前オーナーの遺産に、自分の色を加える。北田 彩人とRX-8 前期 タイプS 6MTの話。
「買ったときから、すでにいじってあったんです」
北田 彩人は少し得意そうに、でも少し照れながら言った。
現役大学生、20歳。取材場所の駐車場に停まったRX-8を見て、編集部はまず「これは前オーナーがだいぶ本気だったな」と思った。VERTEX LANGの3ピースエアロがボディを纏い、ENKEIのPerformanceLine PF06 18インチが低く構えている。BLITZ ZZ-R DSC PLUSが入った足。Defiのメーターが並ぶコクピット。
「前のオーナーが相当好きな人だったみたいで。買ったときに何が入ってるかリストを作ったら、思ったより多くて(笑)。でもそこに自分なりのものを足していくのが楽しくて」
前オーナーの遺産を継ぎ、自分の手を加えていく。それが北田号の物語だ。
13B-MSP RENESIS、ロータリーエンジンという特別な存在。
まず、このエンジンの話をしなければならない。
RX-8のタイプSに搭載される13B-MSP型REENSISは、市販ロータリーエンジンとして初めてサイド排気ポートを採用した革新的な設計で、レブリミットは9000rpmという高回転型ユニットだ。最高出力250馬力を8500回転で、最大トルク22.0kgmを5500回転で発生する(前期型スペック)。
ロータリーエンジンは「普通のエンジン」ではない。ピストンが往復するのではなく、三角形のローターが回転運動することで吸気・圧縮・燃焼・排気を行う。その結果、フラットなトルク特性と、レッドゾーンまで一直線で伸びる加速特性が味わえる独特のフィーリング Fujisanが生まれる。3000rpm付近はトルクが細く、おのずと高回転まで引っ張る運転になる Weblioという特性があり、「踏んでいないと走らない」エンジンと言えるかもしれない。
しかし、このエンジンには別の側面もある。エンジン内部にカーボンが蓄積しエンジンブローに至るケースが報告されており、前期モデルだけでMT・ATモデルで合計7種類のECUが順次改良されて搭載された という経緯がある。ロータリーエンジンの維持管理は、レシプロエンジンとは異なる知識と注意が必要だ。
「買う前に徹底的に調べました。ロータリーは難しいって言われるけど、ちゃんと管理すれば大丈夫だって確認してから決めた」
調べてから買う、という大学生らしい堅実なアプローチだ。(´∀`)
冷却系、ロータリーの熱と向き合う。
ロータリーエンジンは熱との戦いだ。サイド排気ポート化によって排気ガスで水温が上がりやすくなり、燃焼室に煤が溜まりやすくなる弱点を抱えており、冷却系の強化は13B-MSP乗りにとって最優先事項だ。
コヨウラッド製の強化ラジエターTYPE-Mで冷却容量を引き上げ、D-LINE製のラジエターホースで経路を整備、CUSCOのラジエタークーリングプレートで走行風の導入効率を高める。GReddy製の汎用オイルキャッチタンクとオイルクーラーで油温管理も強化。GReddy製のアルミプーリーセットで補機類の回転抵抗を低減しながら、RE雨宮製のアルミエンジンリジットマウントでエンジンの位置をしっかり固定する。
「冷却は前オーナーが半分仕上げてたところに、自分で追加しました。ラジエターとオイルクーラーは自分で換えた。ロータリーで一番怖いのはオーバーヒートだから」
ECU:GReddy e-manage Ultimate、ロータリーへの適用。
今回の仕様で注目すべき選択がここだ。
GReddy e-manage Ultimateは純正ECUを残したまま割り込む形で燃料と点火マップを制御するピギーバックECUで、スクラッチからのセッティングが不要という使いやすさと、ほとんどの日本車に適合する汎用性が特徴だ Tomei-p。ピギーバック ECUの中では最高水準のユニットで、点火タイミング・MAF信号・インジェクター噴射時間の調整が可能で純正ECUの安全機能や補正マップを維持したまま上から調整できるのが強みだ。
