タヌキは缶を開ける(俺はぼったくる)
朝、教室で俺は八頃に、放課後に来客室に来いと言われた。内容はすぐ予想できたので、憂鬱を感じるだけだったのだが。
そんな憂鬱を胸に一日を過ごし、今はもう放課後である。
俺は、学校の来客室のソファーに座っている。そしてテーブルを挟んで俺と向かい合っているのが、熊谷商業の社長らしきタヌキ人である。隣には八頃が座っている。
目の前のタヌキが、八頃の方を向いて喋る。
「すみませんが、しばらく彼と二人きりで話をさせてくれませんかね?」
いきなりなんだよ二人きりって。 愛の告白でもすんの? 雰囲気を醸し出したいの?
「分かりました」
ええ? 八頃さん分かっちゃうの? 何を解っちゃったんだよ。 やめて。席を立たないで。行かないで。ドアを閉じながらこっち向いて親指を立てないで。
そうして八頃の姿は完全に閉じたドアによって阻まれ、来客室には井浦とタヌキ人のみになった。
うっわー。なんかやだなぁ。
俺は目の前のタヌキ人を見る。浅黒い肌、膨らんだようにでかくて丸い鼻、頬の贅肉は顔の輪郭が横長に見えるほどあり、その贅肉が目を圧迫して、小さい目がさらに小さくなっている。
見れば見るほどタヌキ。
「貴方が井浦くんで間違いないね?」
「違います」
衝動的に否定をしたくなった。このまま終わらないかなぁ。
「貴方が井浦で間違いないね?」
「違います」
なんだこいつ。たまにゲームでいるよな。「はい」を選ぶまで同じ質問してくる奴。
「貴方がっ、井浦くんで間違いないね?!」
強く言ってくるが、見た目がタヌキなので面白いだけである。だが、仕方ないので肯定しよう。
「井浦だよ」
「そうですよね。私はとある企業の社長をやっております」
うん。知ってるからそんなドヤ顔で言わなくていいよ?
「へー、そうなんだー、すごいねー。ところでおじさん、おなまえはなんていうのー?」
俺は頬杖をつきながら適当に反応しておく。
「私の名前は熊谷です」
うん、それも予想通り。タヌキなのに熊谷。この社長、(姓が)くま(見た目が)タヌキって呼んだら怒りそう。脳内ではそう呼んであげよう。よろしくな、くまタヌキ!
「へー、そんなすごいひとが、めのまえにいるなんてすごいなー、かんどうだなー」
くまタヌキさんのすごい所は、俺が棒読みな返答をしてもドヤ顔をする所。相当切羽詰まっているのか、バカなのか。
「それほどでも無いですよ。社長と言っても中小企業ですからね」
そうだな。しかも倒産寸前という立派な肩書き付きだもんな。
「そうなんだー。それでー? きょうはなんでここにきたのー?」
さっさと用件言ってもらって帰ろう。
「聞きたいですか?」
何故ここで焦らした? 無駄にうざいな。山里に帰れ。それか大地に還れ。
「べつにいいや」
「分かりました話しましょう。私がここに来た理由。それはぁ、貴方の能力をこの目で確かめる為に、です!」
何言ってんだこのくまタヌキ。その肌の贅肉に圧迫された目で見たってどうしようも無いだろ。
「へー、ふーん」
「貴方の能力、それは《作り出す》という今までに無い類の能力。それをぜひ見たいのです」
まぁ確かに、何も無い所から何かを作り出す能力は俺以外には知らないが、こいつに言われても嬉しくないな。
「はい」
俺は空き缶を作り出し、机の上に置く。
「おお! これは本物の空き缶なのですか?」
偽物の空き缶があってたまるかよ。
「そうだけど?」
「なるほど。貴方は空き缶以外にも缶を作れるらしいですね?」
くまタヌキの目つきが一瞬鋭くなる。パイナップル缶の事? 何? 食うの? 食中毒にしてやろうか?
そう思いながらも普通にいつも出している缶を出す。
「ほい。パイナップルが入ってますよー」
「開けても?」
くまタヌキは缶を手に取って言う。
「百円な」
「はい?」
予想外だったっぽいな。何度でも請求してやんよ。
「千円な」
「はいい?」
目を見開こうとしてるっぽいけど、見開けてない。なんか目の周りの贅肉がプルプルしてる。
「こっちもこれで稼いでるんですよ」
「なるほど、良い商売ですね」
くまタヌキは、そう言いながら千円札を置き、俺が受け取ったのを確認してから、パイン缶をあける。
「ふむ、確かにパイナップルが入っていますね。これは食べられますよね?」
そう言ってパイナップルが入った缶を机の上に置いた。
あー、はいはい。俺が食って見せればいいんだろ?
俺は来客室にあるティーセットから爪楊枝を持ち出して、パイナップルを一切れ食べる。おいしい。
「確かに食べれるようですね。では私もいただきましょう」
くまタヌは、そう言ってからパイナップル缶の中の一切れを口に運んだ。
「これは、予想以上に美味しいです」
「そりゃどうも」
俺もこんなもので千円が手に入って美味しいよ。
「これはいけますよ! これはもっと多くの人に食べてもらうべきなのです。どうです?私と手を組みませんか?」
胡散臭いな。そもそも俺の能力で作った缶なんだから商品登録できないだろ。
「断る」
「.......分かりました。ただ、貴方は爆発物も作れますよね?」
なっ...........
爆発物という言葉が聞こえた一瞬、ほんの一瞬だが、その言葉に俺は表情を動かしてしまった。
「沈黙は肯定という事で構いませんね?」




