朝に電話は控えましょう。(きっと迷惑)
おはよう、今日も朝から井浦だよ。
昨日は早く寝たので、今朝は早く目が覚めた。部屋のカーテンを開けてもまだ薄暗い時間帯だ。
とりあえず、意味は無いけどカズマさんに電話をかけてみようと思う。
べっ、別に嫌がらせなんかじゃないんだからねっ! 朝から井浦の声を聞いて元気になって欲しいだけなんだからねっ!
俺はスマートフォンに、カズマさんの電話番号を打ち込んだ。
『井浦くん?』
カズマさんの怠そうな声が聞こえてきた。
「グッッドルォッ モォーニン井浦だよ!」
俺はカズマさんの眠気が吹き飛ぶように、巻き舌でアメリカンな挨拶を叫ぶ。
『迷惑電話って知ってる?』
知ってる知ってる。
「最近義務化されたアレだろ?」
『されてないから用件を言ってくれ』
相変わらず、カズマさんは眠そうに、怠そうに言ってくる。
「今何してるー?」
『電話切ろうとしてる』
あらまぁ。ならこれはどうだ。
「面白い話をしてくれ」
『じゃあな』
ため息混じりにそんな事を言われた。せっかく井浦がモーニングコールをしてあげたのに。
「やめてくれ」
『じゃあ何を話すためにかけてきたんだい?』
暇つぶしのためなんだがな。うーむ、何か話す事とかは.....まぁ、爆発事件の報告だけするか。
「ええと、一昨日、熊谷商業の貿易用倉庫を爆発させたぞ」
『へぇ、やっぱりか。炎の能力の奴はどうなったんだい?』
「警察から話を聞かれてるらしい」
『なるほど。じゃあ熊谷商業の社長.....ボスは?』
そういえば炎の能力の奴は幹部か。でも爆発させた時は社長らしい奴は居なかったと思うが。
「どんな奴だ?」
一応、確認してみる。
『顔がタヌキっぽくて、能力が動物に化ける能力だね』
俺以上にギャグみたいな存在だな。常時顔面だけタヌキに化けてんじゃねーの?
「そんな奴居なかったな」
瀬田さんもそれらしい事は言って無かったし、居なかったのだろう。
『そうか。じゃあまだ熊谷商業自体は潰れていないのか』
「でも潰れるのはもはや時間の問題なんじゃないか?」
あの爆発した貿易用倉庫は、元からほぼ何も置かれていなかったし、そもそも経営難じゃなかったら、わざわざ大麻草を出させる必要は無い筈だし、元々潰れそうだったのだろう。
『そうだね。でも、人間は追い詰められると何をしでかすか分かんないよ?』
「奴の場合人間じゃなくてタヌキだろ」
『なるほど、確かにそうだ。じゃあ、追い詰められたタヌキは猟師を噛むよ?』
「そうだな」
この場合、一番噛まれそうなのはユカリヨさんだな。
『ああ。それと話は変わるけど、昨晩にあの缶を試してみようって人が現れたんだ。使っていいね?』
おお、ついに現れたのか。
「勿論だ。結果の報告、よろしく!」
『へいへい。その代わり、結果が良かったらその缶を幾つか貰うよ?』
「了解。じゃあまた結果が出たらな?」
『ああ。いい結果が出る事を望もう』
その声が聞こえてから、通話が切れた。
窓から見える空が明るくなり始めている。
学校めんどいな。明日は能力テストだし。まだどうするか決めてないし。
そう思いながらも俺は学校へ行く支度を始める。
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家を出ると、丁度コウキくんも家から出ている所だった。これは運命かな?
「おお、今日は久しぶりに早いね」
コウキくんはこちらに来て、驚いた顔をする。
「早く目が覚めたんだよ」
「昨日早く寝たんだね?」
さすがコウキくん。井浦の事を分かってらっしゃる。これは運命だな。
「いえす」
「やっぱりそうか」
コウキくんは、そう笑いながら言ってから歩き始める。
「そうそう。昨日の放課後、学校に君に会いたいって人が訪問して来たんだ」
なんですって? でも無駄よ。井浦はもう、コウキくんと運命の糸でうんぬんかんぬん。
「へぇ、物好きもいるんだな」
俺は率直な感想を述べる。
「君がそれを言うのか」
井浦くん苦笑されちゃったうら。
「事実だろ。そもそも何の為に俺におうとしてたんだ?」
「君の能力を見てみたいって言っていた」
「え? 何? パイナップル缶?」
俺の能力といっても学校ではそれしかないしな。
「そうらしい。でも良いんじゃないか? 将来性の評価が上がるかもよ? 明日は能力テストだし、井浦くんも少しずつ本気を出していったらどうだい?」
そうだな。能力テストは一気に色々出すより、少しずつ本気を出した方が良いかもしれない。成長期的な感じで。せっかく将来性も上がりそ.....う?
「なぁ、その訪問して来た奴ってどっかの企業の人なのか?」
どっか企業の人で無ければ、将来性の評価は上がらない筈だ。そう思って確認をする。
「そうらしいよ?」
「なるほど、企業の名前は?」
「そういえば、そこまでは聞かなかったな」
........怪しいな。
不意に俺は、カズマさんが言った追い詰められたタヌキの話を思い出す。........いや、まさかな。だが、もしそうだとすれば、確かに追い詰めた猟師はユカリヨさんでは無く、俺だ。
思い立った仮説は猛ダッシュで、縮地を使いながら確信にどんどん迫っていく。
「なぁ、そいつって何か特徴はあったか?見た目とか」
コウキくんは少し考える素振りをしてから口を動かす。
「そういえば、顔がタヌキに似ていたよ」
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これは見事に噛まれましたね。




