踏み出した未来
「はぁ、後どれだけ動けばいいんだ?筋肉痛確定だな。まぁ救うって言った以上やめないけどさ」
男は何時間経っても倒れもしなければ汗の一つもかいていない。
数分で一個師団は壊滅させられ、どんな化物にも負けたことのない私が攻撃し続けても倒れない。
男は今まで一度も私に攻撃をしていない逸らして避けているだけ、私に危害を加える気は一切感じられない。
なんでなのか解らなかった今まで憎しみや怒りしか向けられていなかった私になんでこんなにも暖かく接してくるのか。
救うと言ってくれるのか理解できなかった。
「お、思考タイムか。そりゃ良かった俺も少し休みたいんだよね。あ、水でも飲む?君の話を聞いたとき長くなるかと想って多く持って来たんだ」
身体が人型に戻っているのに自分でも気が付くのが遅れて男がその言葉を贈った意味がやっと解った。
自分でもなんで狼の姿から戻ったのか理解できなかった。
自分の身体なのに、いつも突然狼になるのは防衛本能のようなモノだって気が付いたのは五年くらい月日が経ってからだったけど、それでも当初は今の状況程理解のできないものではなかった。
「ほら、喉乾いたろ。アレだけ動いたんだからさ」
男は私のすぐ側に座って水の入った水筒を出す。
匂いで中に毒が入っていないことは解ったけど疑いがないわけじゃなかった。
「あらら、もしかして毒でも入ってると想った、心外だな。でも仕方ないか俺も学校でぼっちだった時話しかけて来た奴らは何か企んでると想ったくらいだしな」
男はそんなことを言いながら水筒水を飲んだ後私に渡す。
急に渡してきたモノだから無意識のうちに受け取ってしまった。
男は毒は入っていないと言いたかったから最初に水を飲んだのだって気が付くと仕方なく私は水を飲む。
美味しい水だった澄んでいてとても冷たい。
「上手いだろ、それでさ話してくれないかな。どうして君が泣いてたのか。ほら話すと楽になるって言うだろ」
「…………」
なにも言いたくなかった人間は嫌いだったしいきなりの事に私は男を信じられなかった。
「ま、仕方ないか。それじゃ話したくなったら言って俺少し寝るから。君を探して徹夜したから眠かったんだ」
男は洞窟の道の途中だと言うのに岩を枕代わりに寝た。
争っている時に大分移動したのか場所は人を殺したところから少し離れている。
あまりにも無防備に寝ている男の事が気になって首に手を当てる。
どうせ狸寝入りしていて警戒しているんだろうって想ったから。
けど男は動かないで寝息を立てていた。
初めて見る他人の寝顔に私は興味を示していた。
さっきまでいなくなって欲しいって想っていたのに。
「んぁ、よく寝た」
三時間程経って男はようやく目を覚ました。
私は男から少し距離を取った場所からずっと男の寝顔を眺めていた。
なんでか飽きなかった、今まで起こったどんな事よりも惹かれていた。
「……そっか、まだ話してくれないか。それじゃあ俺の昔の話を聞いてくんないかな」
私はなにも返さない、男は苦笑しながら私を見ている。
「俺はさ変わり者って言われてずっと独りぼっちだったんだよな、周りに人はいても関わりないって言うかさ。とりあえずなんで生きてるのかすら解らなかった」
私と……同じ。
ずっと独りぼっち、悲しくて寂しくて辛くて苦しくて痛くて涙を流して誰か傍にいて欲しくて叶わなくてまた涙を流す。
それを何年、何十年と繰り返していくうちに凍えてしまった。
ずっと陸に居るのに息苦しくて水の中に溺れているような感覚がずっとあった。
それから人が来て殺して、苦しくてもう生きているのが辛くなって死のうとしたけど私の中の狼がそれを止めた。
自己防衛本能、聞こえはいいけど自害もできないシステムだった。
「だからさ、人間に友達ができないからいっそのこと皆が化物って言ってる君たちと仲良くなろうと想ったわけ。それから極端に誰も近づかなくなってさ寂しさ倍増。笑っちまうだろ」
笑うなんてことできなかった、独りの寂しさを知っている。
その辛さも悲しさも全部全部知っている、男の辛さが解るなんて思わないけど、私はそれが辛かった。
「だからさ、俺と友達になってくれないかな?」
「なんで……私なの?」
私はそう問い返していた。
男の話を聞いていると化物なら誰でも良いように聞こえた。
「理由か、そうだなたまたま君の事を聞いたってのもあるけど一番はアレだ、君の写真を見たときビビッと来てさ。まぁ平たく言えば一目ぼれ?君かわいいし」
恥ずかしいのか男はそっぽを向きながら言う。
そんなことを言う人なんか今まで誰もいなかった、けど今は気持ちが変わった。
「……絶対に、私を独りにしないでね」
私は俯きながら言った。
初めての好意にどう答えたりしたら良いのか解らなくて……。
でも男はそれでも良かったのか満面の笑みをしていた。
「いよっしゃぁあぁぁぁぁ!!!!!!」
飛び上がりながら大はしゃぎをして私に手を差し伸べた。
私は男の手を掴んで立ち上がらせてもらう。
死にたいっていつも想っていた、けど私がたくさんの命を奪った分、誰も殺さず生きるそう想えたから。
「俺の名前はジンよろしくな、後で耳と尻尾触らせてくれよな」
「私はウル、昔自分で考えたの。それでなんで触りたいの?」
「決まってるだろ」
男はキメ顔で笑う。
私は意味も解らず首を傾げていた。
「狼っ娘最高!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ただそれだけだ」
私は真剣に言うジンの言葉をぽかんとして聞いてその後笑った。
「やっぱ笑顔の方が良いよ。ウルはかわいんだからな」
神様あの時私は諦めていたけど、あの時の死なせないでくれてありがとう。
初めての友だちは少し……いやかなり変わっていました。
ここまで読んでくださった方ありがとうございます。
完ッ全に最後のセリフをやりたかっただけなのですが楽しんでいただけたら幸いです