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触れて 融けて 流れて 消えて。  作者: 篠宮 楓


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11/21

其の参

 晩秋。

 幹に栄養を届けてくれていた、葉たちが散り落ちた。枝に残っているものは、既に何もない。次の春に向けて、咲かせるためのつぼみをゆっくりと育んでいく……。


『ふぅ……』


 小さく、ため息を零した。

 夏から引きずっているだるさが、どうしても取れない。与えられた仕事である風を巡らせるたびに、身体が鉛を飲み込んだかのように重くなるのだ。

『歳かな……』

『まぁ、見た目は若くても主さまは千年生きてる桜だもんねぇ』

『小憎らしい言葉を吐くようになったね、喜楽。雛のお前を育ててやったのに』

『ふふっ、主さまが怒ったぁ』

 怒られている割には、嬉しそうな顔だけれどな。

 喜楽はくすくす笑いながら、私の手に触れる。流れ込んでくるのは、精霊の持つ力。自然から受け取る、生きていく力。


『早く元気になぁれ』


 喜楽に触れられた場所から、ゆっくりと生命力が流れ込んでくる。ひとの喜楽から生まれたこの子の力は、自然から生まれた私には少し強くてそして眩しい。

ほんの少し、私には重い。

『ありがと、喜楽』

 少し体が楽になった所で、喜楽の手の甲を重ねられていない方の手でトントンと叩いた。

『もういいの? もっと持ってって大丈夫だよ? 俺元気だし』

『喜楽が元気なのは重々承知だよ。でもこれ以上力を受け取ってしまうと、お前の眩しさに目が瞑れてしまいそうだからね』

『主さま、おばば様~』

 喜楽は憎まれ口を叩きつつも、心配そうな表情を崩さない。同じ精霊という事もあるんだろうが、喜楽は桜の木に集った人々の喜楽から生まれた精霊。そして生まれてからは私が育んできたから、ある程度、お互いの事が分かってしまう。


『心配するな、喜楽。このまま冬になって身体を癒していけば、体の不調もなくなるはずだよ。それよりも、今日は森の主さまの所に行くんじゃなかったの?』

『んー? 今日は主さまと一緒にいるー』

そう言って、ぴたりと半身を預けてくる喜楽をまじまじと見つめた。

『おや、珍しい。ふふ、甘えん坊さんだね』

『主さまのためだもーん』

可愛いものだ。


精霊に家族という概念はないけれど、きっとこの子は私の子供みたいな存在。喜楽にとっては、親なのだろう。

同じ場所から生み出され共に過ごしてくれば、他の精霊たちよりも近しく感じるのは道理なのかもしれない。



『主さま、主さま。ふぅって吹いて』

『かるーくだよ、ゆっくりだよ』

『つかれちゃだめだよ、そっとだよ』



先程まで私の仕事を手伝ってくれていた風の精霊達が、再び手元に寄り添ってくる。

『どうしたの?』

風の精霊から、息吹を願われるなんて珍しい。


『いいからいいから』

『ふぅって』


くるくると私と喜楽の側で飛ぶ精霊達に目を細めながら、繋いでいない手を口元に寄せた。

仕事で吹かせる風よりも、ささやかなため息のような息吹。私を離れたその風は、精霊達が受け取ってふわりと熱を持った。


『主さまは、さくらの精霊』

『はるがにあう、さくらの主さま』

『はるにはねぇ、あったかーい東の風が似合うんだよ』


風というには弱い、地に巡らせることのできない程の息吹。それが風の精霊達によって、桜の木をほわりと包んだ。


あたたかい……。


『主さま、主さま』

『元気になーれ』

『元気になぁれ』


あたたかい。

感じる温度ではなく、皆の気持ちが。私を心配してくれる精霊たちの感情が、温かく私を癒してくれる。あぁ、頑張って元気にならねば。


私は手を精霊達に差し伸べると、目元を緩めた。


『ありがとう、お前たち。とてもあたたかいよ』


私の手にまとわり付くように遊ぶ精霊達が、嬉しそうに光を放つ。それを喜楽と眺めながら、穏やかに時を過ごした。

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