TypeR名乗っていいと思います by細田。自動車部大学生・細田氏のGDフィット1.5 MTは埼玉のモンスターハッチだった。
「ここまで手を込めればTypeRを名乗ってもいいと思います」
仕様書の末尾にそう書いてあったとき、編集部はしばらく沈黙した。
笑おうと思ったのに、笑えなかった。この仕様書を一通り眺めたあとでは、その一文が妙な説得力を持っているからだ。
細田氏、現役大学生。自動車部所属。埼玉在住。愛車はホンダフィット、GD型、1.5リッター、5速MT。
取材場所の駐車場に現れた細田号は、ings N-SPECの3点エアロを纏い、本物のTypeRエンブレムが前後に光っていた。ホイールは5ZIGENのFN01R-C STV 17インチ。アドバンフレバが低く構えている。
「TypeRじゃないじゃないですか」と言いかけて、止めた。この車をちゃんと見てから判断すべきだと思ったから。
GD型フィット1.5 MT、初代フィットの素性。
まず車の話だ。
初代フィット、GD型。搭載するL15A型1496cc直列4気筒エンジンは、5800回転で最高出力110馬力を、4800回転で最大トルク14.6kgmを発生する。最大トルクと最高出力の発生回転数がとても近い、高回転まで回すことで力を発揮するタイプのエンジンだ。
GD型の1.5L MTは、後継のGE型RSと比較するとi-VTECではなく旧来のVTEC、ツインプラグ点火方式を採用している。電子スロットルも未採用のアナログな設計で、これがチューニングのしやすさに繋がっている。電子制御の介入が少ない分、アクセルとエンジンのダイレクト感がある。
「GE8の瑛太さんとよく話すんですよ。GDとGEでベースが違うから、チューニングの方向性も変わってくる。GDはアナログな感じがして、いじってる感がわかりやすい」
自動車部ならではの視点だ。(´∀`)
J's RACINGのECU、GDフィットへの適用。
今回の仕様書を見てまず目を引いたのがここだ。
J's RACINGのハイパーECU。J's RACINGのECUはホンダ系チューニングで実績を持ち、前号の瑛太号(GE8フィット)でも使われていた。しかしGE8とGDでは電子スロットルの有無という根本的な違いがある。
「GDはスロットルワイヤー直結なんで、電子スロットル系の制御は関係ない。でもECUを変えることで燃調と点火タイミングの最適化ができる。吸排気を換えた後にECUを合わせたら、明確に変わりました」
吸排気のボルトオン改造に対してECUで応答する、正しいアプローチだ。
給排気、5ZIGEN一本でまとめる。
今回の給排気系の核心はここだ。
5ZIGEN PRORACER HEADER。5ZIGENのProRacer HeaderはSUS304バフ磨きステンレス製、TIG溶接、4-2-1設計でパイプ径35φ→42.7φ→50.8φ。GD3 L15Aへの適合がある、GDフィット専用設計のエキマニだ。4000回転以降スムーズに回るようになり、加速時の音が格段に良くなるという評価通り、L15Aの高回転域での吹け上がりがスムーズになる。
センターパイプはSPOON製のタイコ付き(アップガレージで中古入手)、マフラーは柿本改GTbox 06&S、インテークは零1000パワーチャンバーTYPE2。「5ZIGENのエキマニを軸に、センターパイプとマフラーで排気を一本通しにしました。ECUと合わせてセッティングしたら音と体感が別物になった」
5ZIGENのProRacer Headerは3〜5馬力程度の数値的ゲインよりも、軽量化によるレスポンス向上と加速フィールの改善の方がメリットとして大きいと評価されており、110馬力のNAコンパクトに対してこのパーツを選んだ細田氏の判断は正しい。数値より体感、それが正解だ。
( ・∀・)つ PHANTOM's EYE
GD型L15AのエキマニはGE型と同型式でも排気系の設計が異なる場合がある。5ZIGEN ProRacer HeaderはGD3の製造年月が2004年1月以前かどうかによって適合が分かれるため、購入前に自分の車両の製造年月を確認することが重要だ。適合を誤るとボルトオンで付かない場合があるので必ずチェックを。アップガレージでSPOONのセンターパイプを中古入手した細田氏のように、適合を見極めた上で賢くコストダウンする方法は大いにアリだ。(゜D゜)
足回りと剛性、カワイ製作所で固める。
足回りの補強構成が今回のもう一つの柱だ。
車高調はTEIN FLEX Z(仕様書の冒頭が少し乱れていたが、FLEX Zが正しいと解釈した)。CUSCOのロアアームバーVer.1でフロントを締める。
剛性補強はカワイ製作所製が充実している。フロントストラットタワーバー、リアタワーバー、リアピラーバー、センターフロアバーの4点。「カワイ製作所はGDフィット用のラインナップが揃ってて、自動車部の先輩に勧めてもらいました。フロアバーとリアピラーバーを入れたときのボディの変化が一番わかりやすかった」
SPOONのリジカラも前後装着済み。前号の北田号(RX-8)でも登場したが、このサイズのFFハッチバックで入れると特に効果が体感しやすい。「リジカラはコーナーの入りが別物になった。自動車部の友達に乗せたら全員気づくくらい変わってた(笑)」
ホイールとタイヤ、定番の17インチで。
ホイールは5ZIGEN FN01R-C STV 17インチ。本誌でも翔也号、近藤号(プレオRS)に続いて登場の定番中の定番だ。タイヤはヨコハマADVAN フレバ V701。「17インチはGDフィットにはちょっとでかいかなとも思ったけど、FN01R-Cは軽いからバネ下の負担が少ない。見た目とのバランスで決めました」
外装、ingsとTypeRエンブレムの話。
ings N-SPECのフロントバンパー、サイドステップ、リアバンパーの3点セット。ingは本誌でも田中さんのヴィッツRS(vol.11)やへもしーのマーチ12SR(vol.16)で登場してきたブランドで、コンパクトカーのチューニングエアロとして安定した評価を持つ。
そして前後の本物のTypeRエンブレム。
「本物を買いました。12,000円かけて。レプリカじゃなくて本物にしたのは、それだけ本気だということを示したかったから」
先の辛口評価コーナー(vol.11)でCR-Z乗りの「ハラペーニョ大好き大学生」がTEMU産のTypeRエンブレムを付けていたことへのアンサーのようでもある。あちらは1,500円のレプリカ、こちらは12,000円の本物。自動車部の矜持というやつだ。(笑)
内装、必要なものを揃える。
シートはチャージスピード製の汎用バケットシート スピリッツSR FRP、シートバックプロテクターも同ブランドで揃えた。「フルバケにしたかった。チャージスピードはコスパがいいし、FRP製で軽量化にもなる」。オートゲージの548シリーズで油圧・油温・水温の3点セットを追加。「自動車部なんでデータを見ながら走りたい。この3点は最低限必要だと思ってた」
インタビュー:細田氏、語る。
――自動車部に入ったきっかけは?
