89.リーゼロッテ流レッスン
『空間収納』スキルはアイテムのコピーを作ることができる。これが本当なら、リーゼロッテはナイフを無限に投げてこれる。それどころか、かなり幅広い戦略を取ることができる。油を大量に撒き散らしてあたりを火の海にするのもそんなに手間がかからないし、それこそ第四階層のようにエリア一帯を毒で覆うこともできる。簡単に魔術師の真似事ができるわけだ。いや、用途次第じゃそれ以上もある。あとは自分が自爆しないように備えればいいだけだ。
「そんな一朝一夕で習得できるようなことじゃなくない?」
それが私の第一印象だ。思いついたからといって出来てたら世にいる『空間収納』スキルの持ち主は全員アイテムの複製を実現してる。つまり、やろうと思って出来ることじゃない。
しかも、時間がないと言ってるのに、未習得の技能をこの場で覚えろって無茶振りにもほどがある。それに、私もレオのことを言えたもんじゃない。それほど私も要領はよくないんだ。
「おまえ、フィジカルで勝ってるのになんで私に遅れを取ってるか理解してる?」
「またバカだからって言うんでしょ」
「そんな……正解するなんて……!」
「喧嘩売ってる?」
「戦いへの考え方を根本から叩き直さないと勝てないよ。おまえは受け身になるか、早期決着を狙うかの両極端だからすぐに相手に見抜かれる。共闘してるときは多少マシになるが、それも他人に合わせた結果だ。それも、親しい間柄のな。タイマンだと間違いなくボロが出る」
「……なんで分かるの?」
「言っただろ?私は人形を通しておまえらをずっと見ていた。観察できるほどにじっくりとな。おまえら一人一人の対策も出来てる。今のままじゃ相手にもならないよ」
「ズルじゃん」
ダンジョンの最下層に行くまでに一度も手の内を見せないでおくなんてことは不可能に近い。ダンジョンボスが人型だった場合、特に。そのうえ、このダンジョンは陰湿なうえに悪辣だ。ダンジョンの構造がもしダンジョンボスの性格を模しているなら、リーゼロッテはやるからには徹底的に相手の心を折る情け容赦ない人物である。
「だが、それだと私の良しとしない展開になる。アストレア様は慈悲深い。他国の民だからといって無碍に扱ったりしないし、滅んでしまっては嘆き悲しんでしまう。だからこそ、おまえには努力してもらわないといけない」
「努力っていっても……全然イメージ湧かないよ」
「つべこべ言わずにとっととやれ」
「うー、はあ、わかったよ」
アストレア女王とはすぐさま戦闘になったから彼女の人となりは分からずじまいだった。彼女が今のリーゼロッテみたいに完全とは言わなくてもまともに会話できる状態だったら、私も彼女に慈悲深さを感じるんだろうか。リーゼロッテが心から救われたという、自分を犠牲にしても守りたいとまで思わせた本来の彼女がどんな人物なのか少しだけ気になった。
同時に八騎士の全てのスキルを習得できたという彼女が最初じゃなくて最後に戦う相手だったとしたら、それほど絶望的な状況はないと想像してしまった。
私はアストレア女王のスキルである『シーカー』を持ってる。でも、それは進化する前で、進化してようやく他人のスキルを習得できるようになる『探究者』になる。言葉にするのは簡単だ。私には進化の兆しすら掴めてない。それなのに、『空間収納』スキルも今より先の形があるという。頭が爆発しそうだ。ネーヴと一緒にいられたらそれでいいはずだったのに何でこんな目に。
「ちなみに、おまえの魔剣はおそらく複製できない」
「は?」
「複製自体は出来る。だが、内包した魔力までは複製できない」
「じゃあ、何の意味があるの?」
「教えてもらってる側が文句を言うな。戦いの時までに私が教えたことを身につけろ。それ以外のことは考えるな。ネーヴを恋しがってるそのふんわりした思考も捨てろ」
「なんでわかったの!?」
「おまえほどわかりやすいやつは中々いない」
業を煮やしたのかリーゼロッテが私のお尻を蹴り始めた。
「や、やめろぉ!」
「うだうだ言ってるから分からせてるだけだ。いいから早くやれ」
口答えしても無駄だと今までの流れで理解できた。私は半べそをかきながらやれと言われたことをとりあえずやってみる。
すると、リーゼロッテに頭をガッと掴まれた。
「え、なに?」
「口で説明しても分からんだろ?私が手伝ってやるよ。私のスキルがなんだったか思い出せ」
あ、やばい。もしかしなくても『傀儡術』だ。即座に導き出された答えに私はこういう時だけ察しの良い自分を呪った。




