スポーツ勝負は本気でやるタイプ(勝負限定)
まだバドミントンするようです。
俺とグラ子のバドミントン対決が終わった後、それを見ていたEクラスのバカ共は、俺に感化されたのか別のコートでグラ子に試合を挑んだっぽいが、三人対一人でも、グラ子にとってはウォーミングアップにもなってなかった様子だ。
あ、今度は四人でグラ子に対抗するつもりのようだ。生きて帰ってこいよ、お前らの事は忘れないから。
そう思いながら体育館の出入口の前に立っていると、近くのコートから声が聞こえてきた。
「ダメだなぁ、カルシウムが足りないのかなぁ?」
「いや、違うと思うけど....」
そちらの方を見ると、困ったように苦笑いをしているユカリヨさんと、そのネット越しにいるEクラスの住人、ホネタロウがいた。得点盤を見ると十対ニで、ユカリヨさんの勝ちのようだ。
ちなみにホネタロウという名は本名で、能力は、百グラムのチタンを一グラムのカルシウムに変えるという能力だ。
能力体育って、何のためにあるんだろうな。
「あっ、井浦くん。次やろう?」
俺に気がついたのか、ユカリヨさんが声をかけてくる。
「あー、ごめんよ。俺は先にコウキとやれって先生に言われてるんだ」
そう。俺はコウキとも試合をしなければならないのだ。
「そっか。じゃあまた今度ね」
ユカリヨさんは少し眉を吊り下げながら言う。
「ああ、今度な」
俺はそう応じてコウキと先生が待っているコートへと向かう。
なぜすぐに始めなかったのかと言うと、グラ子との試合を終わった直後、俺はコウキに、『次は僕とやるんだろう?そこでお願いなんだが、全力でとは言わないけど、本気で勝負してくれないか?僕も本気でやる』と、言われた。
つまり『何か勝負できる程度の缶を一つ使ってくれないか?僕もそれに対等に勝負できる技しか使わないから』という意味の言葉を言われのだ。だから、俺はトイレに行くフリをして体育館を一回出て、バレないように注意しながら缶を使ってから、ここに戻って来たのだ。
「待たせたな」
俺はコートの真ん中に置いてあるラケットを拾いながらネットの向こうに立っているコウキに言う。
「いいよ。それより、始める準備は出来たかい?」
コウキくんはそう言って不敵な笑み浮かべた。不敵に笑った顔もイケメン。そしてその分迫力がある。新しい技でも使いたそうな顔だな。
「もう少し待ってくれ」
俺はそう言って動くのに邪魔な、履いていたスリッパと靴下をコートの外に脱ぎ捨てる。床と床に貼られたラインテープの感触が足の裏から直に伝わってくる。
「なるほど、僕もそうしようかな」
「上履きでも裸足でもそんな変わらないぞ?ただ俺は上履きが無いからこうしてるだけだ」
「「買えよ」」
コウキとネット傍に立っていた先生が同時に言う。仲良いなお前ら。
「いつか買うでござる。それより準備出来たよ?」
井浦、頑張る。
「では始めるぞ? ルールはさっきと同じだ。十ポイントマッチ プレイ!」
先生がルールの確認を取り、試合開始の合図を言った。
サービスはコウキからだ。コウキはしばらく俺を見た後、ラケットを振る。打たれたシャトルは、高めに上昇しながら進み、ネットを超えたあたりからだだんだんと落ちてきた。
俺はすぐに落下地点を予測し、周り込み、そしてスマッシュを決める。
俺が打ったシャトルは、ラインテープの上に落ちた。
よし、まずは一点だ。それにしても....
「最初、様子見の一撃で弱くやるクセは変わって無いな」
俺はコウキに言う。コウキは、武術や戦闘などでもそういったクセがたまに出る。
「そうだったね。気をつけているつもりだったのにな。でも、もう加減はしないよ」
コウキは、少し苦い物を食べた様な顔をした後、気を取り直したように笑いながら言う。
「んじゃ、次いくぞ?」
そう言って俺はサービスを打つ。俺のサーブは、低めの軌道でネットを超え、前の方に落ちてゆく。コウキくんは後ろで構えていたので取りづらいと思ったのだが....
「雷速」
俺にそんな言葉が届くと同時に、コウキくんはすでにシャトルが打ちやすい場所に移動していた。青白く光る稲妻の残光が、移動したコウキくんを追いかけるように横に走る。
うぉお、俺の見た事無い技だ。超かっけぇ速過ぎ。音速超えたか?衝撃波とか無かったけど。
そう思考を巡らせている間にシャトルはもう打ち返されていた。右寄りの、ネットから遠い所に落ちる軌道だ。
俺は半身になりながら自分から見て左の奥に落ちるように打ち返したが、少し緩めになってしまった。
コウキがこれを逃すワケが無い。コウキはシャトルの下で半身になり、振り被った腕には稲妻を纏う。
やばい
そう思った刹那、シャトルが床とぶつかった振動が床を伝って俺の足に届いた。
コウキくんは驚いただろう?と言いたそうに俺を見てきた。
「ああ、やべぇな。これは瀬田さんも驚くぞ?」
「だろう? 最近やっとコントロールできるようになったんだよ」
そう言い彼は笑った。不敵に、嬉しさが混ざったように、イケメンな顔で。
「どうコントロールしてんだよ」
ってかそもそも雷速をコントロールするってやばくね?コウキくんはどうなってんだよ。主人公かよ。
「ぜひ見破って貰いたいね」
そう言った後、コウキくんはサーブを打ってきた。次はあの雷速スマッシュを決められないように俺はネットギリギリの高さを通り越し、ネットに近い場所に落ちるように打ち返す。
だがシャトルがネットを越えたあたりで、コウキは稲妻を纏った後、そこに一瞬で辿り着く。そしてネットの上で優しくシャトルに面を当て、ネット前に落とされた。
俺は前に走り、思い切り足を前に伸ばしてやっと届いたが、 かなり緩く、打ちやすい所に返してしまい、結局コウキに雷速ショットを決められてしまった。
........
....ああ、久しぶりに巨大な壁を感じたな。どうやっても超えられそうに無い壁を。だが、それを超えられるかもしれない物を、先ほど俺は使ったのだ。
「なぁコウキ」
「なんだい?」
「俺もそろそろ『本気』の力が出そうだ」
俺はそう言った後、自分の口の端が吊り上がっている事に気がついた。
「なるほど。確かにまだ君の『本気』は感じなかった」
「ああ。だがあまり期待しないでくれよ? 雷速ほどかっこいい事は出来ない」
だって雷速とか聞いてなかったし。
「ああ。大体分かるよ」
コウキは俺を見透かしたように言う。
「君の本気は『超える』んだろう?」
....そこまで分かってて雷速を選んだのか。いいセンスしてるなオイ。
「その通りだ」
俺がコウキと本気で勝負するために出した缶。中身はスポーツドリンクと同じような味のものだが、ある追加効果がある。その効果こそが....
「限界を超える。それだけだ」
そう言い捨てて、俺は握っているラケットを構えた。
まだまだミントンを続けるつもりらしいです。どんだけ続くんだこれは。