「車が好きで。高校のときから整備の本を読んでたので、大学に入って自動車部があると知ってすぐ入りました。部員の知識量が半端なくて、毎回取材みたいな感じです(笑)」
――GDフィットを選んだ理由は?
「安くて速くできる車を探してたんです。GDフィットは中古が安いし、L15Aはパーツが揃ってる。NAのコンパクトFFで限界まで走れる車を作りたかった。EK9とかDC2もいいけど、もう値段が上がってて手が出なくて」
――TypeRを名乗ってもいいと思う、という一文について。
「真剣に言ってます(笑)。エキマニ・ECU・車高調・剛性補強・ホイール・外装、全部ちゃんとやって、typeRの本物エンブレムを12,000円で買った。そこまでやれば、精神的なTypeRでしょう、と。自動車部の持論です」
――先輩や部員はこの車について何と言っていますか?
「部員には笑われました。でも実際に乗せたら黙ってました(笑)。リジカラとカワイ製作所の補強を入れてから、乗り心地は固いけどコーナーが鋭くなって。みんな驚いてました」
――瑛太さん(GE8フィット、vol.14)とよく話すとのことですが、GDとGEの違いは?
「瑛太さんのGE8はi-VTECで電子スロットルで、より現代的。GDはワイヤースロットルで、VTECの切り替えがもっとドラマチックな感じがする。どっちが良いかは好みだと思いますけど、自分はGDのアナログな感じが好きですね」
――このフィット、TypeR以外で点数をつけると?
「85点です。あとはECUのセッティングをもっと詰めたい。自動車部の先輩にシャシダイのある場所を教えてもらったので、今度計測してみます」
取材が終わって、細田号がエンジンをかけた。L15Aが目を覚まし、柿本改GTboxが音を出す。5ZIGENのエキマニを通した排気が、GDフィットとは思えない音を立てた。
「TypeRを名乗ってもいいと思います」。
笑えなかった理由が、この音を聞いてわかった気がした。
おまけ:編集長ジンの「言わせてもらうぞ」特別版:細田号への返答。
読んだ。仕様書も、記事も、全部読んだ。
そして末尾の一文も。
「ここまで手を込めればTypeRを名乗ってもいいと思います by細田」
……少し考えた。正直に言う。
悔しいが、わかる。
俺はずっと「TypeRじゃない車に赤バッジを付けるな」という立場だ。それは今も変わらない。TypeRはホンダがコストも手間も度外視して、レースで勝つために作ったグレードだ。その名前には重みがある。安易に名乗っていいものじゃない。
でもな、細田。
お前の仕様書を見て、一つだけ認める。
本物のエンブレムを12,000円出して買ったこと。
これが、俺の評価を変えた。
vol.11でCR-Zの「ハラペーニョ大好き大学生」がTEMU産1,500円のTypeRエンブレムを付けていたとき、俺は黙って次のコーナーに送ってくるなと言った。なぜかというと、安い偽物でTypeRを「装う」のは、本物に対する敬意が薄いからだ。
でも細田、お前は本物を買った。12,000円だ。大学生の財布から、12,000円だ。そこに「本物のTypeRエンブレムを付けるなら本物を買う」という筋が通っている。
だから、一点だけ認める。「本物を買う覚悟があるやつだけ、名乗ることを許す」という条件付きで。
ただし。
まだ足りない部分がある。言わせてもらう。
ブレーキだ。
この仕様書にブレーキのパーツが一つもない。純正のままだ。
エキマニ・ECU・車高調・剛性補強・エアロ・本物のTypeRエンブレム。全部やった。でもブレーキは純正のままで峠を攻めるのか? TypeRを名乗るなら、止まれる車にしてからだ。
EK9のTypeRは、ブレーキがちゃんとある。DC2のTypeRも、ブレーキがちゃんとある。あの車たちが「TypeR」なのは、走るだけじゃなくて止まることも本気でやったからだ。
次の目標を決めてやる。
ENDLESS製のブレーキパッドとブレーキラインを入れろ。それが済んだらまた話を聞く。
総評:79点。ブレーキを入れたら、俺が直接認めてやる。
STREET PHANTOM 編集長 ジン
(追記・編集部より)
細田氏にこの評価を見せたところ、「ブレーキは次のバイト代で入れます」とのことでした(笑)




