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STREET PHANTOM(ストリートファントム)  作者: STREET PHANTOM 編集長 神崎
2/20

THE PHANTOM OF WANGAN ――湾岸の亡霊、辰巳の支配者。青井 学とBNR33を解体する。

東京湾岸に、紫の幽霊が出る。

「最近33がやばいらしい」「辰巳でAOI CRAFTのGT-Rと当たったらもう終わり」――そんな話が走り屋の界隈に流れ始めたのは、もう2年ほど前のことだ。

今回、編集部はそのAOI CRAFT代表、青井 学に会いに行った。場所は東京都江東区、辰巳のパーキングから少し離れた、氏のショップ兼ガレージ。夜23時、約束の時間に迎えてくれたのは――ミッドナイトパープルに染まったBNR33、V-specだった。


最初に言っておく。この車はおかしい。

駐車場に置いてあるだけで威圧感が違う。ボーダーレーシングのエアロ3点セットが白いBNR33純正フォルムを根本から作り直し、リアにはVOLTEX GT WING TYPE 7が堂々と仁王立ちしている。ミッドナイトパープルのボディは光の当たり方で表情を変える。昼間に見たら地味、夜に見たら化け物。湾岸の夜に溶け込む色として、これ以上ない選択だ。

「ミッドナイトパープルは日産の純正色なんですよ。でも夜に走ると思ったより目立たない。それがいいんです」と青井氏は笑う。

ショップのオーナーとして昼は仕事をして、夜は走る。それがAOI CRAFTのスタイルだ。


RB26DETT、2.8Lに進化した怪物。

エンジンルームを開けた瞬間、「あ、これは本気だ」とわかった。

ベースはRB26DETT――日産がGT-Rのためだけに作った2.6リッター直6ツインターボ。もともとカタログ値280馬力(当時の自主規制値)だが、その数字を誰も信じていない。そしてちゃるどね号のSR20とは異なり、こちらはそのRB26をさらに上のステージへ引き上げている。

まず目を引くのは、HKS RB26DETT 2.8Lキット STEP ZEROだ。ボアアップにより排気量を2,799ccまで拡大。ストローク変更ではなくボアを広げることで、エンジンのキャラクターを保ちながら排気量を稼いでいる。2.6から2.8へ、たった0.2リッターの差に見えるが、この積み上げがトルクと吹け上がりに明確な違いをもたらす。

そして、このエンジンに組み合わされているのがHKS V-CAMシステムだ。RB26DETTの吸気カム側に可変バルブタイミング機構を後付けするというHKS独自の技術で、これが乗り味を根本から変える。ノーマルのRB26は高回転に特化したキャラクターゆえ、低中回転域のトルクが薄くなりがちだ。しかしV-CAMシステムは低中回転域のトルク不足を大幅に改善し、過給の立ち上がり付近のトルクが特に向上する。つまり、大型タービン仕様でありながら街乗りや追い越しにも使いやすい特性を実現しているわけだ。

「ターボ仕様って踏み込んでから一瞬待つ感覚があるじゃないですか。V-CAMはそれが薄くなる。踏んだら応える。それが欲しかった」

補機類も抜かりない。AUTOBAHN88のシリコンホースキット、CUSCOのオイルキャッチタンク、GReddy製のアルミラジエターTW-RとオイルクーラーGReddy 12段、NISMOの強化エンジンマウントとローテンプサーモ、シルクロードのエンジントルクダンパー。GReddyのアルミプーリーセット。ひとつひとつのパーツが「走るために」選ばれている。それが伝わってくる。


ツインターボ、HKS GTIII-SS。

タービンはHKS GTIII-SSのツイン構成だ。RB26はもともとツインターボ構成であり、左右バンクそれぞれに1基ずつ計2基のタービンを抱える。そのタービンを純正から丸ごとGTIII-SSに換装している。

GTIII-SSはHKSのGT IIIシリーズの中で、低速特性の良いGT-SSと比較しても広い回転域でトルクの厚みが増しており、街乗りからワインディングまでストレスなく使えるタービンとして評価が高い。2.8Lキットとの組み合わせで、低回転からのトルクが分厚く積み重なる。湾岸のような高速域では特に、その豊かなトルク感がダイレクトに速さに繋がる。

