俺の日常。
初のコメディーです。
初めて書いた駄文ですが、最後までお付き合いください。
俺の名前は、草加 直樹。
俺には付き合って1年になる霧生 紗奈という彼女がいる。
紗奈は無類のお笑い好きだ。
お笑い番組などを見せていれば、一時間でも二時間でも笑っているだろう。
「この人、おかしー!」
とか言って笑っているが、俺から言わせれば、紗奈も十分おかしい。
マトモだと言い張ってはいるが、それは本人の大きな勘違いだ。
今日は、俺たちの日常を書いてみようと思う。
まず、朝、目を覚まし、家を出て、紗奈を迎えに行くのが俺の日課だ。
紗奈は、いつも目覚まし時計なんかでは目を覚まさない。
紗奈を起こすには、まずビンタから入らねばならない。
とりあえず顔が真っ赤になるまで叩き終えると、紗奈の目がうっすらと開く。
そして、開いたまま意識は夢の中へ。
その第一関門を突破すると、次は鼓膜を突き破るほどの大きな音を鳴らさなければいけない。
俺がいつも使うのは、何故か紗奈の家にあるクラッシュシンバルだ。
俺はいつも耳栓を携帯している。
それを隙間が開かないように耳に詰め込み、大きく息を吸って、紗奈の耳元でシンバルを鳴らす。
その時間帯になると紗奈の家族だけでなく、周りの家に住んでいる人たちも耳栓をはめる。
周りの人が協力的で良かった。
そしてやっと朦朧とした意識のまま、紗奈が何かを呟く。
さて、今日はなんというだろう。
俺はぼそぼそと呟く紗奈の口元に耳を近づけた。
「うるせぇ、死ねハゲ」
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・こいつ、コロス。
内心そう思いはしても、一応最愛の彼女だ。
まさかそんなことができるはずもなく。
俺は引き攣る口元で乾いた笑いを漏らす。
「ハハハ・・・」
空しい。
俺は少しの間のあと、再びシンバルを響かせる。
そして、もう一度、紗奈の呟きを聞く。
「うるせぇっつってんだろ。ぶっ殺すぞ、このクソハゲ」
・・・・・・ホンキデコロシテイイデスカ?
シンバルを紗奈の安らかな寝顔に叩き付けたい衝動を堪え、俺は最終段階に入る。
紗奈はお笑いは大好きだが、ホラーには滅法弱い。
そこで紗奈の家に来る前に、鞄に詰め込んだ一本のビデオテープを取り出す。
タイトルは、『ミナゴロシ』。
今、一番怖いと噂のホラー映画だ。
紗奈を起こすためとホラー映画のビデオを購入し始めて、約一年。
俺の部屋はアブナイタイトルのビデオで埋め尽くされている。
そのお陰で友達を何人失ったことか。
ビデオテープをデッキに突っ込み、最大音量で再生する。
怪しい笑い声、そして、被害者の甲高い悲鳴。
さっき俺が手こずったのが嘘のように、紗奈は飛び起きた。
そして、画面に目を移し、これまた被害者顔負けの悲鳴を上げる。
ビデオを止め、紗奈を落ち着かせて、着替えさせてからやっと学校へ向かえる。
登校中は紗奈からの文句を嫌というほど聞かされる。
「なんであんな怖いのうちのデッキで再生するのよ!!」
・・・それはね、お前のためだよ。
毎回、こんなやりとりが行われ、紗奈の文句が尽きたところでちょうど学校につく。
日々の俺の精神的負担はノイローゼ気味のサラリーマンよりすごいものがあるだろう。
だが、更にダメージを与えてくる人物たちがいる。
紗奈だけでもう死にそうなのに、さらにダメージを与えてくる人物たち。
それは、前原 亜紀と那古 藍コンビだ。
亜紀は、生徒会長でしっかりしているように見えるが、実はかなりおかしい。
笑い出すととまらなくなり、おかしなことを口走るようになる。
藍。こいつは相当ヤバイやつだ。
1歩距離を置きたいのだが、結構お笑い系の女子で、紗奈が離れようとしてくれない。
姿かたちはどこかパンダを思わせる。
目が垂れているのもその理由のひとつだが、一番パンダを思わせるのは、昼休みに『笹タイム』があるせいだろう。
授業中はずっと、透明なビンに笹を入れて、眺めている。
そして、昼休みになると笹を食み始めるのだ。
本人は特上の松坂牛ステーキよりも本マグロの大トロよりも笹が美味しいという。
藍にススメられて、一度だけ噛んだことがあるが、ただの草の味しかしなかった。
というか、不味かった。
当然と言えば当然だが、藍があまりにも美味そうに食うので、騙されたのだ。
だが、「不味い!」と口に出してしまえば最後。
俺はその瞬間、絶命するだろう。
藍は外見や雰囲気はパンダだが、中身はグリズリー並みの凶暴さを持っている。
二の腕の筋肉などは俺の倍以上はある。
力を入れると、巨大な力こぶがくっきりと浮き出てくる。
それだけじゃ飽き足らず、藍はテンションがすぐにおかしくなるという超危険人物だ。
あなたに分かるだろうか?
