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ラケットとシャトルは頑丈。(雷速で振っても大丈夫)

 普通ならもう超える事の出来ないモノ。それを俺は限界と呼ぶ。もし、限界を超えたと思う事があったならきっと、自分が「これしか出来ない」と思い込んでしまった物か、ただの成長だろう。

 俺の十五年と半分程度の経験から思う事でしかないのだが、それでもその間クソ能力を使い続けた俺だから言える事だ。


 俺の言う限界は、例えるなら割合の百パーセントだ。百パーセントが百パーセントを超える事は無いように、限界は、普通なら超える事が出来ないからこその限界なのだ。


 でも、普通では超えられない壁があるなら、普通ではない手段を使えばいい。俺で言えば、それにあたる物が缶だ。



 先ほど俺が使った缶。それの具体的な効果は、《一時的に自分の細胞を強制的に限界を超えて発動させる》という物だ。飲むタイプなので、効果が出てくるまでに数分かかる。


 普通なら数十パーセントくらいしか活動していない細胞。俺の場合は数十もいってないな。俺の細胞なんだから他人より絶対怠けてる。

 それらの活動量を百パーセントという限界を超え、二〜三百パーセントくらいまで強制的に活動させるのだ。まぁ、どうなるかすぐ分かる。




「よし....じゃあ、いくよっ!」



 コウキはそう言ってサーブを打つ。それと同時に俺の瞳孔が開いたような感覚がする。


 振り方、打点、シャトルの動き、それらから予測できるシャトルが描く軌道。先ほどまで見えなかった物が見えてきている。


 俺はシャトルが打たれた瞬間に、半身になり、ラケットを振り被る。そして、俺に向かってきたシャトルを一番高い打点で思い切り打つ。


 狙ったのはコウキの足下。コウキはそれに反応はしたが打ち返すまではいかず、ネットに引っ掛けた。




「おい....お前、井浦か?」


俺が得点を決めた後、真っ先に口を開いたのは審判をしている先生だ。なに驚いた顔してんの?


「井浦だよ。井浦以外の何者でもないよ?」


 缶屋でもあるけど井浦だよ。



「そうか....いつものダラダラふらふらした雰囲気じゃないからつい確認してしまった。....本当に井浦か?」



 ひでぇなオイ。訴えるぞ?


「いや本当に井浦だよ?いつもうらうらしてるよ!?」


「そうか、そうだったな」


 なんかよくわかんないけど納得してくれたようだ。コウキくんはなんか苦笑している。



「いくぞ?」



 俺はシャトルを貰い、サーブを打つ。シャトルはネットをギリギリ触れない高さで越え、段々と落ちていく。


 コウキは電気を身に纏い、稲妻と共に駆けてからそれを打ちかえす。

 

 少し高い軌道を描いたシャトルをスマッシュで打つが、コウキは雷速で前まで来ていて、それをコートの端に打ち返された。俺は足、身体、手を伸ばし、それを取り、またネットの向こうへ返した。


 けれど、コウキは腕に電気を纏い、雷速で打ち返される。


「くっ!」


 俺は反応はしたが、自分の筋肉が動く前に、シャトルは地面に落ちた。




「やばいな。スピードが圧倒的すぎる」


「君こそ僕が打つ前に動いてるじゃないか」



 コウキはそう言うが、それだけでは決定打には欠ける。全身が強化され、特に脳はいつもより数倍活動しているとは言え、雷速という圧倒的な速さには敵わない。


 でも、とにかく今は粘るしかないな。




[][][][][]



「うっし!」


 俺の打球が決まり、いつの間にか状況は九対九になっていた。あと一点取った方が勝ちだ。

 俺もそろそろ頭がオーバーヒートしそう。それと足の裏も擦り切れていて地味に痛い。



 周りを見ると、コートの周りで観戦している奴らの人だかりが出来ていた。


 ほら、そこのバカ共、俺の脱ぎ捨ててある靴下をラケットの先でつつくのをやめろ。

 それと向こうで俺のスリッパをラケットにしてバドミントンしてる奴らは何なの? しかもあいつら普通のラケットでやるより上手くね?裏の硬い部分と、表のめこってなる部分を上手く使い分けてるよあいつら。



「僕たちもスリッパで決着つけるかい?」


 俺と同じ方を見たコウキが、そんな事を言い出した。



「冗談でもやめろ。ちょっとやりたくなっちゃうだろ」


「そうだね」


 コウキは汗だくの顔で笑う。俺も今、こんな表情をしてるのだろうか。



「ああ。それにラストがスリッパじゃあ締まらないしな」


「全くその通りだね」


「んだ。じゃあ決着つけるぞ」



 コウキはその言葉に応えるようにラケットを構える。




 それを確認し、左手に持ったシャトルを放し同時にラケットを振る。

 そして、シャトルはまたこちら側へ返ってきた。


 ラリーは続く。相手の次の行動を探るように、相手のスキを探るように。


 だが、それが続いても不利になるのは俺だ。オーバードライブは永遠に続く訳ではない。出来れば賭けには出たくないのだが、贅沢は言えない。勝つ為の一手として必要なのだ。


 俺はシャトルを高く上げる。なるべくネットから遠くなるように。


 コウキはそれを見て、雷速で後ろに下がり、腕に電気を纏う。視線、足、腕、手首、多くのそれらを集め、自分の筋肉に命令する。

 ネットギリギリを超えて、左側のサイドラインに向かう沿線上、それを遮るようにラケットを振るように。


 雷速が打たれる。ラケットを握った右手が軋む。だがそれに耐え、シャトルを打ち返した。そしてそれは、ネットの上部に当たりながらも、何とか向こう側で落ちる。



「さすがだね」



 コウキは後ろから雷速で一気に前に出てそう言いシャトルを打ち返した。

 俺は、その言葉に上げられたシャトルを奥に打つ事で応える。

 コウキは、雷速ショットも含めて、三回連続で雷速を使うと次は使えないという俺の予測はどうやら合っていたらしい。賭けた甲斐があったな。



「だから、僕の負けだ」



 だが、


 その言葉と共に、コウキはラケットをまだ落ちていないシャトルの方へ投げ、それに稲妻が取り巻き、誰も握っていないラケットは、取り巻いた稲妻が動くと同時にシャトルを打ち返した。



 俺は、それに対して動くことができず、シャトルが自分のコートに落ちる音だけが耳に残る。



 そして、どうなったかが理解できた時に俺は急に力が抜けて、その場で大の字に寝転ぶ。


 ............まじかぁ。



「........おい、技は一つしか使わないんじゃ無かったのか」


「ごめんごめん。....でも、そんな事僕は一言も言ってないよ?」


 俺と同じように倒れたコウキが、そう言って笑った。


 それを見て俺は左手で額を覆う。



「これは一本取られたな」



 その声は、周りの歓声が上がったのと同時に発したので、もしかしたら届かなかったかもしれない。

 これで、一時間の、能力体育の授業を、終わりにします。

 ありがとうございました。

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