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某都市圏に存在する字見市字見町。
一年前、この町は「日本一珍苗字が集まる町」として、数々のバラエティ番組などで全国的に紹介された。
「珍苗字」
住人のほとんどが珍しい苗字を持っているということを除けば、他となんら変わらないどこにでもある普通の町である。
町長や役所の観光課の人たちは、町おこしだとこの機を逃がすかと言わんばかりに面白いほど必死になってテレビに売り込んでいたが、その努力空しく「珍苗字ブーム」が終わると、町はいつも通りの静けさを取り戻した。
町に取材が来た時も、町長たちが躍起になっていた時も、町の人々の反応は冷めたものだった。
それと言うのも、先にも述べた通りこの町のほとんどの人が珍苗字なため、彼らはいまいち自分たちの苗字の珍しさを理解していなかった。
彼らからしてみれば、「なに人の苗字でそんなはしゃいでんの?ばっかじゃない」である。
彼らにとっては「田中」や「山田」の方がずっと珍しいのである。
また、いくら町が寂れようとも、字見市や周辺地域は都会と変わらない賑やかさを持っていたことも理由の一つと言える。
自分たちの生活に不便さえなければ、人は残酷なほどに無関心なものである。
そんな字見町に住む彼らは、珍しい苗字を持っているからと言って別段何かあるわけでもない。
ごくごく普通の人々である。
この字見町には、「私立いろは学園」という高校がある。
制服は学ランにセーラーだけど、紺ではなく臙脂色をしている。
学年は制服のラインと校章バッチの色で分けられている。
ラインは毎年仕立て屋に持っていかなきゃいけないし、校章バッチも買わなきゃいけない。
しかもこのバッチ、不良品なのかよく壊れて取れるから失くしやすくて失費がかさむ。
っと、話がそれた。
申し訳ない。
いろは学園の「いろは」の由来は、この学園の敷地内のいたる所に植えてある「いろは紅葉」にある。
日本の代表的な紅葉の一種であるらしいこのいろは紅葉は、学園が建てられる前から今よりもずっとたくさんあったとのこと。
まあ、他にも、学問のいろはを教える場という意味があるという説もあるが、前者の方がしっくりくる。
このいろは紅葉は学園の名物としても有名で、毎年秋になると必ず厄介ごとを呼び寄せるのだが、まあこの話はいずれ。
「そういえばさっきからいろりろしゃべってるけど、君は一体誰?」だって?
これは失礼。
自己紹介がまだだったね。
私の名前は獅子島 レオン、十七歳。
この字見町に住むいろは学園二年生帰宅部。
家族構成は…ちょっとどろどろしてるからこれもまた今度。
ごくごく普通の女の子である。