くっ....今夜は、寝れなのか!?(帰らせてくれ)
俺達は、なんとか、眼帯野郎と筋肉オネェ二体をドラム缶に入れて、色々と質問をしていると、廊下から声が聞こえた。
またここに誰か来たようだ。そう思いながら扉の方を振り向く。
「....何してんだお前ら」
瀬田さん! 瀬田さんじゃないか!
「何って、質問だよ。瀬田さんはなぜここに?」
「ああ、それなんだがな、地下に行けるエレベーターを見つけたんだが、ロックがかかっていてな。連絡手段が無いから、ここに来たんだ」
ふむふむなるほど。
「あら〜声だけでダンディな人って分かるんわ〜。エレベーターの解除番号なら〈5182〉よ〜」
ドラム缶から顔を出しているが、目が腫れていて何も見えない状態になっている筋肉オネェが言った。
「他に聞きたいん事はあるかしら〜?」
おぉ、お前らはどうしてそうグイグイ来るんだ。オネェだからか? オネェだからなのか? どうでもいいか。
「無いな。地下行くか」
「そうだね。トキサさんとミナちゃんも来るかい?」
コウキくんが連れて来た眼鏡少女はミナちゃんって名前か。今知ったわ。
「おぅ、行かせてもらおう」
「はっ、はい」
どちらもついて来るようだ。
そりゃそうだよな。ドラム缶から出られない状態の、目が腫れた筋肉オネェ二体と眼帯がいる混沌空間に居たいとは思わない。
「なんか増えたな」
「ああ。脱退志望だったトキサと、コウキくんが連れて来たマキちゃんだ」
瀬田さんの呟きに俺が応える。
「マキちゃんは洗脳中で放置されたらしいよ」
「なるほど」
コウキくんが、マキちゃんの説明をした後、瀬田さんは頷きながらそう言った。
「よし、じゃあ行くか」
俺達は給湯室から出る。
「えっ!? ワタッシ達はいつまでこのままいればい」「ドア閉まりまーす」
ふぅ、筋肉オネェがなんか言ってたが、廊下に出てから、扉を閉めてその声を遮断した。
そしてエレベーターの場所へ向かって、ここから逃げるように歩き始める。
後ろで歩いているマキちゃんが、小さく手を上げて言う。
「あの、すみません」
「何だ?」
「貴方達は一体、何者なんですか?」
「何者?」
お主っ! 何奴ッ! 的な意味だろうか。
「えっと、あのっ、別に変な意味じゃ無くて、何て言うか、凄い人達だなぁ!って思ってです」
なるほど。なんとなく伝わってきたような気がする。でもなぁ、そんな事言われてもな、「俺は缶屋だ!」ってドヤ顔決めて言ってもシラケるだろうしな。ユカリヨさんの時だってあれ言った時一瞬シラケたし。
「ああ、俺達は...何だろうな? 被害者とその仲間的な?」
「その仲間は無いだろ?」
瀬田さんにケチをつけられた。
「じゃあ、被害者と強い人達?」
そう言って瀬田さんの顔を見ると、微妙な顔をされた。
「強い人達っていうのは分かるんですが、被害者というのは?」
「ああ、俺がこの組織に拉致られたんだよ。そんで色々あった」
「拉致られたんですか?」
驚いたような顔をされた。この子は違うのか。
「ああ。そんで色々あって、ここに潜入してる」
「いろいろ....ですか」
「色々だな」
便利な日本語、色々。
「でも、貴方とコウキさんは学生さんですよね?」
「ああ。コウキが、能高一学年の首席だな」
マキちゃんは驚いた顔をする。
「そうなんですか! じゃあ貴方は次席ですか?」
「いや? 俺は最下クラスだぞ?」
マキちゃんはさらに驚いた顔をする。
「なっ、なんでですか!? だってあんなに美味しい缶詰めが出せて、しかもなんかドーンってしてたじゃないですか!? 次席でも、おかしく無いのになんで最下クラスなんですか?」
「まぁまぁ、落ち着けよ」
すげぇ早口だな。能力は早口なのかね?
