お父さんだって走りたい。元湾岸の貴公子・稲辺氏とオデッセイ RB1アブソルートの話。
「昔の話をしますか?」と稲辺氏は言って、少し笑った。
場所は神奈川県内のファミリーレストラン。夜19時、仕事終わりの稲辺氏が現れたのは定時ぴったりだった。ホームセンターの店長、という肩書きがぴったりな、落ち着いた中年男性だ。髪は短く、服装は清潔。走り屋には見えない。
でも、駐車場に停まっているオデッセイの顔が、普通じゃなかった。
稲辺氏の過去と現在。
「20代の頃は湾岸をよく走ってましたよ。当時はスープラに乗ってて。仲間内では『湾岸の貴公子』なんて呼ばれてたりして……今思うと恥ずかしいですけどね(笑)」
「貴公子」と呼ばれた男は今、大学生の一人息子を持つ父親だ。息子はつい先日NAロードスターを買った。「血は争えないなって思いましたよ。嬉しいような、複雑なような」と稲辺氏は遠い目をする。(´∀`)
スープラを手放したのは息子が生まれた頃だという。「現実的な車が必要になって。でも普通のミニバンは嫌で。低くて、速くて、家族も乗れる車を探したらオデッセイアブソルートに行き着いた」
それが今から7年ほど前の話で、そのオデッセイは今も稲辺氏の手元にある。ただし、「普通のミニバン」の状態では、もはやない。
オデッセイアブソルートRB1、200馬力のミニバン。
まずこの車の素性を整理しよう。
ホンダオデッセイRB1、2003年登場の3代目。先代より全高を8cm低めた低床プラットフォームにより、ミニバンとしては異例のローキャビンを実現しながら室内高は先代を上回るという、当時としては革命的な設計 Amazon Japanだ。そのスポーツモデルがアブソルートで、搭載するK24A型2.4L DOHC i-VTECエンジンは、プレミアムガソリン仕様として圧縮比を高め、吸排気系のチューニングを施すことで最高出力200馬力、最大トルク23.7kgmを発生する。
200馬力のミニバン。7人乗りで200馬力。これが元・湾岸の貴公子が選んだ車だ。
「アブソルートは最初からハイオク仕様で、足回りも専用チューニング。本物のスポーツグレードなんですよ。CVTが少し残念ですけど、それ以外は不満がない」
CVTが少し残念、という言い方が走り屋OBらしい。(笑)
外装、タケローズとV-VISIONで決める。
稲辺号の第一印象を決めているのはタケローズ VOL2のフルエアロだ。フロントバンパー、リアバンパー、サイドスカートの3点セットで合計22万円。タケローズはRB1オデッセイのカスタム界隈では定番のブランドで、純正のシャープなラインに合わせたエアロデザインはフィッティング精度も高い。
ボンネットはV-VISION製のFRPボンネット。純正の鉄製から換えることでバネ下の軽量化に貢献する。「息子に見せたら『車が変わったみたい』って言ってました。その顔が嬉しかった」。走り屋の血が流れる父と息子の会話だ。(´∀`)
K24A、200馬力NAをさらに使いやすくする。
エンジン本体には手を入れていない。稲辺氏の方針は「200馬力のK24Aを最大限に使い切る」ことだ。
まず面白いのが今回の構成のキモ、シエクル ミニコンプロVer2とスロコンのセットだ。ミニコンプロは吸気圧力センサーへの割り込みで燃調を制御するサブコンで、O2センサーのフィードバック制御が働くアイドリングや一定走行時ではなく、アクセルを踏み込んで負荷がかかる走行域で燃料噴射と点火時期に明確な変化を与える。つまり「踏んだとき」に効く装置だ。
これにシエクルのスロコンを組み合わせる。スロコンとは電子スロットル車のアクセル開度に対するスロットル信号を制御し、エンジン本来のポテンシャルを引き出す装置で、燃費重視に設定された純正ECUのアクセルレスポンスの鈍さを解消し、レスポンスとトルクフィーリングを向上させるものだ。専用ハーネスのカプラーオンで取り付けられる手軽さも魅力だ。
「ミニコンとスロコンを組み合わせたら、発進からの出方が全然変わった。CVTの鈍さが気にならなくなった、というか、CVTなのにリニアな感じになった」
ミニバンのCVTをスポーツドライビングに近づける、というアプローチは稲辺氏らしい実用的な発想だ。
エンジン周りの補機類も地道に手が入っている。DIYでエンジンヘッドカバーとプラグカバーを塗装。THINKBIG製のクーラントホース10本セット(赤)に換装し、無限製のオイルフィラーキャップを装着。BLITZのレーシングラジエターキャップもアクセントになっている。
「エンジンルームを開けたとき、赤がちらっと見えるのが好きで。自分しか見えないところをこだわるのが楽しいんですよ。ホームセンターで働いてると、DIY好きになるのかもしれない(笑)」
( ・∀・)つ PHANTOM's EYE
