死んでたZが、走り始めた。――部品取り車からの復活、加藤 良平とZ32の話。
「最初はエンジンがかからなかったんですよ。タービンは死んでるし、ホースはひび割れてるし、コネクターは腐ってるし。でも、かたちが好きだったんで」
加藤 良平は、そう言って照れ笑いした。
取材場所は埼玉県内の自宅ガレージ。薄暗い蛍光灯の下に、ボーガンみたいにロー&ワイドなシルエットが鎮座していた。日産フェアレディZ Z32型、ツインターボ 2by2。全長4525mm、全幅1800mm、全高1255mm……当時の日本車としては異様なほど低く、幅広く、スーパーカーを彷彿とさせるフォルム。
でも加藤がこれを手に入れたとき、この車は「部品取り車」だった。
Z32を買う、という選択。
最終型でも20年以上の歳月は、ゴムを硬化させ、金属を腐食させ、電装系を狂わせる。特にVG30DETTは熱に厳しい環境で使われ続けたエンジンゆえ、タービンのウェストゲートアクチュエーターの腐食やコネクターの劣化といったトラブルが積み重なっている個体が多い。
加藤号もそうだった。前オーナーが「直す気力がなくなった」と言って手放した個体で、ヤードに転がっていたところを加藤が引き取った。値段は聞かなかった。でも、安くはなかっただろう。
「Z32ってかたちが好きなんですよ。ロー&ワイドで、どこから見てもかっこいい。こんなデザインの車、もう出てこないじゃないですか」
その一言で全部わかった。加藤はこの車に、惚れ込んでいた。(´∀`)
まず、生き返らせるところから。
チューニングの話をする前に、レストアの話をしなければならない。
加藤号は入手後、まず徹底的な素性の洗い出しから始まった。VG30DETTは基本的に丈夫なエンジンで、前期型でトラブルが頻発した点火系のパワートランジスタも後期型では対策済みとはいえ、放置車両の状態は予断を許さない。
「全部のホースを替えました。ラジエターホース、シリコンホース、全部。コネクターも見られるやつは全部確認して。タービンは……いったん純正オーバーホールで動かせるようにしてから、次のステップでGReddyのインタークーラーキットを組もうと決めて」
その段階的なアプローチが、このZ32の現在の仕様を作った。「一気にやらない。動かしながら、走らせながら、直しながら、チューニングしていく」。それが加藤流だ。
VG30DETT、3リッターV6の怪物。
改めてエンジンの話をしよう。
VG30DETTはV型6気筒、排気量2960cc、DOHC24バルブ、ツインターボ。最高出力280馬力を6400回転で、最大トルク39.6kgmを3600回転で発生する。国産初の280馬力を達成したエンジンとして登場し、ツインインタークーラー付きツインターボという構成でその性能を実現した。
ただしこのエンジン、激しい走行を続けるとヘッド内のオイルが偏り、ブローバイに大量のオイルが混じるという弱点がある。それを見越して加藤号にはオイルキャッチタンクが装備されている。GReddyのアルミインテークパイプとシリコンラジエターホース換装と合わせて、「まず安定して動かす」ための基礎が整っている。
冷却系にはGReddyのアルミラジエターを投入し、BLITZのレーシングラジエターキャップでキャップ圧を管理。さらにOKUYAMAのラジエタークーリングプレートを組み合わせた。これはラジエター前面への走行風の導入効率を高め、冷却性能を補強するパーツだ。ノーマルでも熱的に厳しいVG30DETTにとって、水温管理は最優先事項であり、加藤もそこを最初に固めた。
「Z32は熱との戦いだって聞いてたんで。冷却だけは絶対にケチらないって決めてました」
ターボ系、GReddyで統一する流儀。
Z32はエンジンを降ろさないとタービン交換ができない構造という、整備性の悪さで知られる車でもある。したがって今の段階では純正タービンを生かしつつ、周辺のチューニングパーツで底上げを図るアプローチをとっている。
インタークーラーはGReddy インタークーラー KIT Z32 T16F。Z32専用設計のフロントマウントインタークーラーキットで、純正比で大幅に冷却容量が増す。タービンが圧縮した空気をしっかり冷やしてエンジンに送り込む、ブーストアップ仕様の定番強化ポイントだ。
ブーストコントローラーはGReddy プロフェック。純正タービンのブーストアップ仕様において、ブーストを1.1〜1.2キロまで引き上げることで380馬力前後が狙えるとされており、加藤号もこの方向性でセッティングを進めている。ブローオフはHKS製に換装し、ターボタイマーはHKS TURBO TIMER Xを装着。エンジンに優しく終わるための作法だ。
( ・∀・)つ PHANTOM's EYE
