84.落とし穴
「そういえば、ビビアナの魔術ってありゃ一体どんな原理なんだい?私も魔術を使うがあれほどの精度の魔術見たことがない。特に曲線を描いて相手を的確に射抜く雷の魔術は見ごたえのあるもんだった。ぜひ参考にしたいところだ」
「え、あ、あのー、無理だと思う……あ、あっ、別にけなしたいわけじゃなくて」
「いいよ、気にしない。
クリスタの質問にさっきまで意気揚々だったビビアナがいつもの調子に戻ってしまう。少しだけ同情する。クリスタの視線は本人がそのつもりがなくてもきついものがある。ビビアナには厳しいものがあるんだろうね。でも、私も彼女の魔術的素養については気になる部分であった。ビビアナには頑張ってもらいたい。
「私、そんなに魔術師としては優秀じゃないんです。ただスキルに恵まれただけ……私なんて大したことないよ。雷の魔術は珍しいだろうけど、燃費は悪いしそんなに撃てないし、すぐばてちゃうし。むしろクリスタさんの魔術のほうがすごいと思う。あんなに早くて密度の高い魔術初めて見た。それに、私と違って前で戦いながらだし」
「ビビアナ、そういうことを聞きたいわけじゃないと思うよ。拠点じゃ結局ビビアナがどんなスキルを持ってるか言わなかったし、ここまで来たんだから言っちゃってもいいんじゃない?ほんとは隠したいところだけど嘘ついてはぐらかしたところで納得しなさそうだし」
モネスが要領の得ないビビアナに対して助け舟を出す。
隠したいと言ってるということは相当に珍しいスキルだということだ。ネーヴと私が隠したようにビビアナも伏せておきたい事情があるんだろうね。そうなると、若干の罪悪感が芽生えなくもない。だって、私は『シーカー』のスキルのことを絶対に言えないし、ネーヴも『竜体化』のスキルを明かすつもりがないから。
「『空間把握』と『魔力操作』のスキルです。字面は地味だけど……『空間把握』は自分から半径15メートル以内なら、障害物で隔たれたところでも細かく認識できるスキルで、索敵にも使えることは使えるんだけど結構疲れるから魔術限定で使ってて。『魔力操作』は自分の手元から離れた魔力でも魔力の性質を自在に変化させることができるスキルで……これを駆使して『空間把握』と併用することで狙った敵を正確に仕留めることができます!」
そんなに長く喋る機会がないのかかなり覚束ない調子で説明してくれた。でも、言ってることはかなりえげつなかった。もし、モネスのスキルをビビアナがもってたら最強の魔術師が完成していたところだ。『空間把握』も『魔力操作』も魔術師なら喉から手が出るほどのスキルだ。魔術師の常識を覆す代物だ。隠したい理由もわかる。
「すごいね、それ。魔術師の抱える問題を一挙に解決できるじゃないか」
そうネーヴは言った。
「でしょー?ビビアナはすごいんだよ」
モネスは食器をもってないほうの腕をビビアナに回して抱き寄せた。ビビアナは照れてるのかはにかんで硬直してしまってる。
横を見てみると、クリスタは何やら考え込んでる様子だった。
「どうしたの?」
と私が声をかけるとクリスタは答えた。
「いや、スキルでできるんだからどうにか自力で再現できないか考えてた」
たくましい女だ。私ならスキルならしょうがないかと諦めてたところだ。そして、何が恐ろしいってクリスタは完全再現とはいかないけど、実現したいことをある程度形にしてしまうところだ。有言実行の権化なのだ。
「おーい、オーステア!おまえに頼みたいことがあんだがちょっといいか?」
一人で部屋の探索をおこなってたヘクターが私を呼んだ。ヘクターは玉座の裏を覗いてる。何か見つけたんだろうか。
ちょうどよかった。私もヘクターに聞きたいことがあった。リーゼロッテのことだ。最下層に近づくにつれて不安が大きくなってくる。ヘクターは私とリーゼロッテの対話に興味はなさそうだった。それでも、私たちにとっては何を聞き出せるかによって今後の方針が変わる可能性だってある。だから、ヘクターとリーゼロッテがどんな会話をしたのかとかを詰めていきたかった。きっと喋っていられる時間は限られる。いつリーゼロッテが発狂するかわからないんだから。
残り少なくなってた食事を一気に掻きこみ、ビビアナに感謝を伝えると私はヘクターのもとに向かった。なんだかすごく深刻そうな顔をヘクターはしてた。そんなに厄介な状況なら私じゃなく適任が他にいるだろうに、どうして呼んだのが私なんだろうか。
「おまえな。騙されやすいだろ?」
「は?どういうこと?」
「危機感がねえっていうかなんというか……まあ、今はそれはいい。そんなに大事なことじゃねえからな。だが、これだけは言わせてくれ。おまえが人間嫌いだってことをなんで知ってるのかおまえは疑わなかった。もっとそういうところに注意を払ったほうがいいぞ」
言われてみれば確かにそのとおりだ。私の過去はある程度調べがついてるだろうけど、だからって人間嫌いであるかは公言してない。冒険者に復帰した以上人付き合いはあるし、そこは避けられないから我慢してるだけで、嫌いであることは変わりない。
じゃあ、なんでこの男は知ってるんだ?
「今その話をする理由は何?確かに私が不注意だったのは認めるけどこのタイミングでそれを言うってちょっと怪しいよ」
「簡単なことだ。少しでも信用してほしいからだ。俺の目的は最初から一貫してる。ここから全員無事生還できることだ。そこだけは疑うなよ?」
なぜ釘をさす必要があるのか、その理由を理解するのに時間は必要なかった。
ヘクターが壁のくぼみがあるところを押すと、私が立ってる部分の床が抜けた。落とし穴だ。見事に私だけがその穴に吸い込まれた。
「もう一度言うぞ。俺を信じろ」
「はぁ!?」
何か言い返す前に視界からヘクターが遠のいていった。




