整備工場のオヤジが乗るのは、Zだった。岡本彰と岡本自動車(有)のZ33を解剖する。
「うちに取材に来てどうするんですか(笑)。整備屋ですよ?」
岡本彰は苦笑いしながら、工場のシャッターを半分開けた。中に見えたのは、リフトに上がった誰かのミニバンと、その奥に静かに停まっている1台のクーペだった。
日産フェアレディZ、Z33型。
「これ、仕事終わりに乗るんですか?」
「乗りますよ。趣味ですから」
岡本彰、47歳。岡本自動車(有)の代表で、2台のリフトと1人のスタッフを抱える小さな整備工場のオーナーだ。白髪交じりの短髪に、油の染み込んだつなぎ。「イケオジ」という言葉が似合うかどうかは読者の判断に任せる。でも、そのZ33は確かに、普通じゃなかった。
VQ35DE、3.5L NAの怪物。
まず車の話だ。
Z33、前期型。3498cc V型6気筒DOHC自然吸気のVQ35DE、最高出力280馬力を6200回転で、最大トルク37.0kgmを4800回転で発生。アメ車のような厚いトルクがあり、レスポンスも良いエンジンとして評価が高く、3.5リッターNAならではの厚いトルクが低回転から全域に渡って積み上がるキャラクターだ。
ターボもスーパーチャージャーも積んでいない。純粋な自然吸気エンジンを、純粋な自然吸気チューニングで仕上げる。それが岡本号のコンセプトだ。
「整備屋がターボ車に乗るのもおかしいかなと思って(笑)。NAのエンジンを自分でいじる方が、性に合ってる。毎日エンジンを触ってる人間が、どこまでNAを仕上げられるか、というのが楽しいんですよ」
プロの整備士がDIYチューニングするとこうなる、という見本のような仕様だ。
エンジン、東名パワードで決める。
今回の仕様の核心はここだ。
カムシャフトは東名パワード製のポンカム。VQ35DEの前期型用は作用角256度が設定されており、「バルブタイミング調整作業不要で装着するだけで性能アップが図れる」という東名パワードの代名詞的なパーツだ。V型エンジンはカム交換の作業工程が複雑になりがちだが、ポンカムはバルブタイミング調整を必要とせず、専用素材で高精度に設計されたカムシャフトで、強化バルブスプリングへの交換も不要という手軽さが魅力だ。
「ポンカム、プロの目線から言うと、よく出来てますよ。他社のカムを入れたら必ずバルタイ調整が必要になるところを、東名はそこを不要にしてる。素直に感心した」
整備のプロがそう言うなら、本物だろう。(笑)
そしてもう一点、重要なのが東名パワード製の強化バルブスプリングだ。VQ35DEの前期型はバルブスプリングが高回転域での対応に余裕がない設計で、ポンカムで高回転域を伸ばしていくなら強化スプリングとの組み合わせが理想的だ。「カムを換えたらスプリングも換える。当たり前の話ですよ。プロとして、そこで手を抜いたらダメ」と岡本氏は言う。
エキマニは東名パワード エクスプリームバージョン2。パイプ径42.7φの等長3-1レイアウトを採用し、集合部までの長さを徹底的に検証して450mmがベストと判断した設計で、VQ35DEの排気効率を全域で最適化する。コンセプトは「鋭利なアクセルレスポンスと悦楽のエンジンフィール、陶酔するサウンド」 だ。このエキマニを筆頭に、HKSのフロントパイプ、SARD製スポーツキャタライザー、柿本改センターパイプ、柿本改 HYPER FULLMEGA N1+ Revという排気系の一本通しが完成している。
オイルパンはセントラル20 Z-SPORT製の大容量タイプ。Z33のVQ35DEはトルクは太いが吹け上がりが重いという特性があり、オイル管理を徹底することで高回転域の安定性を高めることができる。「オイルパンを大容量にするのは、サーキット走行でオイルが偏るのを防ぐためですよ。スポーツ走行するなら必須だと思ってる」
