道
決断の後も、少しの沈黙が続いた。
その間ずっと考えていた。
20分後。
晴香が立ち上がった。
「新島くん!そろそろ帰ろっか!」
またしても良い笑顔だ。この笑顔が作り物ではないことだけは確実に分かった。
やっぱり、人も天使も同じなのかもしれない。
いつかは結局死んでいくことも、人を支えて行くことも、感情の通りに動くこともあるだろう。
やっぱり、東雲さんは天使だ。羽のない、ヘイローのない天使だ。きっと大丈夫だ。そう言い聞かせた。
「天使って、たくさんいるのかもな...」
僕は小さく呟き、腰を上げた。
そして歩き出す前に、僕“たち”はとあることをした。
「新島くん、考えてること一緒だね」
「うん、そうだね」
”きっと“離れない、いや離さない。
そんなことを思いながら、ふたりは歩き出した。夕陽を背にした2人から伸びる影には、安堵を感じることができた。
数分歩いて駅に着いた。
駅メロがなり電車がやってくる。
人の少ない電車に乗り、家の近くまで一本で良い。
雫と愛莉が心配だ。
「新島くん、明日は空いてる?」
「はい、空いてます。暇です」
「なら、家に行っていい?」
「あ、いいですよ、でもどうして...?」
「瞬が好きだから」
「本当に...?」
「いや嘘。瞬が“大”好きだから」
晴香は言い直した。瞬へ愛を伝えた。瞬もそれに応えた。
「僕も、東雲さんが好き、いや大好き」
どちらも顔を赤くして、目を合わせられずに言った
瞬が立ち止まって言う。
「東雲さん」
「ん?」
「僕と付き合ってください」
残った光が消えて行く。空は輝き始めた。
それは、空だけじゃなかった。
「...はい!」
その瞬間、まるで2人を祝うかのように、北から風が吹いた。
晴香の中で、瞬の中で絶対に忘れない日となった。
二人は笑いながら向き合った後、”絶対“に離さないという意思を表すように手を握りしめた。
冷たい北風もこの時だけは暖かく、まるで背中を押すようだった。
その後電車に揺られ、家に着いた。
「おかえりなさい!」
「ただいま、二人とも。心配させてごめん」
「大丈夫です!」
愛莉はいつも通り元気に返事したが、雫はただ静かに頷き、すぐに机に向かった。
「雫?」
「はい?」
「どうしたの?」
「アンケートの結果を天界に送るのです。それで少し整理を」
「なるほど、頑張って。温かいココアでも飲む?」
「はい飲みます」
「分かった。愛莉は?」
「いる!」
「了解」
その後ココアを作っている間に愛莉から聞いたが、僕が店を飛び出した後、2人は急いで注文した物(僕のも含む)を食べ、お金を払って家に帰ってきたそうだ。
雫達も追いかけようとした時には当然、もう僕たちはいなかった。雫には家に帰ってやらなければならないことがあったので、2人は仕方なく帰ることにしたそうだ。
「ふー、ふー...あちっ!」
「大丈夫愛莉?」
「や、やけどしたぁー!」
「まったく、愛莉は子どもなんだから」
雫が笑いながら言った。
「お、お姉ちゃん!」
「昔から変わらないね愛莉は」
「お姉ちゃんが変わりすぎなだけだよー」
「昔は2人ともどんなだったんだ?」
「お姉ちゃんは....」
「私たち2人とも元気だったわよ」
今の雫には、少し元気が足りない気がする。
「お姉ちゃんは、お母さんが亡くなってからこんな感じになっちゃったの」
「愛莉はそのままなんだね」
その会話は夜遅くまで続いた。明日は東雲さんが来るので早く寝よう。