2010年4月 早くも計画は頓挫する
初日。マザーグースを聴きはじめた私の背筋に、悪寒が走りました。かなり精神的にきついものがあります。せっかくの素晴らしい詩を楽しむどころではありません。
職場に着いた途端、私はイヤホンをむしりとって、あらかじめ用意しておいた頭痛薬を飲みました。予想以上の苦行ですが、これを克服しなければリスニング計画は瓦解してしまいます。
そして、常に肩こりと頭痛と、いらいらした気分に悩まされながら聴き続けること半月。
ようやく肩の力が抜けて、英語の内容に耳を傾けることができるようになりました。
いったんその状態に入ると、さすがはマザーグースと言うべきか、リズムも響きも心地よく、英語でもその楽しさが伝わってきます。「ジャックの建てた家」は子供の頃に読んだ時も大好きだったのですが、耳で聴くと落語の「寿限無」に共通するものがあるような気がして、読書とは違ったオーディオブックならではの楽しみがあることを知りました。
しかし、4月の終わり頃、私はふと疑問を抱いたのです。
いくらマザーグースでも、リスニング初心者の私にここまで理解できるのはおかしいのではないかと。あまりにも相性が良すぎることに、違和感を覚えたのです。
私は何気なく、御者とか納屋の干し草とか、女性が膝を曲げて古風なお辞儀をすることを示す1語の動詞とかを受け入れてしまっていました。しかしよく考えてみると、全部、歴史物やファンタジーで仕入れた語彙なのです。そんなものが、社会科学系の英語文献に出てくるわけがありません。
要するに、私の趣味でオーディオブックを選ぶということは、好みのジャンルの原書を読んでいるのと同じ状態なのです。このままでは、必要な語彙が増えようはずがありません。
オーディオブックを楽しく聴いて語彙を増やすという、甘いプランでは駄目だったようです。次はレイ・ブラッドベリの『火星年代記』に挑戦する予定で、実はすでにファイルも準備していたのですが、諦めて方向転換することにしました。
最短で語彙を増やす方法といえば、そう、単語集です。
ただ、高校時代にやらされた学校英語のことなど思い出したくなかった私は、単語集というジャンルの存在からあえて目をそむけていたのでした。しかし、3年と決めた期限を考えると、さすがにそうは言っていられなくなってしまいました。