正丸峠の貴公子、現る。稲辺の息子「オクラ氏」とNAロードスターの話。
「父のことは……まあ、尊敬してますよ。でも取材のときは別の人みたいに話さないでください(笑)」
オクラ氏は開口一番そう言って、少し照れた。
場所は埼玉県内のコンビニ駐車場、夜21時。颯爽と現れたのは、前号で取材した稲辺氏の一人息子だ。ペンネームは「オクラ」、本名は教えてもらえなかった。「父に見られたら困るんで(笑)」。父と同じ言い訳だ。(´∀`)
駐車場の隅に停まっていたのは、小さなオープンカーだった。ユーノスロードスター、NA型。
父は知っているか。息子が峠を走っていることを。
「走ってます。正丸峠メインで。NAロスタなんで湾岸は最速じゃなく最遅なんですけど(笑)。湾岸の貴公子じゃなくて正丸峠の貴公子になります」
そう言いながら、エンジンをかけた。
B6ZEが目を覚ます音がした。静かで、しかし確かに芯のある音だ。そのとき、取材班の記者は気づいた。ハンドルを握ったオクラ氏の顔が、さっきまでの「あざとい息子」とはまるで別人になっていた。
目が、変わった。
湾岸の貴公子の再来――なるほど、確かにそう思う。
ユーノスロードスター NA型、この車のことを話そう。
まず車の話をしなければならない。
ユーノスロードスター、1989年登場。全長4m弱というコンパクトなボディに1トンを下回る車両重量を実現し、FRレイアウトとオープンボディという、ライトウェイトスポーツの神髄にこだわったパッケージとして、登場と同時に世界中を驚かせた一台だ。このロードスターの大ヒットを機に、BMW・Z3やポルシェ・ボクスターなど欧州メーカーもライトウェイトスポーツをリリースし、このジャンルの世界的流行の引き金になったという事実は、この車が単なる「安いオープンカー」でないことを示している。
オクラ号に積まれているのはB6ZE型、直列4気筒1597cc、DOHC、最高出力120馬力を6500回転で、最大トルク14.0kgmを5500回転で発生するエンジンだ。最大トルクと最高出力の発生回転数がとても近い、高回転まで回すことで力を発揮するタイプのキャラクターで、回せば回すほど気持ちよくなる。峠で使い切れる馬力、という意味では、これ以上ない選択だ。
「峠で120馬力は全然使えますよ。むしろ使い切れる感じが楽しい。父のオデッセイは200馬力あるのに、なんか勝てる気がしないです(笑)」
HKS スライドカムプーリー IN/EXセット、ここが今回の核心だ。
エンジン本体には手を入れていない。でもこの一点で、B6ZEの味がぐっと引き出されている。
HKS スライドカムプーリー、IN/EXセット。
スライドカムプーリーとは何か。カムシャフトのバルブタイミングを調整するためのパーツで、角度調整機構によってさまざまなエンジン仕様に対応できるものだ。プーリーの目盛りは1目盛りでクランク角2°となっており、マイナス20度からプラス20度の範囲で調整が可能。調整ミス対策としてアドバンス(A)とリタード(R)の方向が刻印されており、目視で確認できる工夫もある。
なぜこれがNAロードスターに効くのか。ノーマルエンジンにスライドカムプーリーを入れてオーバーラップをわずかに増やすと、低回転のトルクが増えて街乗りや高速での追い越しがよくなるという体験談がある一方で、バルタイの調整でアイドリングが安定し5000回転から上がストレスなく回るようになった TOMEIという声もある。つまり調整の方向性次第で、低回転寄りにも高回転寄りにも味付けを変えられる。これがNAチューニングの醍醐味だ。
「ショップに持ち込んでバルタイ調整してもらいました。峠の立ち上がりで使う中回転域のレスポンスが良くなった感じがします。あと音が変わった。なんか芯が出た感じで」
母材にジュラルミン材を採用し、従来品から約7%の軽量化を実現。ギア部にはニッケルメッキが施され耐久性も向上しているので、スポーツ走行に安心して使える。純正プーリーから換えることで補機系の慣性重量も減り、エンジンのレスポンスにも貢献する。
( ・∀・)つ PHANTOM's EYE
スライドカムプーリーは「付けるだけ」では効果が出ない。取り付け後に必ずバルブタイミングを調整することが前提だ。純正位置のまま締めると、ただの軽量プーリーになってしまう。調整方向は使い方によって変わるので、ショップに相談しながら詰めるのがベスト。またIN/EXのセット換装なら両方のバルタイを合わせて調整できるため、片側だけより効果が出やすい。NAロードスターのNAチューンとしては最もコスパの高い選択肢のひとつだ。ヽ(´ー`)ノ
エンジン周り、NAを信頼できる状態にする。
CMS製のシリコンラジエター&ヒーターホースセットで経年劣化したゴムホースを一掃、BLITZのレーシングラジエターキャップで冷却圧を管理。ジャスパフォーマンス製のエンジントルクダンパーで加速・減速時のエンジンの揺れを抑える。NGKのプラグコードで点火系をリフレッシュ。