( ・∀・)つ PHANTOM's EYE
東名パワードのポンカムとエキマニ、強化バルブスプリングの組み合わせはVQ35DEのNAチューンとして一貫したコンセプトを持っている。ポンカムで高回転域を伸ばし、エキマニで排気の流れを最適化し、スプリングで高回転でのバルブ追従性を確保する。この3点セットに排気系の一本通しまで揃えると、トルクは太いが重かった吹け上がりをリニアに変え、アクセルペダルと連動して反応するエンジン特性に変化する。NAチューニングの理想形のひとつだ。フルコンのLinkで全部をまとめて制御しているのが、整備のプロらしい仕上げ方だ。(゜Д゜)
冷却・電装、プロの徹底ぶり。
コヨウラッド製のレーシングラジエター TYPE-M、BILLIONのスーパーサーモ、GReddyのオイルクーラースタンダード 13段、マインズ製のデフオイルクーラー。CUSCOのラジエタークーリングプレート。SUMCOのクーラントホース。NGK IRIWAY8の高熱価プラグ。ADVANCEのハイエフィシェンシーオルタネーター。
「整備屋として言わせてもらうと、スポーツ走行するならオイルと水の管理が全てですよ。パワーパーツを入れる前に、熱管理を完璧にしておくのが正しい順番。そこがズレてると、どれだけいいパーツを入れても壊れます」
デフオイルクーラーまで装着するのは珍しいが、「FR車でサーキットを走るとデフが熱を持つ。見落とされがちだけど、デフオイルが高温になると寿命がぐっと縮まるんで」。高熱価プラグのIRIWAY8は、カムとエキマニで排気効率を上げた状態の燃焼に対応した選択だ。
ECU、Link フルコンで全部を統括。
ECUはLink。ニュージーランド発祥のフルコンで、海外のモータースポーツシーンでも実績があり、VQ35DEとの相性でも評価が高い。
「フルコンは怖がる人が多いけど、整備屋の俺からすると、全部が見えて全部が変えられる方が安心なんですよ。純正ECUって、チューニングが進んでくると必ず限界が来る。だったら最初からフルコンにした方が将来的な発展性がある」
ポンカム+エキマニ+強化スプリング+排気一本通し、このすべてをLinkで統括制御するのが岡本号の心臓部だ。
駆動系、しっかり路面に伝える。
リアLSDはCUSCO Type RS spec-f 1.5way。クラッチはOS技研のツインクラッチ ストリートマスター。ミッションマウントはZ.S.S.製の強化品、クラッチホースはNISMO製。
「NAで馬力を上げていくと、駆動系が一番先に悲鳴を上げる。LSDを入れてクラッチを強化して、ミッションマウントを固めるのは、NAチューンの基本中の基本です」
プロの口からこう言われると説得力が違う。(笑)
足回り、本格的に詰める。
車高調はTEIN MONO SPORT+EDFC ACTIVE PRO。MONO SPORTはレース・競技走行を視野に入れた減衰調整式車高調で、EDFC ACTIVE PROは電動リモコンアジャスターと加速度センサーを組み合わせて走行状況に応じた自動制御も可能にする。「自動制御は使ってない。手で合わせた方が信用できる」と岡本氏はあっさり言う。(笑)
CUSCOのピロボールテンションロッド、フロント&リアスタビライザーで足の動きを緻密に整える。APP製のスチールエンドブレーキホース、プロジェクトμ B-SPECのパッド(純正ブレンボ用)でブレーキを固める。「バージョンS以上の純正ブレンボ搭載車なので、そこを活かしたパッド選びをした」。
イケヤフォーミュラ製のタイロッドキットはステアリングレスポンスの精度を上げ、アライメントの自由度を高める。
ボディ剛性、徹底的に補強する。
CUSCOのフロントストラットタワーバー タイプOS、カワイ製作所のフロントコアサポートバー、ウルトラレーシングのフロント・ミドル・リアメンバーブレースの3点、ウルトラレーシングのルームバー、ナギサオートのがっちりさぽーと。