この三人に囲まれて生活している俺の精神的苦痛が。
藍の機嫌が悪いときなんて、精神的苦痛だけじゃすまされない。
肉体的苦痛までいやというほど味あわされる。
誰か、お願いします。
こんな俺を助けてください。
「おぉ、今日も仲良くご登校かよ?」
教室に足を踏み入れた俺たちにかけられたのは藍のそんな一言だった。
てめぇ、俺がどんだけ苦労して起こしてきたと思ってんだよ。
だが、そんなことは口が裂けても言わない。
つか、言えない。
「おはよう、亜紀、藍」
紗奈は笑顔で二人のもとへと駆け寄っていく。
紗奈、なんでお前はそんな悪魔の巣窟のようなところへ自分から走っていけるんだ?
俺はこのまま亜紀・藍行きのコースを大逆走したい気分だよ。
「「おはよ、紗奈」」
息をぴったり合わせ、亜紀と藍が挨拶を返した。
「おい、直樹。お前も来いよ。何突っ立ってんだよ」
「わ、分かった」
俺のことは忘れ去ってくれて構わなかったよ・・・藍。
俺は結局、亜紀、藍のもとへと行く羽目になる。
そして、授業が始まるまで三人の相手をすると、俺の大嫌いな授業が始まる。
嫌味な先生の質問攻撃をなんとか回避し、なんとか昼休みまで漕ぎ着けると、次は珍獣3匹との食事タイムが待っている。
俺たちがいつも食事するのは、屋上だ。
雨が降ろうが、槍が降ろうがそこで食事だ。
それはヘンに藍がここを気に入っているせいだろう。
なんやかんや言いつつ、亜紀も藍を恐れている。
雨の日は、メシにびちゃびちゃと雨がついても何食わぬ顔で食事する。
俺はその時点で食う気をなくす。
だが、他の三人は『雨なんてしょせん調味料のようなものだ』と言わんばかりに次々と口にメシを運んでいく。
ちなみに『雨なんてしょせん調味料のようなものだ』とは実際に藍が言い放ったセリフだ。
いやいやいやいやいやいやいや。
突っ込みどころが満載すぎて、どこから突っ込めばいいのか分からないので、とりあえず聞き流す。
今日は俺の照る照る坊主が聞いたのか、からっと晴れている。
助かった・・・。
「げっ。あーなんか、食う気うせたー」
藍は弁当箱を開けて、すぐにそう言って弁当箱の蓋を閉じた。
そうかそうか。
なら、食うな。
おかしな考えも起こすなよ。
黙って、笹食っとけ。笹。
だが、俺のそんな些細な願いも神様は聞き届けてくれなかった。
神様、あんたも怖いのかよ?
この珍獣。
藍はにやりと嫌な笑顔で俺たち全員を見渡す。
亜紀は何食わぬ顔で、弁当を後ろに隠した。
紗奈もだ。
そこで俺は出遅れたことに気付く。
慌てて、弁当を隠そうとするがもう遅い。
するっと何かが伸びてきて、俺の弁当をかっぱらっていった。
?
??
???
するっ?
俺と藍の距離は2メートル。
亜紀との距離は3メートル。
紗奈との距離も2メートル以上。
今伸びてきたのって、ナニ?
俺の弁当は、藍の手に収まっていて、俺の目の前には藍の弁当箱が置いてある。
いや。
おい。
まて、コラ。
今、伸びてきたのはなんだよ。
まさか、○ンピースのル○ィじゃねえんだからよ。
一方、紗奈たちは平然としている。
紗奈は「なに驚いてるの?」と言う顔で小首を傾げ、亜紀は「当然でしょ」という顔で静かにメシを食っている。
藍は俺の弁当を食い終わって、弁当箱の蓋を閉めているところだった。
ん?
はやっ!!
今、気付いたけどはやっ!
さっき俺から盗ったばかりだろうが!!
