81.毒の領域
いよいよ到着した第四階層は情報どおり城の中だった。そして、ヘクターがこれ以上進めなかった理由を今になって知ることになる。
これこそ拠点での情報共有の場で報告しなきゃいけなかったことなんじゃないかと思う。でも、ヘクター的には自分が知ってれば問題ない情報なんだろう。確かに言われたところで対策できるかと言えば出来ないことではあった。
どういうことかというと、第四階層には毒の煙が充満していた。
毒といっても第三階層の敵が武器に塗っていた毒のような強いモノじゃなくて、徐々に体力を奪っていくような、しかし、長居すれば確実に命を削るような毒だ。何が厄介かってその毒の煙に思考を妨げられながら罠の解除をしなければいけないことだ。しかも、合間合間に例の人形の強襲に遭う。人形は殺しにくるというより、冒険者たちから正常な判断を損なわれるためにプレッシャーをかけるような動きだ。
とんでもなくえげつないダンジョンだ。こんなの普通の神経じゃ攻略できない。進めば進むほどモネスの重要度が上がっていく。毒の煙程度の毒だったらクリスタやビビアナにも解除できるけど、相当な頻度で人数分の解毒をしないといけないとなると明らかに魔力が足りなかった。戦闘に回す分も考えるとモネスに一任したほうがいい。
唯一この毒の空間から逃れる方法は、高い場所に移動することだけだ。
この城は本来の城とは違い、迷宮化しているため、同じ場所が繰り返されたり、無理矢理つなぎ合わせたかのような歪な通路があったりする。その中には城壁にのぼるための階段や梯子もあったりする。その先に行くと基本的には行き止まりだ。毒の煙がない場所はただの休憩地点でしかないわけだ。でも、ないよりマシだった。
今、私たちがいる場所も城壁の通路だ。
下は広場になってて毒の煙が漂ってる光景に辟易してきた。みんなそれには同感のようで、下を見ては渋い顔を前面に押し出した。第三階層までの攻略はトラブルこそあったものの順調だった。もう時間の感覚はほとんどないけど、半日は経ってる気がする。
そして、最悪なことが多い中でさらに追い打ちをかけるのが罠の多さだ。
ヘクターとクリスタが罠の発見と解除を担当してるけど、その数が尋常じゃなく多い。十歩もしないうちに次の罠に遭遇する。二重三重に仕掛けてあることだってある。罠を解除したら別の罠が発動することもあった。そのまま無視できる罠もあるけど、無視するにしても目印をつけておかないと引き返したタイミングで罠にかかってしまう可能性だってある。何らかの事情で罠の警戒ができない状況なら尚更だ。
そんなこともあって、攻略は遅々として進まなかった。
その中でも唯一希望となることが一つあった。他の階層にあったような階層の侵食がないことだ。第二階層に第三階層の魔物がでて、第三階層には第四階層の魔物がでた。でも、この第四階層にはそれらしき兆候がない。つまり、この階層の次が最下層である可能性が高い。
「ヘクター、聞きたいんだけど」
「なんだ?おまえから声かけてくるなんてな。人間が嫌いなんじゃなかったのか?」
「嫌いでも会話ぐらい出来るよ!」
最低限の会話はしてるつもりだ。今更そんなこと言ってくるなんて絡みづらいなあ、まじで。この男はこうやって相手の神経を逆撫でさせて会話を自分のペースに持ってくのが常套手段なんだ。把握した。このまま会話を終わらせたい気持ちが強まったけど、どうしても腑に落ちないことがあった。
「リーゼロッテが私に会いたがってるって話だけど、そもそも会話が出来る状態なの?途中で襲われるなんてことになったらイヤなんだけど?」
「さあな?おまえをここに連れてくることが必要条件だった。リーゼロッテと会話をすることはさほど重要じゃない。ただそれだけの話だ。むしろあんたらのほうがリーゼロッテに聞きたいことがあんじゃねえのか?ダンジョン攻略を積極的におこなってるようだしな」
それはそのとおりだ。今までの言葉をそのまま汲みとるなら、ヘクターはリーゼロッテとの約束を果たす代わりにダンジョン攻略を楽にさせてもらってるに過ぎない。最下層に辿り着けさえすればいい。だから、リーゼロッテと私の間に何があろうと知ったことじゃないんだ。私たちはダンジョン攻略という共通の目的のために一緒にいるだけで全てが同じというわけじゃない。
ただヘクターは全員を生存させることだけは約束した。私を騙してリーゼロッテに捧げるような真似はしない。そう信じたい。
「人形が活動しだした。よし行くぞ」
リーゼロッテ人形が動いている間だけ攻略を進める。ヘクターの指示のもと私たちは動き出した。毒の煙の中で襲われるよりは、罠も毒もない場所で敵襲に遭うほうがマシだからだ。
あとどれだけ進めば最下層にいけるんだろう。せめて半分は過ぎててほしいな。