Z32ツインターボのブーストアップは「タービンを降ろさない最大限」という観点で非常に合理的なチューニングだ。ただし純正タービンには容量の上限があり、無理なブーストアップはタービン寿命を縮める。インタークーラーとラジエター冷却をしっかり強化した上で、ブーストは適切な範囲に留めること。VG30はエンジンを降ろすだけで相当な工賃がかかる。タービンを壊してから後悔しないよう、ここだけは欲張らないのが大人の判断だ。(゜Д゜)
給排気、Zに音を取り戻す。
サクション側はAUTOBAHN88のサクションキット、エアクリーナー付き。放置車両ゆえ純正のエアクリーナーボックスは劣化していたため、丸ごとリフレッシュを兼ねた換装だ。
マフラーはZEES サイバーGT。V6サウンドに低く太いノートが加わる。「音が変わった瞬間、ああ、生き返ったなって思いました」と加藤は言う。放置されていた車が、走る車の音を取り戻した瞬間だ。
足回りとボディ剛性、Z32を現代で走らせるために。
サスペンションはENDLESS ファンクション Xプラス(ハード)。「Z32はボディが大きくて重い。それに見合った足が必要で、ここはちゃんとしたものを入れたかった」。
剛性補強はウルトラレーシング製のフロントタワーバー、シークレットスポーツ製のBピラーバー、ナギサオートのがっちりさぽーと、そしてウルトラレーシングのルームバーという4点構成。2by2ボディはルーフがある分だけ剛性的には有利だが、車両重量1550〜1570kgという重量級ゆえ、補強を増やすほど体感できる変化が出る。
「タワーバーを入れたとき、コーナーの入りがスッキリしたんですよ。重い車なのに、重さを感じにくくなった感じで。補強って効くんだなって実感しました」
ブレーキにはCUSCO製のブレーキシリンダーストッパーを装着。純正のマスターシリンダーが制動時にたわむのを抑えることで、ペダルタッチがダイレクトになる。「踏んだ感が変わった。小さいパーツなのに驚いた(笑)」
ホイールとタイヤ、Z32に似合う選択。
ホイールはワーク エモーション T5R。ワーク特有の繊細なスポークデザインが、Z32のワイドボディと好相性だ。タイヤはミシュラン PILOT SPORT 5で、グリップ性能と乗り心地のバランスに優れた現代的なUHPタイヤ。「Z32って重い車だから、タイヤの質が体感に直結するんですよね」と加藤は言う。
エクステリア、Do-LuckとボーダーレーシングでZを締める。
エアロはDo-luck T-3 エアロ3点セット。Do-luckはZ32チューニングの老舗ブランドで、専用設計のエアロパーツはフィッティング精度が高い。リアにはボーダーレーシングのウィングが添えられ、Z32のリアフェンダーをきっちり主張させている。
「最初は素のバンパーでも全然いいと思ってたんですよ。でも付けてみたら別の顔になって。Z32ってエアロが似合う車なんだな、って」
内装、計器の森が広がるコクピット。
コクピットに乗り込んで、一番最初に気づいたのはDefiのメーターがずらりと並んでいることだ。油圧・油温・水温の3点セット、ブースト計、タコメーター(ワーニングランプ付き)、そして排気温度計。
「排気温度計まで入れてるのはなんで?」と聞いた。
「Z32って排気系が熱くなりやすくて。排気温度が上がりすぎると良くないって聞いたんで、監視したくて」
レストア車のオーナーらしい、根拠のある答えだ。Defiメーターは視認性と精度に定評があり、コクピットに統一感も生まれる。BLITZのレーダー探知機 TL405Rも装着済み。
「一応、ちゃんと普通に道路を走れる車にしたいんで(笑)」
インタビュー:加藤 良平、語る。
――この車を手に入れたとき、正直どんな状態でしたか?
「最悪でしたね(笑)。エンジンはかからないし、タービンはガタガタだし、内装はカビてるし。でも骨格がしっかりしてた。それだけで決めました」
――レストアとチューニングを同時に進める難しさは?
「何が壊れてるかわからないまま進むのが怖いんですよ。チューニングパーツを組んでも、下が腐ってたら意味ない。だから壊れたところを直しながら、同時に良くしていく感じで。時間はかかるけど、それが正しいと思って」
――Z32ってパーツが出なくなってきてると聞きますが。
「そうなんですよ。純正インジェクターとか、もう1本3万円以上するし、タービンを社外に換えようとしたらエンジン降ろしが必要で工賃だけで相当かかる。だから今は動かせる状態をキープしながら、少しずつ良くしていく方針です」
――このZ32、完成はいつですか?
「……わかんないです(笑)。でも完成させたくない気持ちもある。直してる間が一番楽しいんで。いじりがいのある車って、愛せるじゃないですか」
――最後に、Z32という車の魅力を一言で。
「かっこいいんですよ、ほんとに。それだけです。理由はいらない」
取材が終わったあと、加藤はエンジンをかけた。死んでいたはずのV6ツインターボが、ゆっくり、でも確かに息を吹き返した音がした。
部品取り車と呼ばれていたZが、夜に走り続けている。それだけで十分、かっこいいと思った。