お前、味わって食うってことを知らないのかよ。
そこで俺はやっと、ここでマトモなのは俺しかいないことに気付き、伸びてきたナニかのことを忘れ、仕方なく藍の弁当箱を開けた。
・・・・・・。
何も言わず蓋を閉めた。
そして、黙ってスススッと弁当箱を藍の方へと押し返す。
「んだよ?」
「・・・・」
「食わないのか?」
こっくりと頷く。
いや、つか食えるわけねえだろ。
今日の藍の弁当の中身は、豚すらも食べる気をなくさせる雰囲気を持つ異様なモノだった。
まず弁当箱の真ん中に仕切りがあって、そこから左に(おそらく)白い米があるのだろう。
だが、その上には緑色の気持ち悪い物体がドロッとかけてあった。
そして、次に右だが上のほうにぐちゃぐちゃのたぶん、卵焼きになるはずだったモノがもっさりと盛られてあった。
そして、最後のスペースには、何か長くて気持ち悪い色の・・・そうミミズ・・・いややめておこう。
とりあえず、そんなものがぎっしりと詰め込まれた弁当だった。
藍の母親の麻美さんは、美人で優しいが五回に三回の確立でこのようなものを作り出す。
そして、大概こんな弁当だった日は、藍は俺の弁当を奪っていく。
一度だけ、見た目は酷くても味は・・・。
と思って、食べてみたことがある。
結果、俺は危うくご臨終するところだった。
とりあえず、その日は救急車のお迎えで早退し、3日間の点滴生活を余儀なくされ、退院して数日間は軽い半身麻痺が俺の体を蝕んでいた。
決して悪い人ではない。
悪い人ではないのだが・・・俺は藍の家に行くのをやめた。
いつもなら、まだ人の食べ物だったものが入っている。
だが、今日は違う。
何か想像を絶する嫌なものが・・・。
「食えよ」
「やだ」
「食えったら」
「やだ」
「食えっつってんだろ?」
「いやだ」
「いいから、食えよ。美味いぞ?」
「そんなわけがない」
「〜〜〜〜〜っ食えっつてんだろうが!!」
「食えるかぁ!!絶対的に危ないもんが入ってんだろうが!!お前にはそれが見えんのか!」
「バッカ、お前それは・・・し、塩辛だよ!!塩辛!!!だから、大丈夫だ!」
「言葉に詰まってたじゃねえかよ!!しかも、現在進行形で目が泳いでんぞ!!」
「なんでもいいから、食えって!!」
「い〜や〜だ〜!!」
キーンコーンカーンコーン
「あ、昼休み終わった」
という今まで高みの見物をしていた亜紀が言った。
俺は逃げ出す絶好の機会に無理やり、藍を押しのけ、屋上から飛び出していった。
「「「チッ!」」」
という三つの舌打ちが聞こえた気がするが、そんなものは俺は聞こえなかった。
せめてもの救いなのが、奴らとは掃除場所が違うことだ。
俺は掃除を急いで済ませ、どうやって藍のあの弁当から逃げようか策を考えていた。
だが、無慈悲な予鈴によって、俺は再びあの悪魔の巣窟に帰ることになってしまった。
休み時間も男子トイレの個室に篭ったりして、逃げていたが、結局、やつらが野放しになる放課後が来てしまった。
俺は急いで帰る用意をして、教室を飛び出し、校門まで全力疾走した。
校門を出ると、目の前に紗奈が立っていた。
終わった・・・。
いくら彼女といえど、紗奈も藍たち俺を苛めることを楽しんでいる。
これから連絡をするのだろうと思い、再び走る用意をすると、紗奈が一言だけ、こう呟いた。
「おんぶ・・・」
は?
ん?待てよ?奴らに連絡する気はないのか?
よくよく見ると、紗奈の目はとろんとしている。
あぁ、眠いのか。
「自分で歩けよ」
「ヤだ。おんぶしてくれなきゃ、藍たちに連絡するからぁ・・・」
「どうぞ、お嬢さん。俺の背中でよければ!」
そうして、結局俺は紗奈を背に乗せ、紗奈の家までの道をとぼとぼと歩いていた。
紗奈はもうすやすやと眠ってしまった。
紗奈の寝顔は本当に可愛い。
この時間帯はいつもなら今日も大変だった、の溜め息をついているところなのだが、今日は違う。
俺は、紗奈の安らかな寝顔を見て、心を和ませた。
こういう時間があるからこそ、俺は明日も学校へ行こうと思えるのだ。
すると、もごもごと何かを紗奈が呟いているのが、聞こえた。
「・・・あの、ミミズ食っちまえばよかったのに・・・」
さっきの和やかな雰囲気はどこへやら。
俺は黙って、再び歩き出した。
それにしても・・・やっぱりあれはミミズだったのか・・・。
どうでしたか?
少しでも笑ってくださった方がいてくだされば、この上ない幸せです。