シエクルのミニコンプロとスロコンを組み合わせるのは定番の構成だが、ノーマルの燃調マップは燃費重視で「踏み始めに噴射を絞る」制御が入っていることが多く、電子スロットルのかったるさの原因はここにある。ミニコンプロで踏み込み時の燃料を増量し、スロコンでアクセル開度に対するスロットル信号を早めることで、両方から同時に対策できる。ただし設定を濃くしすぎると燃費が大きく悪化するので、ダイアル調整は少しずつ変えながら体感と燃費のバランスを確認することが重要だ。特に家族を乗せる機会が多い車では、設定を「走るとき用」と「普段用」で覚えておくといい。(゜Д゜)
インテークマニホールド流用、K24Aをさらに解放する。
Ebayで入手したK24A swap用インテークマニホールドが今回の仕様の中で最もユニークなポイントだ。純正インマニと比べて流量特性が異なる設計のものを使い、K24Aの中高回転域の伸びを引き出すのが狙いだ。「海外のK24Aスワップコミュニティに転がってる情報で見つけた。走り屋の後輩に相談したら『やってみましょう』って(笑)。あの子に感謝してる」
後輩の収集力と稲辺氏の実行力が合わさった、オデッセイらしからぬ一手だ。エアクリーナーはAutobahn88の汎用品、キングレーシングのシリコンホースで繋いでいる。
足回りと剛性、ミニバンを走らせる工夫。
車高調はBLITZ DAMPER ZZ-R。「ミニバンの車高調を選ぶとき選択肢が少なくて。ZZ-Rはオデッセイの適合がちゃんとあって、信頼できるブランドだったから迷わなかった」。
剛性補強はウルトラレーシング製のストラットタワーバーのみシンプルに1本。「ミニバンにタワーバーって笑う人もいるけど、入れると体感できる。コーナリングのフラフラ感が締まる」。
ホイールとタイヤ、FD2 TypeR流用という一手。
ここが一番「わかってる」と思った箇所だ。ホイールはヤフオクで5万円で入手したホンダFD2シビック TypeR純正の18インチホイール。
「FD2の純正が安く出てたんですよ。18インチで、デザインもスポーティで。でもオフセットがオデッセイにそのまま付けると内側に入りすぎるのでHKBの8mmスペーサーで調整した」
アブソルートは純正で17インチを履いているため、18インチへのサイズアップで見た目も引き締まる。ヤフオク5万円+スペーサー800円で純正比1インチアップを実現した、コスパ抜群の流用だ。タイヤはNANKANG NS-2、215/40R18。「タイヤはケチりました。家族も乗るし、磨耗したらまた換えるし。グリップより耐久性優先で」。家族持ちの現実的な判断だ。
内装、走り屋の名残。
コクピットに乗り込んで、少し驚いた。フルバケットシートが鎮座している。
「家族には怒られました(笑)。助手席のシートを換えたら奥さんに『乗りにくい』って。でもどうしても入れたかった。走るときは自分しか乗らないし」。NANIWAYAのSP-GTタイプ フルバケットシート、シートレールもカワイ製作。
オートゲージの水温・油圧・油温の3点セットが追加されている。セルスターのAR-W88LA+OBD2アダプターRO-117のセットも装着済みで、OBD2経由で車両情報をリアルタイム表示できる。「昔は追加メーターを付けまくってたけど、今は必要最小限でいい。でも水温と油温だけは見たい。これは習慣みたいなもの」。
走り屋の本能は、ミニバンに乗っても消えない。
インタビュー:稲辺氏、静かに語る。
――湾岸を走っていた頃と、今と、何が一番変わりましたか?
「目的が変わりましたね。昔は速く走ることが目的だった。今は、走ることを楽しむことが目的。息子が車を買って、また一緒に走れるかもしれないと思ったら、それが楽しみで」
――このオデッセイで、湾岸を走ったことはありますか?
「……あります(笑)。夜中に一人で。誰にも言ってないですけど」
――速かったですか?
「それなりに(笑)。ミニバンですけど、200馬力あって、足が固まってて、車高が低い。遅くはないですよ」
――息子さんのNAロードスター、どう思いますか?
「いい車を選んだと思います。NAはピュアで、乗り手の腕が全部出る。チューニングにはまるだろうな、と思って。でもアドバイスはしない。自分で経験するのが一番だから」
――そろそろスポーツカーに戻ろうと考えているとか。
「息子が車を買ったのを見て、何か刺激を受けましたね。このオデッセイはこのオデッセイで気に入ってるけど……またスポーツカーに乗りたい気持ちは、正直あります。何に乗るかはまだわからないですけど」
――奥さんには相談しましたか?
「……まだです(笑)」
取材の帰り際、稲辺氏がオデッセイに乗り込んでエンジンをかけた。MOOREのチタンテール砲弾、左右出しからK24Aの排気音が静かに響いた。ミニバンが出す音ではなかった。
元・湾岸の貴公子は、今夜もどこかを走る。家族に黙って、少しだけ。