「は、はい」
「それと、その事に関しては、言いたく無い事情やら何やらがあるので、色々あると答えさせてもらおう」
説明が面倒って事情が主だけどな。
「そうなんですか? コウキさん」
「まぁ、そうだね」
コウキくんは苦笑しながら言った。
「そうなんですか。では、そこのスーツ姿の方は....?」
「俺か? 俺は警視庁の者だ」
瀬田さんが答える。それ言っちゃって良かったのか。
「はい?」
「警視庁の特能課を率いている」
マキちゃん、驚き過ぎているのか歩く事を忘れてるよ。立ち止まっちゃってるよ。
「えぇ!? と言う事は、あの瀬田さんですか!?」
「瀬田だが?」
あら、瀬田さんをご存知で?
「井浦さん、何故こんな所にこのような方がいるんですか?」
「俺が呼んだ」
「井浦に呼ばれた」
「警視庁の特殊能力課の総長って事は、物理法則を操る最強の能力の人ですよ!? そんな人が井浦さんとどんな関係ならそうなるんですか?!」
「....俺の能力についての噂が一人歩きしてるな。俺は、自分に対する物理法則を変えられるだけだぞ?」
瀬田さんはそう言うが、自分だけしか変えられない訳ではないんだよな。ただ変える必要が無いだけで。
「それと、井浦と俺の関係はまぁ、兄弟弟子みたいなもんだ」
....まぁ、そんな感じだろうか。義親父は師匠みたいなもんだし。
まぁ、中学の頃に、「ンジャメナに行く」という置手紙を残して行ったきり、帰ってこない。
ごく稀に連絡が来るが、それがモールス信号だったり、暗号だったりしている。スパイ的な事でもしてそうで怖い。
「瀬田さんは師匠が居たんですね。どんな人だったんですか?」
「まぁ、自由な鬼畜みたいなものだったな」
「瀬田さんの表現が適切だな」
「確かにそうだね」
コウキくんも、瀬田さんの言葉に同意した。コウキも家が近かったので、弟子では無かったが、一緒に謎武術を習ったりしていたのでほぼ弟子みたいなものだ。
関係無いが、瀬田さんと俺の口調が似ているのも、義親父の影響だ。
「そうなんですか....」
「ああ」
そんな話をしながら歩いているうちに、エレベーターが見えてきた。
「ここだな」
瀬田さんはエレベーターの横の機械に近づき、電子ロックを解く。
「よし、開いたぞ」
俺達はエレベーターに乗り込む。筋肉オネェの話だと、地下には見張りがいるらしいが、どうにでもなるだろう。
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どうにでもなった。
「すごい! さっきのが瀬田さんの能力なんですね? 針がブワってなったのに、無傷一つ無い!」
相手は麻痺針のようなものを操って弾幕を作ってきたが、最初に狙ったのが瀬田さんだったのが、相手の運の尽きである。
「まぁ、そうだな」
瀬田さんがそう言っている間に、俺は見張りに睡眠スプレーをかけて、さらに数時間は起きないように睡眠缶を飲ませた。
「あとは救出だな」
俺がそう言うと、瀬田さんがそれに待ったをかけた。
「ああ、それなんだがな、敵の回収も合わせて俺の部下にやってもらおうと思うんだ」
まじか。
「じゃあ俺はこのまま帰るの?」
「もの足りないか?」
うーん、まぁ、そう言われるとそうな気がする。
「まぁ、なんかもう少し、ねぇ?」
そう俺が言うと、瀬田さんはニヤリと笑った。
「なら、お前に仕事を与えてやろう。俺と同行しろ。明日学校休むなら、今夜は寝かせないぞ?」
不味った。声だけなら勘違いしそうなセリフだが、これは....
「 事 情 聴 取 だ。事の発端から全て話してもらうぞ?」
瀬田さんはニヤリと笑っままそう言った。その迫力だけで、俺は逃げる事すら出来ないと感じる。
「署までご同行してもらうぞ?」
いやぁぁぁ!!!
その悲鳴は声にならず、俺の心の中で響くだけだった。
井浦の義親父(師匠)についての話は、また過去編で書きたいと思います。




