ドリフトに憧れ、峠に魅せられた。西宮 亮とアルテッツァRS200の話。
「ドリフトがしたくて、峠を走りたくて。でもGT-RもS15もシルビアも、みんなが乗ってる車は嫌で。アルテッツァにしました」
西宮 亮は、そう言ってすこし照れた。
夜の山道の入り口、コンビニの駐車場に停まったアルテッツァはSARDのフルエアロを纏い、D-MAXのGTウィングがリアに仁王立ちしていた。セダンのフォルムにウィングが生えている光景は独特の迫力がある。「アルテッツァでウィング付けてる人、あまりいないじゃないですか。だからいい」と西宮は言う。マイナー車好きの血が流れている。(´∀`)
3S-GE BEAMS、この天才肌エンジンの話。
まず、このエンジンのことを理解する必要がある。
アルテッツァRS200に搭載される3S-GE BEAMS型。最高出力210馬力を7600回転で、最大トルク22.0kgmを6400回転で発生する、2リッター直列4気筒NAの到達点のひとつだ。発売当初、日本製2000cc自然吸気エンジンの中では最高出力を誇ったという事実が、このエンジンの本気度を示している。
ただし、このエンジンには個性がある。いや、「癖」と言った方が正確かもしれない。4500rpmを過ぎたところからトップエンド手前まで急激なトルクの高まりが来る。それ以下の回転域は実用エンジンとは一線を隔てるスポーツエンジンの吹き上がりを見せる一方、低速トルクが薄いという特性だ。低速域でのトルクが薄く、高回転をキープしないとパンチを味わいきれない扱いづらさが、一部から「乗りにくい」と言われる原因でもある。
ドリフトをしたい、峠を走りたい、という目的に対して、低中速トルクが薄いこのエンジンは向いているのか?
「向いてないって言う人もいます。でも、そこをチューニングで何とかしたいというのが面白くて」
そういうことだ。(笑)
HKS スライドカムプーリー IN/EX+タイミングベルト、バルタイで低中速を補う。
今回の仕様で最も重要なポイントがここだ。
HKS製のスライドカムプーリーをIN・EXの両方に装着し、さらにHKS Fine Tune Timing Beltを組み合わせる。スライドカムプーリーの仕組みについてはvol.09のオクラ号の記事で詳しく解説したが、IN/EX両方を換えることで吸排気の位相を同時に最適化できる。
3S-GE BEAMSの弱点である低中回転域のトルク薄をバルブタイミングの調整で補う、これが西宮号のエンジンチューンの方向性だ。
「ショップにデータロガーを持って来てもらって、バルタイを0.5度単位で詰めました。2日かかりました(笑)。でも変わりましたよ、乗り味が。踏んだとき、ちゃんと応えてくれる感じが出てきた」
HKS Fine Tune Timing Beltは純正比で精度の高いタイミングベルトで、高回転まで正確に回すエンジンへの換装として実績がある。カムプーリーで位相を変えるなら、ベルトの精度も合わせて上げる。当然の組み合わせだ。
5ZIGEN プロレーサーヘッダー、排気から高回転の伸びを引き出す。
エキマニは5ZIGEN プロレーサーヘッダー。3S-GE用の等長エキマニで、タコ足とも呼ばれる放射状に伸びるパイプが各気筒の排気パルスを均等に扱う設計だ。
3S-GE BEAMSは1、2速は一瞬で吹けきり、3速では息の長い加速の伸びが味わえるキャラクターのエンジンだが、等長エキマニで排気効率を高めると高回転域の伸びがさらに鋭くなる。合わせてTODA製の強化バルブスプリングを組み込んでいる。高回転まで一直線に回る3S-GEにとって、バルブスプリングの強化はカムプーリーと排気系の最適化を確実にバルブ追従性で受け止めるための下地作りだ。
SARDのスポーツキャタライザーで排気の抜けを確保しつつ車検対応も維持、センターパイプはフジツボ製のパワーゲッター用を使用、マフラーは5ZIGEN ZZで締める。「5ZIGENで揃えてる部分が多いのは、単純に好きだからです(笑)」
