11 毒の理由
「どうしてこんな無茶をしたんですか」
リアナはあきれていた。
町人であれば、ベラドンナが劇薬であることも知っている。
鼻炎の薬になるようだが、素人には扱いが難しい。
いくらおなかがすいても、初めて見る森の木の実をとって食べてはいけない。平民ならば子供でも常識だ。
カイルはリアナが差し出したハンカチを素直に受け取って指先を拭いていた。
腫れも見受けられない。
きっと触って少ししか経っていなかったのだろう。
すぐに声をかけてよかった。
リアナはふと我に返った。
王太子が公爵を助ける――。
これは不自然なことだろうか?
いや、公爵といえば臣下の貴族の中では最も王族に近い存在だ。
ならば、王太子が心配しても問題はないだろう。
さらに言えば、『ちょっとしたトラブル・事件・怪我』に巻き込まれた公爵を少しばかり手助けしたからといって、おかしいことではないはずだ。
「申し訳ない。手をわずらわせてしまいました」
カイルは心なしか頬を青ざめさせて言った。
こういうことに慣れていないのかもしれない。
「大丈夫だと思いますよ。触れたのは指先だけでしょう。私が見ていたときだけなら、ほんの僅かな時間でしたし」
カイルは沈黙し、ふら、とその場に座り込んだ。
小川のほとりの樹の幹に背中を預けている。
「だ、大丈夫ですか? 気分でも……」
「いや。情けないな。レディーに」
「レディ?」
「あ、あー……レディーたちに、こんなところを見られていなくて良かった、と」
「ああ」
リアナは合点した。
この遊び人は女性の賛美がなければ生きていけないに違いない。
だが、あんな危険なことをした理由はまだ分からない。
「さて、どうしてあんな無茶をなさったのか、聞かせてくださいますね」
改めてリアナは訊いた。
カイルはしばらく黙って流れる小川の水のきらめきを見ていたが、諦めたように息を吐いて言った。
「食べられるか、と思ったんだ」
「公爵様が? ケーキもパンも飽きるほど食べられているのでは?」
カイルはふふっと微笑んだ。
「そんなものが何になる。今年の冬は例年よりも寒く、雨が少なかった。小麦は昨年よりも収量が減るだろう……民は飢えるが食料は足りない。この王宮の森には種々様々な植物が生えているが、くだらないと思いはしないか。王族の散策のためにあるだけの森など何の役に立つんだ」
カイルは穏やかだったが、心の奥にあった思いを吐き捨てるように、一言一言をはっきりと口にした。
「町や村の民のために、何か役にたつものがないかと思っていたんだ。ずっと……この実は本で見たことがあったニワトコによく似ていて……しかし、ベラドンナだったとはな。私の知識が少なかったばかりに、迷惑をかけた」
リアナはカイルの彫刻のような横顔を見た。
カイルは平民の生活を考えていたのだ。
「てっきりその場の気まぐれに摘まみ上げたのだと思ってましたよ」
本当に遊び人なのだろうか?
そんな人がわざわさ平民を想うだろうか。足を止めて、手を汚してまで。
カイルは泣きぼくろのある片目をいたずらっぽく閉じた。
「この礼は、きちんとしなければなりませんね」