「買ったときにホース類が結構くたびれてたんですよ。まず全部換えることから始めました。父から『ゴムは疑え』って言われてて(笑)」
父の教えが生きている。(笑)
給排気、NAをちゃんと吸わせて吐かせる。
インテークはKTS製のアルミインテークパイプ+HKSのスーパーパワーフロー。スムーズにエアを取り込み、B6ZEの高回転域を気持ちよく使う準備だ。
マフラーはフジツボ パワーゲッター。フジツボはNAロードスターのマフラーで長年の定評を持つブランドで、B6ZEの回転フィールを損なわない抜けのよさが特徴だ。「音がすごく好きです。NA特有の乾いた高回転サウンドが出る。これで走りながらエンジンの声を聞くのが楽しくて」
剛性補強、オープンボディだからこそ。
NAロードスターはオープンボディゆえ、本質的にクローズドボディより剛性が低い。軽量・オープン・FRという三要素がこの車の神髄である一方、オープンであることはボディ剛性との永遠のトレードオフだ。
CUSCOのフロントストラットタワーバー タイプOSでエンジンルームを繋ぎ、カワイ製作所のブレスバーでフロア下からボディを補強する。「タワーバーとブレスバーを入れてから、峠のコーナリングが別物になりました。コーナーの中でハンドルがズバッと向くようになった感じ」
足回り、TEIN FLEX Zで決める。
車高調はTEIN FLEX Z。減衰調整式でNAロードスターへの適合もしっかりあり、軽量ボディのロードスターには過剰な固さにならない絶妙なセッティングが出しやすい。「正丸峠のコーナーに合わせて減衰を自分なりに調整してます。まだ正解はわかってないですけど、試行錯誤が楽しい」
外装、ガレージベリーで纏める。
エアロはガレージベリーのフロントバンパー T-N、サイドステップ、リアバンパー T-Nの3点セット。ガレージベリーはNA/NBロードスター専門に近いカスタムブランドで、ロードスターの繊細なフォルムに合わせたデザインが持ち味だ。「NAロードスターのエアロを選ぶなら、やっぱりガレージベリーだって感じで。他のメーカーよりフィットしてる感じがする」
ホイールとタイヤ、軽さを活かす16インチ。
ホイールはゴジゲン プロレーサー キャノンボール 16インチ。タイヤはアドバンのフレバ。「17インチじゃなくて16インチにしたのは、乗り心地と峠での軽快感のためです。NAロードスターに17インチはちょっと重い気がして」
軽量ボディに合わせた16インチ選択は、ロードスターの軽さを活かす正しい方向性だ。バネ下重量の軽さは、軽いボディのロードスターでは特に体感しやすい。
内装、走りに必要なものだけ。
コクピットはナニワヤのシートレール スタンダードタイプ/S+EZタイプ フルバケットシート。「2シーターだからシートがめちゃくちゃ大事なんですよ。1人しか乗らないし、走るためのコクピットにしたくて」
HKBボスにデポレーシングの35Φ ディープコーン 80mmのステアリング。「小径ディープコーンはNAロードスターに絶対合うと思ってた。実際付けてみたら、峠でのステアリングワークがすごく楽になった」
オートゲージの油温・水温・油圧の3点セット。「メーターは必要最低限。余計なものを付けたくない。この車には似合わないと思って」
インタビュー:オクラ氏、本音を語る。
――父がオデッセイをチューニングしているのは知っていましたか?
「知ってました。エンジンルームが赤くなってたし(笑)。でも細かいことは聞いてない。お互いのことは、あんまり干渉しないんで」
――NAロードスターを選んだ理由は?
「かわいいんですよ。顔が。あと小さくて軽い車が好きで。父みたいにでかいパワーある車より、軽い車でコーナーを丁寧に走る方が好きだなって気づいて」
――正丸峠メインというのは?
「埼玉なんで近いんですよ。あそこはタイトなコーナーが多くて、NAロードスターの軽さと小ささが活きる。パワーがなくても楽しく走れる峠を選んでます(笑)」
――父の「湾岸の貴公子」という過去について、どう思いますか?
「……かっこいいと思いますよ、正直。でもそれは父の話なんで。自分は正丸峠で自分のスタイルを作りたい」
――NAロードスター、これから何をしたいですか?
「まだバルタイの調整を詰めたい。あとブレーキを強化したい。峠で踏み込んでいくと純正のブレーキが物足りなくなってきて。少しずつですけど、ちゃんと仕上げていきたい」
――最後に、このNAロードスターの好きなところを一言で。
「全部です。軽くて、小さくて、うるさくて、かっこいい。これだけで十分じゃないですか」
取材を終えてオクラ氏が走り去った後、しばらくその場に立っていた。
B6ZEの乾いた音が夜の埼玉に消えていく。湾岸の貴公子の息子は、峠の貴公子になろうとしている。父は知らないだろうが、血は確かに争えない。そう感じた編集部であった。