ECU:APEXi Power FC+FCコマンダー、全部を制御する。
バルタイ調整・エキマニ換装・強化スプリング、これらをまとめて制御するのはAPEXi Power FC、そしてFCコマンダーだ。
APEXi Power FCは3S-GEとの相性で非常に評価の高いフルコンで、3S-GE BEAMSの純正ECUが設定する電子スロットルの鈍いアクセルレスポンスを根本から書き換えられるのが最大の強みだ。FCコマンダーはその設定をリアルタイムで手元で変更できるサブユニットで、走りながらのモニタリングと微調整を可能にする。
「Power FCとバルタイ調整で、完全に別のエンジンになりましたよ。アルテッツァって低速トルクがないって言われるけど、そこを埋めていくのが楽しい。パズルみたいで」
NTK製のエアフューエルレシオモニターと組み合わせて、燃調を目視で確認しながら詰める体制も整っている。
( ・∀・)つ PHANTOM's EYE
3S-GE BEAMSは低速トルクが薄く、高回転のみを得意とする設計 Wikipediaだが、APEXi Power FCで電子スロットルのレスポンスを改善し、HKSスライドカムプーリーでIN/EXのバルブタイミングをオーバーラップ方向に振ることで、低中回転域のレスポンスを体感レベルで改善できる。ただしバルタイの調整はショップ任せを推奨。自分でやると燃調が合わなくなるリスクが高い。特に峠・ドリフト両方をこなしたい場合、低中速のトルク感と高回転の伸びをどのバランスにするかは走りのスタイルと相談しながら決めていくべきだ。(゜Д゜)
冷却系、VVT-i=熱との戦い。
コヨウラッドのレーシングラジエターTYPE-M、SARDのクーリングサーモ、TRUSTのオイルクーラーキット、CUSCOのラジエタークーリングプレート、GReddyの汎用オイルキャッチタンク。
「アルテッツァって熱持ちやすいって聞いてたんで、冷却は先に固めました。サーキットで走ったとき、水温が上がらないのが精神的に楽で(笑)」
走りを楽しむ前提として冷却系を先に固める。正しい順番だ。
駆動系、FRドリフトへの本気。
LSDはCUSCO Type RS Spec-F 2WAY。ドリフト志向が明確に出ている選択だ。1.5wayとの違いは、減速時にも駆動を完全にロックする2wayの特性で、ドリフト中のリアの挙動を安定させる。「峠でドリフトしたいなら2wayだってショップに言われた。確かに入れてから車の動き方が変わった」
クラッチはオグラレーシングクラッチ ORC 250Light シングル。「Lightって名前がついてるから街乗りでも使えると聞いて。全然そんなことなかったけど(笑)。でも慣れた」。がっくん号のORC…皆慣れていく運命だ。(笑)
足回りと補強、CUSCOを軸に全部詰める。
車高調はCUSCOのストリート ZERO A。フロント・リアともにCUSCO製スタビライザー、ネガティブアッパーアーム、ロワアームブッシュと組み合わせて、足の動きを丸ごとCUSCOで統一する。KTS製の調整式リアロアアーム、フロントアッパーアーム、調整式ピロテンションロッド、イケヤフォーミュラのタイロッドで、アライメントの自由度を最大限に高めた。
「ドリフト角度を作るためには、後輪の動き方を自分でコントロールできないといけない。アームを調整式にしてアライメントを攻めた数値にしてます」。純粋なドリフト志向の足の作り方だ。
剛性補強はCUSCOのType OS・Type OS-Tの前後タワーバー、フロント・リアのロワアームバー ver2(リアはver1と併用)、リアトランクバー、ドアスタビライザー、フロントメンバー補強バー。ナギサオートのがっちりさぽーと。さらにウルトラレーシングのフロント・ミドル・リアメンバーブレース、ルームバー。カワイ製作所のフロントコアサポートバー。
