結成、殴り込み隊。(井浦も含めて三人)
俺は、車の中の人達に色々と聞き出そうと思ったのだが、敵の基地前で聞きだすのもアレなので、車の中の人達を一人ずつドラム缶に入れて転がし、少し場所を移動させた。
そのメンツを紹介しよう。拍手でお迎え下さい。
まず気を失っているのか寝てんのかわからない、くまタヌさん。はい拍手ー。
低い声に似合わず、以外と子柄だった河田さん。はい拍手。
ハードボイルドな声ではあったが、見た目は三十代のぬらりひょん、森山さん。拍手。
そして最後に、作業服を着た、眼鏡以外に特に特徴が見つからない、運転手さん。
この四人が今、ドラム缶に入って寝ているメンツだ。
全員、腕と足を縛り、くまタヌさん以外は念のため猿ぐつわ、目隠し、耳栓をしてある。
だいたい睡眠ガス缶の効果は二十〜三十分くらいだ。まだ時間があるな。
暇だし、潜入する事になった時の為に誰か呼ぶか。
俺はスマホを取り出す。
誰を呼ぼうか。
そう考えているうちに、俺の体は自然とコウキくんの電話番号を打ち込んでいた。
あらやだ。井浦の思考よりも先に体の方がコウキくんを求めちゃうなんて。
電話番号を井浦の思考よりも先に打ち込んでいたって意味だよ。
そう思っているうちにコウキくんの声が聞こえてきた。
『もしもし? どうしたんだい?』
井浦翻訳で再生。《もしもし? 井浦くんからかけてくるなんて珍しいね、しかもこんな時間に。どうしたんだい? 何かあったのかい?》
翻訳キタコレ。もうコウキくんと俺との仲に余計な言葉など必要無くなったのだ。
「拉致られて敵の基地的な所の近くなう。これから乗り込む事になりそうなんだけど、どうよ?」
『拉致されたのによく映画館に誘うみたいに言えるね......どんな状況になったらそうなるんだい?』
見える、見えるぞ。苦笑しているコウキくんの顔が見える。これが井浦翻訳の本領だ。
「襲われたから気を失ったフリして以下略。今そいつらに色々聞き出そうとしてる」
『ああ...なんとなく分かったよ』
「そか。じゃあ、なんかこう、電波を辿ってこっちまで来てくれない?」
『出来なくはないけど...位置情報を送ってくれた方が楽かな』
その手があったか。
「よし、任せろ」
俺は通話を切り、位置情報をメールで送ると、『すぐ行く』と返信してくれた。頼もしいな。
もう一人呼んじゃおうかな。
カズマさんは........廃墟に引きこもっっているから来ないだろうし、瀬田さんが良いな。
メール画面のままだったので、位置情報を先に送ってから、瀬田さんに電話する。
『どうした? 自白か? 何をやらかした?』
全く、井浦って奴は今までに何をやらかしていれば電話の一言目がそうなるんだよ。
「やらかしてないぞ? 俺が拉致られたんだよ」
『それで? 被害者は拉致った奴の方か?』
「何でそうなるんだ。いや、そうなるんだけどさ」
『....はぁ。それで? 俺にどうして欲しい?』
ため息つかれたちゃったよ。
「俺を拉致った奴らは、熊谷商業を裏から操っていたと思われる。今そいつらの基地周辺で、多分殴り込みに入る。位置情報を送ったから来て欲しい」
『俺はとうとうお前のそれに、付き合わなきけりゃならなくなったか......』
「来れる?」
『ああ、お前を止める為にな』
冗談めかした声で言うなよ。自覚ツンデレかな?
「コウキくんも来るよ」
『ますます止めに行かなきゃだな』
「ああ。なるべく面倒事にはしないでくれよ?」
『分かってるさ。じゃあな』
その声が聞こえた後電話は切れた。
ぶっちゃけ瀬田さんとコウキが来るなら俺は遊んでいてもいい気がするな。
そんな事を考えながら四つのドラム缶を見る。まだ起きないのか。
俺はくまタヌさんが入っているドラム缶に近づく。そろそろ睡眠ガスは抜けてるだろう。気を失っているかもしれないが。確かめようか。
俺はスプレー缶を出した。中には催涙ガスが入っている。
それをドラム缶の中のくまタヌさんの顔の前で吹きつけてみた。
よい子は真似しないでよねっ! 悪い子は知らん。
「あ、起きた?」
くまタヌさんはしかめっ面でドラム缶の中から俺を見上げてくる。
「........どうして貴方が?」
「井浦だからだ。それより聞きたい事がある。いいな? 」
彼は頷く。どうやら自分の今の状況がわかってきたようだ。
「抵抗は許さない。質問にだけ答えてくれ」
そう言って俺は、見上げるくまタヌさんの頭の上に、缶を乗せた。
「 爆 発 し な い よ う お 気 を つ け て 」
乗せたのはただの缶ジュースだが、くまタヌさんは怯た顔をする。
「んじゃ聞くぞ?」
「はぃい!」
俺は質問タイムを始めた。
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俺が聞いた質問とその回答をまとめてみよう。
Q: なぜ俺の爆発缶を知っていた?
A: 部下の一人が爆発事件を逃げて切って熊谷に報告した。
Q: なぜ俺を狙った?
A: その報告を偶然にも聞いた河田が、標的をユカリヨさんから俺に変えるよう言った。
Q: 河田との関係は?
A: 元は取り引き関係だった。
Q: 河田の組織は?
A: 組織の名は「能授教」能力者の宗教団体。能力を授けてくれた神なんたらをかんたら。それの洗脳担当が河田。
大体このくらいだろうか。
次に、運転手からも聞いたので、この情報はほぼ正しいものだろう。
ついでに基地の内部の情報も聞いた。基地には洗脳させている人や、地下に洗脳されかけた人がいるらしい。
「どうするんだい?」
質問している間に雷速を乱用して来たコウキくんが言う。
「大体の情報は集まったし、もう質問はいいだろ。瀬田さんが来たら基地に入ろう。」
「後の二人は?」
「おとなしくなってるし放置」
ドラム缶の中でぐったりしている河田と森山を見る。
一回起きたのだが、暴れる度に、隠してない鼻に催涙スプレーをかけまくったらこうなった。
ドウシテダロウ? 世の中には不思議がいっぱいだね。
そんな事を考えていると、一台の車がこちらに来て、中から人が出てきた。
黒い車が似合う男、瀬田さんだ。
「よう。顔を合わせるのは久しぶりだな」
そう言って瀬田さんはこちらを見る。前会った時よりもダンディになったな。
「そうだな。事情を説明する」
「ああ是非頼む」
「かくかくしかじか」
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「なるほど。つまりあの中に洗脳されかけた能力者達が囚われているのか」
「その人達を助ける為にも、一緒に殴り込もうぜ?」
「調子のいい奴だな。コウキもそれでいいのか?」
「はい」
「なら、まぁ、仕方ないな。俺も手伝ってやる」
ツンデレだな。
「そういえば、明日は能力テストだけど、君は大丈夫かい?」
コウキくんがふとそんな事を言った。
「多分ダメ」
そう答えてから俺は八頃に電話をする。
「もしもし、八頃? 井浦だよー」
『どうした?』
「明日の能力テスト休むわ。明後日よろしく! じゃあのっ!」
言うだけ言って切る。これぞまさしくヒットアンドアウェイ!
「いいのかそれで」
瀬田さんが何か呟いたが気にしない。
「よし、行くか」
そう言って、俺はそこに落ちていた空の缶を軽く蹴り上げた。




