制服、サンダル、右手に缶。(奴の名は.......)
視点変更あり。
井浦→瀬田さん→井浦→コウキ→井浦 という順番です。
「ごめんくださーい」
入り口の扉を開けようとしたが、開かなかった。そりゃそうか。
開けようとしてから、扉の横に〈close〉と表示されている機械があることに気がついた。
「電子ロックか。コウキ、開けられる?」
「やってみるよ」
コウキくんは、〈close〉と表示された下にある番号のボタンを〈1111〉と押すと、その表示は〈open〉の表示に変わった。
いや、開いたからいいんだけどさ。
能力使ってビリビリッと開けると思ったんだ俺は。
というか基地の暗証番号、適当すぎるだろ。なんだよ〈1111〉って。この組織大丈夫か?
「開いたね」
コウキくん自身もこれで開くとは思っていなかったようだ。
「.....まぁいいか。入ろう」
俺は扉を開ける。すると、窓のないまるで隔離病棟の廊下のような通路がつづいていた。所々に金属製の扉がある。
「秘密基地っぽいな」
「そうだね」
「地下へ続く階段はどこだ?」
瀬田さんが聞いてきた。洗脳されかけた人達をそんなに助けたいのか。
「知らなす。どうする? 手分けして探索する?」
「うーむ、そこが微妙だな。そもそもここに人が.......いるな」
瀬田さんとが見ている方向を俺も見ると、全身が白い服の男がいた。
「誰だお前らは?!」
「いや、お前らの仲間だよ」
俺が言う。面倒事は避けたいので仲間のフリを試みた。
「いやいや、服装からして怪しいんだよ! ラフな格好の金髪イケメンに、スーツ姿のハリウッドにいそうな男、そしてお前! 制服にサンダルのグボグヘッ!!」
股間に膝を、鳩尾に肘を入れる。
「うるせー。三十文字以内に収めろ。そして何だ? 制服にサンダルの何だよ? 平凡な顔の男とでも言おうとしたか? 泣くぞ?」
俺は泡を吹いている男にそれだけ言い捨て、その屍を踏み越えてゆく。
平凡な顔? それがどうした? 俺は平凡な顔であっての井浦だよ。だからこの涙はあれだよ。屍を踏み越えた事でこの世界の現実を知ってしまった宿命の涙だよ。
「三人だと怪しい格好がさらに怪しくなるみたいだし、手分けしようか」
コウキくんが言った。コウキがそう仰るのであれば、井浦は以下略。
「そうだな。じゃあそこの十字路で別れよう」
「ああ。何かあったら連絡しろよ?」
瀬田さん、かっけえっす。なんか何言っても格好ついてる。これが人の上に立つ者の力か。
「ういす」
「はい」
そう返事をして、俺は右に、瀬田さんは真っ直ぐ、コウキは左へ曲がった。
無駄に広いなここ。そう思っていながらサンダルを鳴らして歩いていると、お腹も鳴った。そういえば何も食ってないな。
視界の端にある扉に、給湯室という文字が見えた。どうしようかな。腹が減ってはなんたらって言うし、軽食にしようそうしよう。
扉を開けてみる。中は簡単なキッチンのようになっており、机と椅子も置いてある。
「よし、誰もいないな」
箸とかあるかな?
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俺が真っ直ぐ歩いていると、急に床が開き、この薄暗い場所に落ちた。このご時世に落とし穴か... それに引っかかった俺も俺だが。
「誰? ダレよキミ? 侵入者でしょ?」
目の前の若僧が何か言っている。敵意丸出しだな。ここは普通に名乗っておくか。
「瀬田だ。瀬田 理創だ」
「へぇ、でも誰だっていいや。ここに君が落ちた時点で、ボクの勝ちは決定してるんだ。ああ、我が主よ。あなたが与えて下さった役目、果たします」
確かにここは宗教的な事を洗脳で教えられているらしいな。
「じゃあ、生贄になってね」
そう言って若僧が壁を叩くと、俺の横から棘が襲ってきた。よく見るとこの部屋は、床も壁も金属で出来ている。特定の金属を操る能力か!
棘は今にも俺の体を貫こうと、俺の体に向かってくる。
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「んわっ!?」
「 鯖缶から本物の鯖が出てきた」
ピチピチピチピチピチと、机の上で跳ねている。どうしようこれ。
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井浦くんと瀬田さんの二人と別れてから、ある程度歩いていると、僕は通路の曲がり角で人とぶつかってしまった。
「すっ、すみません!」
「いや、いいよ。僕も悪かったし」
僕がぶつかった小柄な眼鏡をかけた女性は深々と頭を下げてから、僕の方をおそるおそる見た。僕はそれに笑って応える。
「おっ、お洒落な格好ですね。お客さんですか?」
参ったな......なんて言おう?
「そうなんですね? ええと、どうしましょう?」
答える間も無く決めつけられてしまった。
「えっ、いや....」
「すみません。私、ここに来てまだ一日も経って無いんですが、途中で私にここの事を教えてくれてた人が、連絡を受けた途端、急にどこかに行ってしまって、それで私、一人で数時間と待ったのですが、誰も来なくて、夕食どころか、おやつすら食べてなくて、ええーと、それで.....」
「まあまあ、落ち着いてよ」
そう言って早口になって喋った女の人を落ち着かせる。
この子、自分よりも年下だ。でも年下なら僕にも妹がいるので、何とかなるかもしれない。
「ええと、つまり、その人を探しているのかな?」
「そうです。それとお腹が空いたのです」
空腹か。いくら電気が操れても、それは僕の能力ではどうしようもない。
こういう時、井浦くんの能力を羨ましく思うし、それが出来るまで能力を成長させた井浦くんを凄いと思いながら、僕も負けていられないとも思える。
「ここには僕以外の人も来ていて、その人に頼めば食べ物をくれるよ」
「ほんとですか?」
「ああ」
こうして僕は、さっき来た道を戻る事になってしまった。
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ふぅ、戻った。戻ったよ。「戻れ」って鯖に命じたら缶の中に戻ってったよ。開けたフタも元通りだよ。
ああ、どうしようこの缶。まぁそれは明日考えよう。そして今は普通の鯖缶を食べよう。
......よし、普通だ。鯖の味噌煮だ。もうぼんやりと生きた鯖の姿をイメージしながら缶を出したりしない。
「いただきます」
うん、おいしい。
それにしても、鯖が生きてる状態で出てくるとは思わなかったわ。
これ獅子缶とか虎缶とかもいけるかな? できれば不死鳥缶とかも出せるようになりたいな。
後で出してみようかな。ここ、敵の基地だけど。




