86.八騎士リーゼロッテ
「でも、そんな私を救い出してくれた人がいた。超がつくほどお節介で、その人の上に立つお方も同じぐらいお節介な人だった。なのに、私はその人の名前を思い出せないんだ。思い出せるのは、アストレア様とバカレオ、そして、エキドナのことだけだ。なぜか急に記憶が鮮明になった。なにかがあったに違いない。このダンジョンの限られた空間で私はずっと考えてた。外で何かが起きたんだ。だとしたら、何が起きた?私は知る必要がある。なぜなら、私にとってアストレア様も他の八騎士たちも家族同然だからだ。心も体もすり減った私の唯一の居場所だったからだ。ただの暗殺者になり果てた私に再び人間らしい感情を思い出させてくれた人たちだからだ」
リーゼロッテは続けた。
「なあ、オーステア。おまえは誰を殺した?アストレア様か……それとも、レオとかいうバカか?エキドナの名前には反応しなかったな。隠そうとしても無駄だ。瞳の動きでバレバレだぞ。突然、大切な人の名前を思い出すようになったんだ。だけど、ほんの一部でしかない。おかしいと思わないか?なんで三人のことしか思い出せないんだよ。最初に私に手を差し伸べてくれたあの人の顔も名前も思い出せないのに!だから、私は考えたんだ。何か法則があるって。そんな時に現れたのがヘクターだ。あいつは物分かりのいいやつだ。私がダンジョンの主であることを理解しながらも協力してくれた。でも、まさか見つかるとは思ってなかったよ。この短時間にさあ!ダンジョンを攻略した冒険者が都合よくあらわれるわけがないって諦めてたのに。なあ、オーステア。教えてくれ。誰を殺してきた?」
こいつ思ったよりやばいやつかもしれない。対面してるのが人形だから表情の一つも読めないのに、その声から狂気が見え隠れしてる。アストレア女王の名前を出すのは不味い。全身がそう訴えかけてる。リーゼロッテは自分の中で導き出した結論の答え合わせをしたいだけだ。無駄に感情を煽るような真似はしないほうがいい。だから、口に出すのはもう一人のほうの名前だ。
「レオだ。『闇魔法』のレオ」
「レオか!はは、そうか。やっぱりか。ダンジョンを攻略された奴からこの呪縛から解放されるんだ。そして、解放された奴の記憶が戻ってくる。オーステア、レオは強かったか?どんな攻撃をしてきた?あいつは脳筋だからな。スペック的には八騎士でトップクラスだけど、実際は私でも充分に戦えた。どんだけ術や技を覚えても使いこなせなかったら宝の持ち腐れだ。で、どんな攻撃をしてきた?」
「……触手みたいなのが自動的に攻撃してきたり、地面からでてきて拘束してきたり、あと分身してきた」
「それだけか?レオはそんなもんじゃないぞ。あのバカはバカだけど足りない頭をちゃんと努力で補ってた。でも、そうか。記憶が戻らないと本来の実力が発揮できないってことか。なら、おまえらはこの先もっと苦労することになるってことだな。なんたっておまえらは弱すぎるからな」
別に煽ってるわけじゃないのは声でわかった。リーゼロッテにとって率直な感想でしかないんだ。いつもだったら噛みついてるところだ。でも、私は肌で感じてる。目の前にいるのが人形でしかなく、リーゼロッテ本人じゃないというのに、私は目の前の非戦闘用人形にすら勝てない。第四階層にいた人形はお遊びでしかなかったんだ。
ヘクターは何をもってリーゼロッテに勝てると踏んでるんだろうか。あの自信は一体どこから湧いてくるんだ。
「リーゼロッテはどっちの味方なの?」
「どっちのってどっちだ?まあ、あえて言うならアストレア様が味方するほうの味方だ。おまえらが何と戦ってるのかは全然わからないけどな。直近で言うなら、私はおまえらに倒されるのはやぶさかじゃない。でも、きっと私本体がおまえらを見たら頭の中は闘争に縛られる。見てなくてもこのザマだからな。だから、むざむざとやられてやるわけにはいかないよ」
「っていうか、私たちが弱すぎるっていうけど、戦ってみないとわかんないじゃん」
「わかるよ。だって、第三階層からずっとおまえらを見てるからな。そうだ、オーステア。おまえがなんで弱いのか教えてやろうか?」
「参考までに聞くけど」
ちなみに全然私は自分のこと弱いと思ってない。確かにクリスタに負けてからちょっと自信はなくなってる。でも、冒険者の中じゃ上位にいる自信はある。
「頭が悪いからだよ」
「はあ!?あたま!?」
直球で悪口言われたんだけど?
しかも、リーゼロッテは実際の体じゃないのに腹を抱えて笑ってる。こいつ私の反応を愉しんでやがる。
「おまえには渇望がない。強くなりたい理由がない。才能にあぐらをかいてるだけだ。色んなことに関心が向かない。ネーヴという冒険者と一緒に旅できるだけの実力があればそれでいいと思ってる。つまり、向上心がないんだ。おまえはただ何となく、こうしてると頼られるからとか、こうしてれば喜ばれるとか、そういう意志の弱いふわっとした根拠の強さしか持ち合わせていない。自分自身がない。どうしようもないやつだ」
かつて聞いたこともないぐらいボコボコに言われてる。しかも、その全部に言い返すことが出来ないほど私の心をえぐった。