そして特筆すべきは、e-manage Ultimateのファームウェアが13B-MSPの回転信号認識に正式対応しており、ロータリーエンジンの点火タイミング制御が可能になっている点だ。GReddyはかつてRX-8用のターボキットにこのe-manage Ultimateを同梱して販売していた実績もあり、13B-MSPとの相性は確認されている。
「前オーナーが入れてたのを引き継ぎました。セッティングも見直して、排気系と合わせて少し詰めました。ショップに相談しながら慎重にやりました」
( ・∀・)つ PHANTOM's EYE
GReddy e-manage UltimateをNA仕様のボルトオン改造と組み合わせる場合は、吸排気のような基本的なボルトオン改造に対して燃料と点火の微調整を行うという使い方が最も安定している HKS。13B-MSPに使う場合、ロータリーエンジン特有の「イグニッション信号の形式」への対応が必要なため、必ずファームウェアを最新に更新した上で、ロータリーエンジン用の設定を選択すること。またNTKのAFRモニターと組み合わせてリアルタイムで空燃比を確認しながらセッティングするのが北田号のアプローチで、これは非常に正しい方法だ。ロータリーは混合気が薄いとアペックスシールへのダメージに直結するので、燃調は常に少し濃い側で管理することを意識したい。(゜Д゜)
給排気系、ロータリーサウンドを仕上げる。
エキゾーストマニホールドはTRUST製。HKS製のメタルキャタライザーで触媒の抜けを確保しつつ車検対応を維持、5ZIGENのプロレーサーZZマフラーで締める。インテーク系はRE雨宮製のラムエアインテーク+HKSのレーシングサクションKITで揃えた。
「RE雨宮のインテークはRX-8専用設計で、ラムエア効果でエンジンに走行風をより多く送り込む設計になってる。ロータリー専門ブランドのパーツを使いたかった」
5ZIGENのZZマフラーが出すロータリーエンジンの排気音は独特だ。RENESISは独特の乾いたエンジン音を持ち、8500rpmまで軽々と直線的に吹け上がるその音がマフラーを通って出てくる瞬間、「あ、これはロータリーだ」と思わせる音がする。
駆動系、FRスポーツとして完成させる。
リアLSDはCUSCO Type RS 1.5WAY(1&1.5WAY)。クラッチはOS技研のOS-STRツインプレートクラッチ。「ツインプレートにしたのは、シングルより街乗りが楽だと聞いて。実際、ツインにしてから断然乗りやすくなった」
ロータリーエンジンのクラッチは特に注意が必要な部分だ。13B-MSPはフライホイールが軽量化されており、発進時のクラッチミートに気を使う必要があるが、OS-STRはストリートユースに対応した強化クラッチとして、その繊細な操作性とのバランスを取った選択だ。
足回りと剛性、観音開きボディを固める。
車高調はBLITZ DAMPER ZZ-R DSC PLUS。DSC PLUSは専用コントロールユニットと連動して電子制御式の減衰調整が可能で、走行シーンに合わせた自動・手動の切り替えができる。「前オーナーが入れてた。最初意味がわからなくて、使い方を調べるのに2週間かかりました(笑)」。CUSCOのフロント・リアスタビライザーとRevolution製のショートスタビリンクキットで前後のロール特性を整える。
剛性補強はオートエグゼ製のフロントストラットタワーバー、CUSCOのリアストラットバー Type ALC OS、ウルトラレーシングのフロント・ミドル・リアメンバーブレース。Beatrush製のP.P.F.パフォーマンスバーとPPFサポートブラケットが加わる。
「RX-8って観音開きのドアがあるじゃないですか。あのドア開口部のせいでボディ剛性が落ちるって聞いて。だから補強を多めに入れた」
RX-8は観音開きのフリースタイルドアを採用しつつボディ剛性を犠牲にしないよう開口部を最小限に留めた設計 Chaserだが、スポーツ走行を前提にするなら剛性補強は理にかなった投資だ。
