プロローグ
「なんで……なんで!」
周囲を囲む仲間と兵士たちへ向けて叫ぶ。
「……」
しかし、答えはない。ピクリとも動かずに佇んでいるだけだ。
問い詰めようと体に力を入れるが、血が流れるばかりで地面に縫い付けられたように動かない。
「クソ……。どうして何も答えてくれないんだよ……」
力のない小さな声が漏れる。
体の下には血だまり。徐々に薄れていく感覚。
仲間と兵士たちは止めを刺すつもりなのか、剣を構え、距離を詰めてくる。
ここで終わりなのか。
そう諦念を覚えると、自然と記憶の海に沈んでいく。
魔王を倒したとき。
街へ凱旋したとき。
主賓として祝いの席に出たとき。
王が暗殺されたとき。
そして現在まで思い返してみて違和感を覚えた。
何がおかしいのか、考えてみるとすぐにわかってしまった。
ただ別のことに意識を取られていたため、違和感に気づかなかったのだ。本当は初めから仕組まれていた。この時のために用意された仮初めのつながりだったのだ。
そう思うと、心の中でピキリと音が響いた。
「……ハ……ハハ。ああ、そういうことだったのか」
心の中に通っていた一本の芯。
何があろうと何と言われようと決して折れることはなかった。思い描く理想のために積み上げてきた心の在り方を示す柱であり、魂。歩いてきた人生。
そこに小さな亀裂が入った。
しかし、それだけで十分だった。
小さな亀裂は瞬く間に拡がる。そして、原形をとどめないほど大小様々の破片になって砕け散った。
同時に逆手に持たれた剣が一斉に突き下ろされ、体を貫き、意識は途切れた。