97.抜け道
私は魔族だ。でも、私以外の魔族をほとんど知らない。
私の種族は魔族の地の勢力争いに負け、人間の住む地に移住してきた鍛冶屋の一族である。いのちからがら逃げ延びてきたというのに人間に狩られ、生存してるのは私だけ。今や絶滅の危機に瀕してる。
そんな私が魔族の地に行くとどうなる?
答えは、差別という名の熱烈な歓迎を受ける、だ。
ゲラートの種族も階級で言えば下から数えたほうが早いらしく、ゲラートにはそんなに差別意識はないという。こいつはやりたい放題やってるけど、同じ種族のやつはゲラートほど上手く能力を扱えないという。だから、種族単位で言えば肩身の狭い思いをしてるとのことだ。
その話を聞いて、今から魔族の地へと向かう足はさらに重たくなった。
「こんな場所よく住もうと思ったね?」
モネスは森を歩く中で私の元居住地についてひたすらにぼやいた。
道中のメンバーはネーヴ、私、クリスタとゲラート、そして、なぜかルントの冒険者であるモネスがついてきた。ルントからヴォルフガングに戻らず、私たちはそのまま魔の森を目指した。なぜなら、この魔の森の先に魔族の地に繋がる抜け道があるというのだ。
モネスに関しては、ヘクターの指示に従って単身で同伴してる。惚れた男の頼みなら地の果てまでも飛んでいく。見上げた根性だ。それが私の知る限りだと叶わぬ恋だとしても。
ヘクターはただ『未来予知』で、モネスが魔族の地で必要になる、という未来を予知しただけでモネスに特別な感情を抱いてない。ルントの冒険者という一括りに過ぎない。それでも、ヘクターがモネスに信頼を置いてることは事実ではあるけど。
彼のスキルを知ってしまい、かつ敵じゃないことを認めてしまった私には選択の余地がなかった。そして、クリスタにも同じことが言える。モネスの同行を拒否する理由がなかった。たとえこの先に危険が待ち受けているとしても。
「住めば都だよ」
「都にはなんないだろ。家ないし」
「うるさい」
確かに洞窟暮らしだったけどね!
クリスタは突っ込みを入れてくるぐらいには調子を取り戻してきた。でも、そのことについて私は追及しようとは思わない。彼女の悩みは明らかに私の未来に関係しているからだ。ネーヴほど好奇心が強ければ『シーカー』のスキルで無理矢理にでも情報を引き出してたかもしれない。だけど、私にはその未来が恐ろしくてたまらなかった。そして、ヘクターの言葉を鵜呑みにするなら……私が未来を覗こうが覗くまいが、足掻いたところでその未来が確実に訪れるということだ。
単なる占い師の戯言なら鼻で笑って済ますことができた。そうじゃないから始末に負えない。
「ネーヴ、少しは元気になった?」
「すまないね。こうまで足を引っ張ることになるなんてな」
ルントのダンジョンでの疲労はネーヴに重くのしかかった。正直なところ、あの拠点で一日安静にしてほしかった。でも、ネーヴたっての希望で出発が見送られることはなかった。これでネーヴに何かあったら私はゲラートを首を本気で締める所存である。
そして、この強行軍の元凶であるゲラートは先頭をそわそわしながら歩いてる。よっぽど魔族の地での状況が芳しくないんだろうね、外部の私たちに頼らざるを得ないってことは。
事前に聞いた情報じゃ、ゲラートは魔王に仕えてる魔王派の魔族だ。そして、対抗勢力の筆頭種族は吸血鬼だ。こいつらが問題を起こして、それに乗じる形で各地で反乱が起きたらしい。統制がとれてるわけじゃないので当然潰し合いが発生するわけで、魔族の地はそれはもう荒れ放題とのことだ。
魔王は穏健派で下の階級の魔族にも慈悲があるらしい。でも、吸血鬼たちは彼らを搾取することが狙いだ。自分たちの種族以外の命の権利を否定してるわけだ。
ぶっちゃけ私たちが行ったところで何になるって話だ。
「全然気にしなくていいよ。回復するまで魔物は私がなんとかするから自分のペースで歩いてね」
この森は私にとって庭のようなものである。ここの魔物はみんなフィジカル頼りで突っ込んでくる脳筋しかいない。それでも、普通の冒険者だとでかい図体や俊敏な動きをどうにかすることができずに命を散らすことになるぐらいには危険だ。でも、私にとっては分かりやすくて最高の環境である。クリスタにバカにされるのはそういうところもあるんだろうね。
若干の悔しさを滲みだしながら私は意気揚々と森の中を歩いた。




