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2.これから

「坂出さんは、もう解散するってことでいいんですか…?あんなに一方的に言われて…」

マネジャーが落ちた書類を整理しながら確認をしてくる。


「しょうがないよ。あいつに振り回されるのには慣れてるからね。これで最後だと思うと感慨深さまであるよ。」

そう冗談風に伝えるとマネジャーにも伝わったのか顔をふっと緩める。かと思えば真剣な表情を作ってずいっと近寄ってくる。


「ところで坂出さん。これは確認なんですけど、解散した後は芸能界引退!なんてことにはなりませんよね!?」

そう訊ねる靴原マネジャーの瞳は揺れている。何を隠そうこの靴原はマネジャーは学生時代に俺たち撃鉄ドカンボカンの漫才を見てマネジャーを志望したらしい。初対面の時に「特に坂出さんのボケが面白くって!」と目をキラキラさせながら言っちゃったもんだからしばらく茂木の機嫌が悪くて大変だったのを覚えている。


「いやあ、しばらくはお笑い続けてみるよ。これで5年も10年もやってダメだったらまあ…ちょっと考えるよ。」

そう言うと当面の不安は払拭されたのか再び笑みが戻った。


「まあとりあえずはピン芸人-1グランプリでも出ようかな。うーんでもネタが無いからなあ…まあバラエティ番組呼んでもらったり先輩のYouTube出させてもらったりとか?あ!自分のYouTube開設するのも面白いかも!その辺り一生懸命やれは身になりそうだしアリだなあ…!」

自分で言っておきながら楽しそうな未来に想いを馳せる。8年もやってきたコンビに未練は無いかと言われれば嘘になるが、正直俺も茂木とのコンビに限界を感じていたのも事実だ。それをテコ入れする方法はいくらでもあったけどアイツが解散を言う最も安易な逃げ道を選んだなら俺もそれでいい。俺は俺の道を行くだけだから。


「そういえばコンビのYouTubeは茂木さんが『YouTubeやるやつなんてヌルい!ダサすぎる!』なんて言ってやらなかったんですよね…でも坂出さんがピンでYouTubeやったら色々企画出来そうですね!坂出さんそういう企画力もありますし!」

マネジャーもノってきたのか完全に同意してくれて話を広げてくれる。


「企画…か。そうだなあ…一人でラジオとかやってみても楽しそうだし…なんか後輩呼んで大喜利やるのも楽しいだろうなあ…普通に街ブラとか食レポみたいな緩いやつもやりたいかも。あ!先輩の私物でモノボケ!スベッたら罰ゲーム!なんてどう!?」

と、やりたいことをつらつら羅列していたら興が乗って次々とアイデアが溢れ出てくる。


「あ!!いいですね!それ面白そうです!それの罰ゲーム、後輩にプレゼントなんて土いいんじゃないですか?」

マネジャーも嬉々としてアイデアを投げてくれる。お笑い好きなだけあって企画のツボは押さえている。

そういえば茂木がいる時はこんな和気あいあいとした話し合いをしたことはなかったなあと過去に思いを馳せる。


〜数年前の回想〜


「じゃあ今度テレビでやるネタは『お化け屋敷』な」

用事はそれだけだと言わんばかりにカバンを持って立ち上がろうとする。


「え、でも“お笑いチャンス”はMCがコント系が好きな“バスケットツリー”さんなんだから『同棲』のネタをやった方がいいんじゃ…」

そう提案すると、茂木は帰ろうとしていた足を止め、いつものイライラしたような口調で話し出す。


「あのなあ、ネタを作ってるのは俺なんだよ!!ネタのことは俺が一番分かってんの!口出しすんじゃねえよ!まあ、ネタ作りの段階でお前のボケを言いやすいように少し変えたりするのはいいわ。ただ、お前にそういうとこまで口出しするねえんじゃねえのか!!」

そう言い切るとこちらの話を聞かずに楽屋のドアを大きな音を立てて出ていってしまう。


その後、茂木を尊重してやった『お化け屋敷』

のネタを後でオンエアで見た時にバスケットツリーの織田さんが「いやあ、面白かったですけどね、ドカボカはコント系の漫才も出来ますからそういうのも見たかったなあと思いますね。」と言っていたのを見てしまった。俺は割と出演した番組を見返すタイプだが、茂木は自分の出た番組を一切見ないと言っていたのでこのことは知らないだろう。バスケットツリーの相方、武藤さんも「漫才は2人とも上手いんですけどまだ若いので色んな形で挑戦してるところもみたいですね。」

と、否定とも肯定とも取れるような意見を重ねていた。


〜〜〜〜〜〜


思えばあの時俺はもうこいつとはやって行けないんじゃないか…と疑念が頭に浮かんだんだよなあ…そんなことを思っていると


「坂出さんどうしました?」

とマネジャーが困った顔をしている。意見を出したのにスルーしてしまって不安にさせてしまったみたいだ。


「いい意見だと思うよ!この路線でいくつか考えてみるか!」


「はい!!」

もう茂木と解散すると決まってしまったものはしょうがないので、次に向けて何をするかの話し合いをする方が得だ、と無理矢理にでも頭を切り替えて意見を出し合うことにする。ただ、この後沢山の先輩へ挨拶に回らないといけないことを考えると気が重くなる。

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