「補強は全部入れたかった。アルテッツァってセダンだから、補強の効果がわかりやすくて。入れるたびに車が違う反応をする」
そして仕上げはCUSCOのD1ロールケージ 7点式、5名乗車・ダッシュ逃げ仕様のクロモリ製だ。ドリフトに本気で向き合う姿勢がここに集約されている。5名乗車タイプを選んでいるのは「たまに人を乗せるし、車検も通したいから」という現実的な判断だ。
ブレーキとタイヤ、峠に必要なものを揃える。
ブレーキはENDLESS製のブレーキライン+パッドの組み合わせ。APP製スチールエンドに並ぶENDLESSの定番構成で、ドリフト中の繰り返しブレーキングにも耐える。
ホイールはアドバンレーシング TC-4、レーシングホワイトメタリック。タイヤはアドバン フレバ。「ADVANで揃えました。白いホイールが好きで」。がっくん号・翔也号と同じく白ホイール、でもアドバン系で統一した独自性がある。
内装・電装、走りに必要なものだけ。
シートはBRIDE ZETA Ⅳ、スーパーシートレール FOタイプ。ZETA Ⅳはフルバケの中でもレーシングシーンで定番の一台で、ホールド性と乗り降りのしやすさを両立する。
計器はDefi-Link アドバンスコントロールユニットSEを核にDefi ADVANCE BFの油圧・油温・水温の3点セットと排気温度計を展開する。「Defiで揃えたのは見た目が好きで。メーターって、やっぱりDefiが一番かっこいいと思うんで」。NTK製のエアフューエルレシオモニターも追加し、APEXi Power FCのセッティングをリアルタイムで確認できる体制が整っている。BLITZのレーダー探知機 TL315Rも装着済み。Panasonic caosバッテリーで電装系の安定も確保している。
外装、SARDとD-MAXで決める。
エアロはSARDのフルエアロパーツセット。SARDはモータースポーツ参戦実績のある国内チューニングブランドで、アルテッツァ用エアロの完成度は高い。D-MAXの汎用GTウィング A140(ちゃるどね号、琴葉号にも登場した定番だ)がセダンのリアに鎮座する。ケイズプランニング製のアルミナンバーステーで締める。
インタビュー:西宮 亮、語る。
――なんでアルテッツァだったんですか?
「かっこいいから、というのが最初です。でもよく調べたら面白い車で。3S-GEって素のままだとトルクが薄くて扱いにくいって言われてる。でもそこを自分で改善していくのが楽しいな、と思って」
――ドリフトをしたいというのは、どこから来たんですか?
「D1の動画を見てたら、やってみたいって思って。でもいきなりドリフト専用の車を買う勇気はなくて。アルテッツァなら峠も走れるし、いずれドリフトもできる。そういう車を探してたらここに行き着いた」
――今、ドリフトはできますか?
「……少しはできます(笑)。峠でのドリフトはまだ怖い。でも練習場では出せるようになってきた。LSDを2wayにして、バルタイとECUを詰めてから、パワーが出るようになって。やっとドリフトできる車になってきた感じがします」
――この車、どんな状態が「完成」ですか?
「自分がドリフトでちゃんとコントロールできる状態になったとき、じゃないですか。車の性能より、自分が追いついてない部分の方が大きいんで。まだまだです」
――最後に、このアルテッツァに一言。
「ありがとう、って感じですかね(笑)。低速トルクが薄いって言われる車で、自分なりに答えを出せてきてる気がするんで。この車と一緒に上手くなっていきたい」
取材が終わって、西宮のアルテッツァがスタートした。APEXi Power FCが最適化した3S-GE BEAMSが、峠の入り口で高回転に乗った。5ZIGEN ZZマフラーが峠の夜に響く。
低速が薄い、扱いにくいと言われたエンジンが、今夜も峠を走り続ける。その音には、確かに答えを探す青年の意志が乗っていた。




