを悟って悔い無く逝き、世界は救われると確信した。
そんな意味を込めて、俺はヒナキちゃんにグッドサインを出した。
「飼うなら名前決めましょう!」
「ああ。だがその前に、この鳥を消火しよう。ドラム缶の一部がもう溶けてるし」
このドラム缶は、ヒナキちゃんに座られた。その代償として馬に風穴を開けられ、鳥に溶かされのだ。
だが....もういいんだ。もういいんだよ。代償を受けたドラム缶は、もうドラム缶として機能しないけど、これは立派なドラム缶だよ。
そんな事を考えながら水の入った缶を出し、焼鳥の火を消す。
「熱かったでス」
「いや、燃えてても普通にしてただろ」
さっき燃えてる事すら忘れてたじゃん。
「それとボクの名前は、魚介類の名前が良いでスね」
なんでだ。まぁ良いけども、
「よし。タコかイカどっちが良い?」
「タコでスね」
「じゃあ、焼き鳥かタコ焼き、どっちが良い?」
「焼き鳥でス」
「お前の名前は、焼き鳥 で決定だな」
よろしくな、焼き鳥。正式に焼き鳥になったな。
「紛らわしいですよ」
ヒナキちゃんが苦笑いして言った。
よぉーし、茶番は終わりだ。
「フシ なんかどうだ?」
不思鳥だからフシ。適当。
「良いですね」
ならフシでいいか。よろしくな、フシ
「何の魚介類の名前でスか?」
「魚介類から離れろよ」
こいつを飼えるか心配だわ。