「Z33は思ったよりボディ剛性が高い。でも走り込んでいくと、ここを締めるともっと良くなるというポイントが見えてくる。補強は全部、走りながら必要性を感じてから追加した」
整備のプロが試行錯誤しながら積み上げた補強構成だ。一発で正解を入れるのではなく、乗りながら詰めていく。それが岡本氏のスタイルだ。
タイヤ・ホイール、ワークで引き締める。
ホイールはワーク エモーション CR極。前8.5J +38、後9.5J +38のワイドスタンスで、Z33の低いフォルムをさらに引き締める。タイヤはADVAN Sport V107。「ここはケチらなかった。足もECUも全部詰めて、最後にタイヤだけ安いものを履くのはバランスが悪い」。
内装、走るための装備だけ。
シートはBRIDE製のセミバケットシート STRADIA Ⅲ、BRIDEのスーパーシートレール ROタイプ、BRIDEのシートバックプロテクター K17タイプまでセットで揃えた。「BRIDEのシートはバックプロテクターがあるかどうかで乗り心地が全然違う。省かない方がいい」。
BLITZのタッチブレインプラスはOBD2から車両情報を読み取るマルチメーター。レブリミッターはBee★RACING製。Apex'iのエキゾーストコントロールバルブは排気弁の開閉制御で、低回転の静粛性と高回転の抜けを両立できる装備だ。
外装、Ings N-SPECで纏める。
エアロはIngs N-SPEC TYPE-Eのフロントバンパー、サイドステップ、リアバンパー+フロントカナードの4点セット。Ingsはスポーツ走行を意識した空力設計で定評があり、Z33との相性も高い。リアには「安い汎用GTウィング」が付いている。
「ウィングは正直、見た目半分ですよ。でもないよりあった方が高速が安定する。値段よりも形状が重要なんで、汎用でも問題ない」とプロは言い切る。ケイズプランニング製のアルミナンバーステー、各種ステッカーチューンで仕上げを決める。
インタビュー:岡本彰、語る。
――整備士としての目線と、チューナーとしての目線は違いますか?
「違いますね。整備士は『壊れないこと』を最優先に考える。チューナーは『速くなること』を優先する。俺の場合はその両方が同じ人間の中にいるので、自分でしょっちゅう議論してる(笑)」
――このZ33で一番気に入ってるパーツは?
「東名のエキマニですね。音が変わるんですよ、本当に。V6の排気音がこれだけで別物になる。プロとして『こんなに効くのか』と思った」
――お客さんのZ33の整備が入ってきたら、このパーツを勧めますか?
「勧めます。ただ、セットで考えてほしい、とは言います。エキマニだけ入れてもECUが純正のままだと最大の効果は出ない。予算に応じてどこから手を付けるかの順番を一緒に考えるのが俺の仕事ですから」
――走り屋としての岡本さんを、お客さんは知っていますか?
「……知ってる人は知ってる(笑)。口コミで来るお客さんの中に、『Z33のオヤジがいる整備屋』を目当てにしてくる人がいて。そういう人とは話が弾む」
――最後に、このZ33の完成度は今何点ですか?
「70点。あとの30点は、まだセッティングを詰める余地があるってことです。ECUのマップもまだ途中だし、サスセッティングも季節によって変えたい。整備屋が乗る車がずっと整備中なのは、ご愛嬌ということで(笑)」
工場のシャッターが閉まっていく音がした。岡本氏がZ33のエンジンをかけた。東名パワードのエキマニ、柿本改 HYPER FULLMEGA N1+ Rev。V6の排気音が夜の工場街に低く、でも確かに威圧感を持って響いた。
整備工場のオヤジが作ったNAチューンのZ33は、これが「本物」という音を出していた。