そして締め括りはCUSCO製のD1ロールケージ、6点式4名乗車・ダッシュ逃げ仕様。「RX-8って4人乗れるから、4名乗車タイプにしました。友達を乗せる機会があるんで」。実用性を考慮した選択だ。
ホイール・タイヤ、ENKEIで統一する。
ホイールはENKEI PerformanceLine PF06 18インチ。ENKEIのPFシリーズはワンピース鍛造の軽量ホイールで、強度と軽さを両立する。タイプSの純正装着は225/45R18 Weblioというサイズで、18インチは標準サイズを踏襲した選択だ。「前オーナーのホイールをそのまま使ってます。デザインが好きだったんで換える必要を感じなかった」
内装・電装、Defiで計器を揃える。
コクピットに乗り込んで、まずDefiのメーター群が目に入る。Defi-LinkアドバンスコントロールユニットSEを核に、ADVANCE BFシリーズのRPM・インマニ計・水温計・油温計・油圧計・排気温度計の6点展開、さらにDefi-LinkアドバンスインジケーターをRPMメーターに連動させている。
「Defiで統一したのは前オーナーの方針を引き継いだ部分もあるんですけど、追加したのは自分。排気温度計は自分で足しました。ロータリーの排気温を把握したくて」
ロータリーエンジンの排気温管理は重要な情報だ。BRIDE製のGIASⅢはサイドサポートを強化したフルバケットシートで、BRIDEスーパーシートレールLRタイプと組み合わせる。NTK製のAFRMで空燃比をリアルタイム確認、プロテック製のシフトポジションインジケーターでミッション操作を視覚化。チタンカラーのアルミシフトノブが手元を締める。BLITZのレーダー探知機TL315Rも装備済み。
外装、VERTEX LANGで決める。
エアロはVERTEX LANGの3ピースキット。VERTEX LANGはアグレッシブなデザインが特徴的なブランドで、RX-8のクーペシルエットに対して強い主張を加える。「これも前オーナーのものを引き継ぎました。最初は違うエアロにしようかと思ってたけど、実際に見たらかっこよかったんで残すことにした」
前オーナーの選択を見て、納得した。それも一つの判断だ。
インタビュー:北田 彩人、語る。
――前オーナーのカスタムを引き継ぐのって、どんな感覚でしたか?
「最初はちょっと不思議な感じでした。誰かが作ったものに乗るって。でも走ってみたら、その人がこれだけ手をかけた理由がわかる気がして。なんか、バトンを受け取った感じがしました」
――自分で追加したパーツは何ですか?
「冷却系の一部と、排気温度計と、ロールケージです。あとECUのセッティングを見直しました。前オーナーのセッティングが自分の乗り方に合ってない部分があって、ショップと一緒に調整しました」
――RX-8を選んだ理由は?
「ロータリーに乗りたかったんです。レシプロとは違う感覚を経験してみたくて。9000rpmまで回るエンジンって、乗ってみないとわからない気持ちよさがある。実際に乗ったら、もう他の車に替えられない気がしてます」
――ロータリーの維持管理、大変じゃないですか?
「大変ですよ(笑)。エンジンオイルも早めに替えるし、水温は常に見てるし、カーボン溜まらないように高回転まで回すことを意識してる。でもその手がかかる感じが、愛着に繋がってる気がします」
――今後、何をしたいですか?
「ECUのセッティングをもっと詰めたいです。あとはエンジン内部もいつか見直したい。ロータリーって、オーバーホールが必須って言われてるから。それまでに自分でちゃんと維持できるだけの知識を付けておきたい」
――このRX-8に点数を付けてください。
「75点です。前オーナーの遺産が70点で、自分が5点足した感じ(笑)。あと25点は、これから自分で埋めていきます」
取材が終わり、北田がRX-8のエンジンをかけた。13B-MSPが目を覚ます独特の音。レブが上がるにつれて乾いた音が連なり、5ZIGENのマフラーを通って夜の駐車場に散っていく。
前オーナーが作ったこの車は今、新しいオーナーの手の中にある。バトンはちゃんと、次の走り手に渡っていた。