インタークーラーはBLITZ SE、ブーストコントローラーはGReddy プロフェック、ブローオフはHKS スーパーSQV4、そしてHKS ターボタイマー。この構成、ちゃるどね号と共通しているのに気づいただろうか。「王道は王道。実績のあるものを使う」という哲学がAOI CRAFTにはある。


( ・∀・)つ PHANTOM's EYE

RB26のツインタービン構成でSQV4を大気開放仕様で運用する場合、左右2基それぞれのブローオフ挙動をきちんと確認することが重要だ。片方が正常でも、もう一方がリターン仕様のままだったりすると、左右の過給バランスが崩れることがある。F-CON V Proのようなフルコン仕様ならセッティング時に燃調で補正できるが、それでも現車合わせは必須。RB26ツインは「2基分」のチェックが必要なのを忘れずに。(゜Д゜)



給排気、本気の構成。

サクション側はAPEXi スーパーサクションキット+GReddy アルミインテークパイプセット。エアの通り道を徹底的に太く、スムーズにする。

排気側はTOMEI製のエキゾーストマニホールドから始まり、TOMEI製のタービンアウトレットパイプ、SARD製スポーツキャタライザー、GReddy製サージタンクを経て、柿本改 HYPER FULLMEGA N1+ Rev.へと繋がる。柿本のHYPER FULLMEGAはRB26との相性で知られる定番マフラーだ。直6の排気音に低く太いノートが加わり、湾岸の夜に響く音は独特の迫力がある。

「音は大事ですよ。走ってて気持ちいい音じゃないと、モチベーション上がらないじゃないですか」と氏は言う。確かに、と思う。


電子制御、GT-Rならではの世界。

SR20を積むS14との大きな違いのひとつが、この電子制御の複雑さだ。BNR33 GT-RにはATTESA E-TSと呼ばれる電子制御4WDシステムが搭載されており、通常時はFR的な走りをしながら、Gセンサーが後輪スリップを検知すると前輪にトルクを配分する仕組みになっている。

ECUはHKS F-CON V Pro 4.0。F-CON iSがサブコン的な存在だったのに対し、こちらはフルコン――純正ECUを完全に置き換えて、燃調・点火・あらゆるパラメータをゼロから制御できる。大型タービンと2.8Lキットの組み合わせには、フルコンによる精密なセッティングが不可欠だ。

そしてDo-Luck TARZAN G-BOX。これはGT-Rのアテーサシステムが参照するGセンサーを刷新するデジタルユニットで、ラーマン山田でおなじみの、TARZAN(山田達也選手)の経験とノウハウが詰め込まれたパーツだ。純正のアナログGセンサーは経年劣化で精度が落ちることが知られており、デジタルユニットへの換装でアテーサの4WD制御が引き締まる。さらにナガホリレーシング製のアテーサコントローラーを追加し、4WDの前後トルク配分特性を任意に調整できるようにしている。

「4WD車のチューニングって、エンジンだけじゃなくて駆動系のコントロールも重要なんです。アテーサをどう使うかで、湾岸での挙動が全然変わる」


( ・∀・)つ PHANTOM's EYE

Do-Luck TARZAN G-BOXは取り付けるだけで効果が出るが、アテーサコントローラーと組み合わせる場合はセッティングが重要になる。前後トルク配分の設定値を変えるだけで、コーナー進入時の挙動が大幅に変わる。高速域メインの湾岸仕様と、テクニカルなサーキット仕様では最適な設定が異なるため、走行シーンに合わせた調整を。設定を変えるだけで別の車に乗っている感覚になるのがGT-Rのおもしろいところだ。ヽ(´ー`)ノ


ブレーキ、本物のシステムを組む。

「GT-Rで走るなら、ブレーキは妥協できない」と青井氏はきっぱり言う。

フロントはENDLESS 6POT&Racing4のシステムインチアップキット。鍛造アルミを材質に使用し、異径ピストンを採用することでパッドの偏磨耗を防ぎ高いコントロール性を発揮する BOOSTAR-696ポットキャリパーと、リア用のRacing4 4ポットキャリパーのセットだ。BNR33のような重量級ハイパワー車には、純正ブレーキでは根本的に制動力が足りない。フルブレーキを繰り返すサーキット走行では特に、熱容量と剛性感の差がタイムに直結する。

ブレーキラインはENDLESS スイベルスチールブレーキライン、パッドは四輪すべてENDLESS MX72。ストリートからサーキットまで対応できる実力派パッドとして定評がある。CUSCOのブレーキシリンダーストッパーも装着し、ブレーキ踏力に対するレスポンスを高めている。


