品川のインテリが湾岸に仕掛けた三菱の刺客、西園寺号EC5A VR-4を丸裸にする。
「青井さんのことは尊敬しています。でも負けたくはない」
そう言って西園寺はコーヒーを一口飲んだ。場所は品川区内のカフェ、夜21時。仕事終わりのIT企業勤務、スーツのボタンを外しただけの姿で現れた彼は、どう見ても走り屋には見えない。
でも、その手元に置かれた車のキーに刻まれたエンブレムは、三菱の三つ星だった。
西園寺。苗字だけ教えてくれた。「下の名前は恥ずかしいんで」とのことだ。(笑)
今回の取材対象は、この男と彼の愛車――ギャラン EC5A VR-4、5MTだ。
三菱ギャラン、知ってるか。
まず車のことを話そう。
三菱ギャランEC5A型、1996年登場の8代目ギャラン。その頂点に君臨するのがVR-4だ。V6 2.5LのDOHC 24バルブICツインターボで280馬力を発生し、駆動方式はフルタイム4WDのみ。タイプVは5MTと5ATが選べるという、セダンの皮をかぶった本物のスポーツマシンだ。エンジン型式は6A13TT。V型6気筒ツインターボ、排気量2,498cc、最高出力280馬力、最大トルク37.0kgmを発生する。
「GT-Rじゃないの?」と思った人、それが普通の感覚だ。でも西園寺は言う。
「GT-Rは正解すぎるんですよ。誰でも知ってる最適解じゃないですか。自分はちょっとズラしたかった。ギャランVR-4ならパーツも情報も少ないし、だからこそ面白い」
翔也と同じことを言っている、と気づいた。マイナー車乗りは思考が似るのかもしれない。(´∀`)
外装、国際通販を使いこなす男。
西園寺号の第一印象は「なんか知らないけど締まってる」だ。
エアロはDolphin製のフロントバンパー、リアバンパーカバー、サイドスカートの3点セットに、D-Technikのフォグランプパッドをフロントバンパーに組み合わせている。全部bodykitonlinestore.proというロシア系のオンラインショップで国際送料無料、合計1,900ドルで揃えたという。
「英語で注文しました。Google翻訳使いながら(笑)。IT系の仕事してるんで、そういうのは慣れてますね」
Dolphinエアロはギャランに設定されている海外向けのカスタムパーツで、国内ではほぼ流通しない。「どこのエアロ?」と聞かれても答えられる人間が少ない、という意味で、ある種の最強のカスタムだ。
リアにはVOLTEX GT WING TYPE 4が鎮座している。VOLTEXはスーパーGTやスーパー耐久でも使われる本格ウィングブランドで、スポーツ走行での高い空力性能と実績を誇る。セダンのトランクにGTウィングは賛否あるが、「ダウンフォースは正義です」と西園寺は言い切る。
6A13TT、燃料系を根本から作り直す。
エンジンルームを見て、まず気になったのは燃料系の充実ぶりだ。
大容量燃料ポンプはWALBRO GSS342 G3、255LPH。WALBROはアメリカのポンプブランドで、日本のチューナーにも定番として知られている。純正比で大幅に吐出量が多く、大型タービン仕様や高ブースト仕様でも燃料を安定して供給できる。
そしてSARD製のコレクタータンクとフューエルレギュレターの組み合わせ。コレクタータンクというのは何か。燃料タンクの残量が少ない場合や、旋回時の遠心力・減速時の慣性力によって燃料ポンプの取り入れ口が露出し空気を吸ってしまうのを防ぐためのものだ。サーキットや湾岸の高速コーナリングで全開走行を続けると、タンク内の燃料が偏り、ポンプが一瞬エアを吸う「燃料の息つぎ」が起きることがある。それを防ぐのがコレクタータンクの役割で、常時燃料で満たされた小タンクからエンジンに供給し続けることで、Gが強くかかる走行中も安定した燃料供給を確保する。湾岸の高速コーナーで全開を維持するための、地味だが重要な装備だ。
「燃料系は妥協したくなかった。エンジンが壊れる一番の原因って、燃料と冷却ですから」
冷却側もきっちり手が入っている。GPI製のアルミラジエター、BLITZのレーシングラジエターキャップ、EPMANの汎用オイルクーラーキット、ADPOWの汎用オイルキャッチタンク。YuHaru製のエンジンアーシングキットも追加済みだ。
( ・∀・)つ PHANTOM's EYE
コレクタータンクはWALBROのような大容量ポンプと組み合わせるのが鉄板だが、SARDのフューエルレギュレターで燃圧を正確に管理することが前提になる。燃圧が安定しないとF-CON iSのセッティングがズレる。この3点セット(大容量ポンプ+コレクタータンク+調整式レギュレター)を揃えてはじめて燃料系が「完成した」と言えるレベルになる。単体でパーツを増やしても意味が薄い、システムとして考えることが重要だ。(゜Д゜)
ターボ・給排気、ギャランを料理する。
インタークーラーキットはヤフオク経由で入手したCSKS製の輸入品。フルキットで4万1千円という価格は、純正比で大幅に冷却効率が上がる大型コアを持つコスパ重視の選択だ。「正直、最初は不安でしたよ。でも付けて走ったら普通に機能してたんで(笑)」。ターボパイプはCUSCO製のレグナム用を流用。ギャランとレグナムは姉妹車であり、一部の駆動系・吸排気パーツに互換性がある。「互換情報は海外フォーラムで調べました。英語読んで、図面確認して」。さすがIT勤務、情報収集が違う。(笑)
