帰宅イベント、フラグは立たない。(井浦のステータスではそもそも立てられない)
斜陽が射す帰り道。一人で住宅街の路地をだらだらうらうらと歩く俺。
昼休みから、明後日の能力テストをどうしようか考えているのだが全く良い案が出てこない。
能力テストとは、簡単に言うと能力の将来性やら汎用性やらを測定するテストの事だ。
例えばグラ子なんかは重力が操れるので、色々な学者や、宇宙センターなどから一目を置かれているという点から、将来性の塊だし、コウキくんも同じようなものである。
それと、能力テストの得点はクラスランクを決める。
入学前にもあったのだが、俺は缶を作る能力と言っただけで、ロクなテストもされず、Eクラスに組み込まれる有様である。最初からそのつもりでいたけれども。
でも空き缶を作れるだけでも結構良いと思うんだけどね。缶の形とは言え、アルミやスチールを生成してる訳だし。
なんなら純金で作ったろか?白金製のドラム缶にしたろか? ああん? 依頼されたら作ってやんよ? だから缶屋をご贔屓にしてくれよ?
....でも学校でそんな事をしたら、俺は企業どころか政府から一目置かれてしまう。
そのうち爆発缶とか出して、一目置かれるどころか監視される。
最悪政府のお世話になって、懲役と言う名目で缶を延々と作らされる羽目になる未来が待っている。いや待ってない。猛ダッシュでこっちに向かってきてる。
また廃案だ。
井浦はずっとこんな調子で悩んでいる。
いっその事、どっかの海をコンクリート缶で埋め立てて井浦国でも作ってしまおうか。 食料(缶)はあるし、資源(石油缶など)もある。自衛は、潜水缶やら戦缶やら宇宙戦缶で勝つる。だがテレビが無ぇ、ラジオも無ぇ、インターネットも使えねぇ。廃案。
そして俺は考える事を止めた。(ガクッ)
だがその時、飛んでゆく意識を呼び戻すように、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「井浦さーん?」
その声のした方を向くと、そこには笑顔で手を振っている、金髪ポニーテールの最強な美少女が降臨していた。
「俺が井浦さんだよ!」
俺はその子に全力で自己主張する。
彼女こそがコウキくんの妹で、近所のマスコット、満 日向輝ちゃんである!なんかもう存在がキラキラしてる。
「久しぶりですね」
「そうだな。ヒナキちゃんは中学生になったのか」
「はい。井浦さんも高校生になったんですね」
ヒナキちゃんはそう言いながら笑う。本人は自覚が無いみたいだが、このふんわりとした人懐っこさと、感情の豊かさが人気の理由である。
「見ないうちに大人になったな」
前は「井浦さん」じゃなくて「井浦おにいちゃん」って呼んでくれてたのにね。お兄さんは悲しいような嬉しいような気持ちでいっぱいです。
「そ、そんなことないです!まだお兄ちゃんに甘えてばかりで....」
ヒナキちゃんは顔を逸らす。このとき耳まで赤くなってる所がカワイイポイントだ。
「まぁコウキは頼れる奴だし、まだいいんじゃないか?」
俺も、コウキに能力テストの事相談しようかなって思ったりしてる。
「そうですね! 少しずつ頑張っていきます!」
ヒナキちゃんは両手でガッツポーズをとる。可愛い。
この妹と兄だけで、ヒロイン枠と主人公枠が完全に埋まってる気がする。じゃあ井浦は何枠なんだ?井浦枠だよ。
「おう。だが無理はよくないぞ?」
「大丈夫です。それより私一学年の能力序列で、一位を取ったんですよ!」
ヒナキちゃん嬉しいそうな顔をして言った。感情がコロコロ変わるので、喋っていて飽きることが無いのもカワイイポイントである。
「それは凄いな。確か光を屈折させられる能力だったよな?」
自分自身を見えないようにする事も出来るらしい。兄妹そろってこのスペック。おお神よ、何故この兄妹はこんなに優れているのですか?
「そうです! 闘いますか?」
そう言って軽くファイトポーズをとるヒナキちゃんに、俺は両手を挙げてそのまま手をひらひらさせ、降参の意思を示しながらながら言う。
「俺じゃあ相手にもならないだろうよ」
ヒナキちゃんは頬を膨らませる。
「むー、誤魔化さないで下さい!」
そう言えばヒナキちゃんも、缶屋の事は知らないと思うが、俺がもっと色々な缶を作れる事は知っていたな。
「俺も誤魔化さないで生きていける世界だったらこんな事はしてない」
「それはそうですが....」
不満そうな顔も可愛いが、やっぱり笑っている顔が一番だったりするのもカワイイポイント。
「まぁ、その事で悩んでたんだけど、ヒナキちゃんと話したら気が楽になった。ありがとう」
笑って貰えるように言葉を選んで言う。
「そそっ、そんなことないですよ!私は、ただ、井浦さんと・・・」
あれ?前は「ありがとう」って言うと笑顔で「どういたしまして」って返してくれたのにな。
耳が真っ赤になってるし、照れ期かな?
でも、こういう反応も新鮮でいいと井浦くんは思ったりします。
それと最後がよく聞こえないイベントは、こちらの業界ではむしろご褒(ゲフンゲフン。
そう馬鹿な事を考えていると、奴の声が後ろから聞こえてきた。
「ヒナキちゃんだ。久しぶりだね?こんな所で何してるの?」
この無駄に透き通った声。そうだ、間違いない。俺は声の主の方にゆっくりと視線を動かす。
グ ラ 子 降 臨 。
「あっ、こんにちは!」
ヒナキちゃんが挨拶だけで言葉を区切っちゃったので、俺はヒナキちゃんの代わりに先ほどの質問に答える。
「見れば分かるだろ。世間話ですよ世間話」
「ヒナキちゃん、この喋ってる物体に何されたの?」
「えっ、無視ですか。ついでに物体呼ばわりですか。しかも何かした前提かよ!? 世間話しかしてないよ?」
グラ子の毒舌は日に日に増してきている気がする。
「ええと、口説かれました?」
ここでヒナキちゃんが謎発言をする。 俺がいつ口説いた? しかも疑問系になってるし。これじゃあ口説こうとして失敗したみたいじゃん。口説いてないのに。
「へぇ、本当なの?」
やべぇ、もう言葉に重力が籠ってる。
「いや口説いないよ? 本当だよ? なので勘弁して下さい」
「口説いていなかったんですか? では私のこの心は一体何なのですか?」
知らないよ!?だからここで誤解を招くような発言をやめて! しかも無駄に迫真の演技してるよこの子。
「ヒナキちゃんに何したの?」
うわぁ、 詰んだわこれ。チェックメイトされたわ。もう何を言ってもGルートに突入する気しかしないわ。
逃げよう。
「何もしてないから! 信じて!? 井浦を信じておくれよぉぉ!」
そう言いながら俺は家まで走って逃げ帰るのだった。
はぁ。ヒナキちゃんに会えたのはいいが、余計に疲れた上に何も解決してねぇ。
タイトル詐欺だったりそうじゃなかったりしてますが、これだけは言わせて下さい。
この小説は能力バトルアクションな日常が主です。決して、ドキドキ☆ ラヴ♡コメディ小説ではな(以下略。