足回り、GT-Rを完全に支配する。

車高調はTEIN MONO RACING。EDFC5と組み合わせて、電動減衰調整を室内から行える。走行中に路面状況やシーンに合わせてセッティングを変えられるのは大きなアドバンテージだ。

スタビライザーはフロント・リアともにCUSCO製に換装。NISMOのサーキットリンクも加え、GT-Rのフットワークをまるごと刷新している。ボディ補強はCUSCO フロントストラットタワーバー タイプOS、ナギサオート がっちりさぽーと、CUSCO リアタワーバー、NISMOアンダーフロア補強バーの4点セット。サイトウロールケージ製6点式クロモリ鋼ダッシュ逃げタイプが骨格を固める。

「GT-Rって車体がしっかりしてるようで、限界を超えるとボディがよじれる。補強をちゃんとやると、タイヤから伝わる情報が全然変わる」


ミッション、そしてホイールとタイヤ。

ミッション系はOS技研 ストリートマスター(GTS2CD)と亀有エンジンワークス製の強化メインシャフトサポーティアの組み合わせ。GT-Rのトランスミッションは高出力化に伴うトルクに対して純正では限界がある。OS技研のストリートマスターは、ストリートでの耐久性を維持しながら強化された構成だ。亀有の強化メインシャフトサポーティアはシャフトのたわみを抑え、シフトフィールと耐久性を同時に向上させる。

ホイールはRAYS TE37 SAGA S-plus、18インチ 10.5J +15。TE37の中でも剛性を高めたSAGAシリーズで、GT-Rの重量と出力に耐える強度を持ちながら軽量さを両立している。タイヤはADVAN NEOVA AD09、275/35R18。国産ハイグリップの中でも最上位クラスに位置する銘柄で、「湾岸は直線だけじゃないから、グリップは妥協しない」という青井氏の哲学が見える。


内装、男の仕事場。

コクピットはジュラン シートレール+ナニワヤ SP-GTタイプ フルバケットシート。ステアリングはHKBボスにMOMO RACE。シフトノブは中華製のチタン焼き色付きアルミノブ。「これは安かったけど握り心地がいい。実用品だから」と言う。(´∀`)

オートゲージの水温・油温・油圧・ブースト計に加え、タコメーター F50も装着。GT-Rは純正でもタコメーターがあるが、視認性と即応性を重視してアフターメーターに換えている。BLITZのレーダー探知機 TR315Rも健在。ショップのオーナーとして、リスク管理は怠らない。

そして、ちゃるどね号と同じく――ルームミラーには地元の神社の交通安全守がかかっていた。

「これはお守りというか、いつも一緒に走ってる感覚です。付けてから一度も大きな事故を起こしていない」


インタビュー:青井 学、ショップオーナーとして、ドライバーとして。

――AOI CRAFTを始めたきっかけは?

「自分の車を自分で整備してたら、友達から頼まれるようになって。気づいたらショップになってた感じです。よくある話ですよ(笑)」

――昼はショップで仕事して、夜は走る。体力的にきつくないですか?

「きついですよ。でも走ることが充電なんです。走り終わって帰ってくると、また仕事できる気になる。変な話ですけど」

――BNR33を選んだ理由は?

「33が一番好きなんです。32は名声があって、34は完成度が高い。でも33は何か中途半端だって言われることがある。その中途半端さが自分に似てると思って」

――湾岸と辰巳、どっちが好きですか?

「質問が違う(笑)。湾岸は速さを試す場所で、辰巳はコントロールを磨く場所。どっちも必要です」

――このBNR33、まだまだ進化しますか?

「しますよ。まだ完成してないですから。たぶんずっと完成しない。それがチューニングじゃないですか」

――最後に、AOI CRAFTで仕事を頼みたい人に一言。

「一言で言うと、真剣な人だけ来てください。速くしたいだけじゃなくて、ちゃんと車と向き合いたい人。そういう人の車を触りたい」


取材が終わり、青井氏がBNR33のエンジンをかけた。直6ツインターボの重低音が深夜の倉庫街に響く。ミッドナイトパープルのボディが駐車場の外灯に照らされて、一瞬だけ深い紫に輝いた。

湾岸の亡霊は、今夜もどこかを走っている。

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