ブローオフはHKS スーパーSQV4、ブーストコントローラーはGReddy プロフェック。この2点は前号のちゃるどね号、青井号でも登場した定番コンビだ。
マフラーはMOORE製の115φチタンテール砲弾。「でかい砲弾出口がギャランのリアから出てるのが好きで。セダンなのに、って感じが出るじゃないですか」。確かに、と思う。インテークはBLITZ アドバンスパワー。
ECUはHKS F-CON iS。6A13TTというエンジン自体のパーツ供給が少ない中で、F-CON iSは適合があり、セッティング実績も存在する貴重な選択肢だ。「セッティングは遠くのショップまで持ち込みました。片道2時間くらいかけて」。その労力がこの車への本気度を表している。
( ・∀・)つ PHANTOM's EYE
6A13TTはV6ツインターボという構造上、左右バンクで独立したタービンを持つ。つまりRB26同様、ブローオフの挙動とブーストのバランスを「2系統分」チェックする必要がある。さらに6A13TTはパーツ適合情報が少ないため、ショップ選びが非常に重要。実績のある店に持ち込んで現車セッティングをかけることが、このエンジンでは特に必須だ。「安いからネットショップのカプラーオン品でOK」は、6A13TTには通用しないと思っておいたほうがいい。(゜Д゜)
足回りとブレーキ、妥協しない箇所。
車高調はLARGUS SpecS。LARGUSは比較的リーズナブルながら減衰調整機能を持ち、ギャランへの適合もある車高調だ。「ここはケチりたくなかった。足が決まらないと他が全部無駄になるんで」。
ブレーキはKTS製のブレーキライン、プロジェクトミュー μ B-SPECのブレーキパッド。「ブレーキパッドはプロジェクトミューにしたかった。街乗りからサーキットまでバランスが取れていると聞いて」。
タイヤ・ホイール、見た目重視の街乗り仕様。
ホイールはMIDレーシング R06、18インチ。タイヤはWINRUN R330、215/40R18の4本セット。アライメント費込みでマルゼン価格14万6,600円。コストパフォーマンスを意識しながら、見た目のサイズ感もきちんと出した選択だ。
「これは街乗り用のタイヤなんで。C1に行くときはさすがにポテンザ履いてます。」
「ホイールはあまり主張しすぎないデザインのものにしました。車体のエアロで主張するから、足元は落ち着かせたくて」。セダンに乗るIT勤務らしい、バランス感覚のある判断だ。
内装、コクピットの作り方。
コクピットにはカワイ製作のシートレールにチャージスピード フルバケットシート スポルトが組み合わされている。「チャージスピードはコスパがいいですよね。RECAROとか使えれば一番いいんですけど、そこまで予算が回らなくて(苦笑)」。
ステアリングはワークスベルボスにデポレーシングの35Φディープコーン80mm。「ディープコーンにしたら手前に来て、シートポジションがぐっと決まった。乗り込んだ瞬間に感動した」。
オートゲージの水温・油圧・油温の3点セットとブースト計を追加。そしてルームミラーには、ちゃるどね氏と翔也と同じく――地元の神社の交通安全守がかかっていた。
「これだけはずっと外してないです。お守りというか、相棒というか」
インタビュー:西園寺、語る。
――青井さんとはどういう経緯で知り合ったんですか?
「辰巳に行ったとき、後ろから青井さんのBNR33に追いついてきたんですよ。それで並んで走って、あとで声をかけたら話せる人で。それからずっとリスペクトしてます」
――でも「打倒 青井」を掲げてる。
「尊敬と打倒は別じゃないですか(笑)。リスペクトしてる相手を超えたいから頑張れるんですよ。負けたいとは思ってない」
――IT企業で働きながら車をいじる時間ってあるんですか?
「平日の夜と休日で全部やってます。整備マニュアルを読むのが好きで。英語のフォーラムも仕事の合間に読んだりして。チューニングって情報収集が大事なんで、そこは仕事と通じる部分があります」
――ギャランのパーツが少ない問題、どうやって解決してますか?
「海外通販と流用です。三菱同士の互換表を自分でまとめたスプレッドシートがあって(笑)。ランエボとかと共有できるパーツもあるんで、そこを掘り下げてる感じです」
――このギャランで、最終的に何がしたいですか?
「青井さんのBNR33と、湾岸で正面から戦いたいです。勝てるかどうかわからないけど、少なくとも前を走るくらいはしたい」
――最後に、青井さんに一言。
「……次に会ったとき、本気で来てください」
取材を終えて外に出ると、西園寺は品川の夜に溶け込むようにギャランに乗り込んだ。砲弾マフラーのノートが低く響いて、セダンシルエットが闇に消えていく。
AOI CRAFTの青井は知っているだろうか。品川のインテリが、静かに刃を研いでいることを。




