涙を流す理由
目を覚ますとそこは洞窟の内。
私が暮らす縄張りでここら一帯は私に逆らう化物はいない。
同時に私に近づく化物もいない。
人型の私は臆病で狼の時と違って命令を出したりできない。
ガシャリ、ガシャリと鳴る音を耳で確認した。
鉄くさい臭いが充満しだす。
「また、軍隊か」
来ないで来ないでと祈っても必ず来る。
殺されると理解できないのか?それとも理解したのに仇を討つために何度も何度もやって来るのか?
私は静かに寝ていたいのに……誰も殺さないで、ただ何もしたくない。
誰もが受け入れてくれないなら……いっそ私に関わらないで。
「全軍……突撃ィ!!怯むなぁ!!!」
隊長のような男が命令を下すと同時に全身鎧に包んだ兵士たちが雄々しく雄叫びをしながら洞窟の中に入って来る。
鉄くさい臭いが洞窟中に充満していくうちに私の意識も薄れていきなっていく、狼の姿にと……。
それから私は眠っていたかのような感覚だった、目を覚ますと血が至る所に飛び散っている。
あぁ、また殺したんだ……私が。
嫌だ死にたいと想った生きているのが辛かった。
時間が経つのが嫌だった悲しみしかない未来しか見えない。
神様、あなたが本当にいるのなら。私を楽にしてください、生きているのが辛いの。
誰もいない、私は独り暗い洞窟の中で泣いている。
「もう、嫌だよ……」
そう何年か振りにポツリと弱音を吐いた。
口にしたら耐えられないと想っていつも我慢していたけど、限界だった。
「なんだここは、血だらけの場所に獣耳の女の子。まぁ大体何があったかは想像できるけど。それより泣いてたら可愛い顔が台無しだよ」
鉄の臭いがしないせいで人の臭いに気が付くのが遅れた私は警戒する。
姿を現した男は長袖長ズボンに鞘に納めている剣を持っていた。
「あぁこれ?いや君たちって鉄の臭いが嫌いって言うだろだから特別製。実は俺友達いなくてさぁ。どう君は俺の友達になってくれるかい?」
その言葉は待ち望んでいた、優しく暖かい言葉。
私の側にいてくれる初めて友達になってくれると言った人。
でも私は信じられない……怖かったこんな言葉を向けてきた人はいなかったから。
だから私は狼となった、自らの意思から……。
「あぁもしかして君もぼっちだった?俺もなんだよね、自分で言うのもアレだけど見た目はさほど悪くないしさ、さっきの君が可愛くて今の君がカッコいいのに独りなのと同じ理由なのかな?」
雑音のように何かを言っている男が信じられなくて今すぐ消えて欲しくて私は誰も傷つけたくないのに殺したくないのに男の身長程ある前脚の爪を向けていた。
「あぶね」
なにをしたのか解らなかった、けど抜かれている剣を見て逸らされたんだって理解できた。
「うん、解るよ俺もすっごく解る。他の奴らに理不尽に避けられてっとさ相手の優しさを無条件に信じらんないんだよな」
そんな言葉を聞きたくなんかなかった、嬉しいはずなのに……ずっと待っていた言葉のはずなのに今は耳障りでしかない。
「そっかお前が泣いていたのは、受け入れて欲しくて誰にも受け入れられない悲しさから来てたんだな」
男は肩に下げていたリュックサックを下ろして私の目を真正面から見る。
「俺がお前を救ってやるよ、全身全霊命を懸けて全力でな」
私は雑音を出している男を消したくて、狩ることだけに意識を集中させ考えることをしなくなった。